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第2部 4章
43 城内見物②
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しばらくはアリシアの侍女たちとアンナが自己紹介し合う時間だった。
所属が違っているのでどちらの方が役職が高い、ということはないが、やはりアリシアの信頼を得ているエレノアたちのほうが立場が強くなる。1人居心地が悪そうにしていたアンナだったが、城内を歩きながらエレノアたちとも言葉を交わす内に段々馴染んでいた。
侍女たちには他にも仕事があるので部屋へ残してきた侍女もいる為、アリシアに同行していた侍女は3人で、エレノアの他はドナとジーナという。
2人もエレノアと同じくアリシアの輿入れに合わせて雇われた侍女で、その時からアリシアを主と心得ていた。子爵家の令嬢である。
一方アンナは近隣の領地を治める男爵家の令嬢で、学園を卒業後、メトワで直接雇用されていた。王都に出ることはほとんどなく、アリシアのことはやはり絵姿でしか知らなかったという。
それでもはきはきしていて動きがよく、礼儀作法もしっかりしている。ヘレンが推薦しただけのことはある、と納得できる侍女だった。
そうして程よく和んだところで、アンナが意を決したように口を開いた。
「妃殿下、先程はアニーが大変失礼致しました。申し訳ありません」
「アニー?」
アリシアはその名前に心当たりがない。
だけどアンナに、「……妃殿下に直接話し掛けたメイドでございます」と言われて頷いた。
「それならもう気にしてないわ」
アリシアは実際のところ、あのメイドに腹を立てたわけではなかった。
ただ他の使用人たちを黙らせる良い見せしめになると思っただけだ。
そういう意味では生贄となったあのメイドを気の毒に思う気持ちもある。
あのメイド――アニーが言った言葉は、あの場にいた者たちのほとんどが考えていたことだろう。
アニーは皆を代表して声を上げたつもりだったのかもしれない。
なぜ皆噂するだけで直接アリシアへ告げないのか、その理由に思い至らなかったのはアニー自身の落ち度だが、他の者たちも噂話がアリシアの耳に入っても構わないと思っていたのだ。それほど使用人たちの態度は露骨だった。
そんな部下たちを咎めないヘレンやリアーナも、言葉には出さなくても同じ様に思っていたに違いない。
そしてアニーはそのことに気がついていた。
だからこそアニーは、あんな厳しい処罰を受けることになると思わず、同じ話題で盛り上がっていた仲間に見捨てられるとも思わなかったのだ。
そんなアニーへ僅かながら同情を寄せるアリシアだったが、ドナやジーナは違うようだ。
「妃殿下はお優しすぎます。もっとお怒りになってもよろしいのですよ」
「そうですわ。大体この城の者たちは皆無礼すぎます」
ドナとジーナが次々と怒りの声を上げる。エレノアも言葉にはしないが思うところがあるようで、2人を止めることなく静かにお茶を飲んでいた。
部下を咎めないことで自身の気持ちを表すのはヘレンやリアーナと同じ手法である。
侍女たちはこの城で随分嫌な思いをしていたようだ。
様子がおかしいことに気がつきながらも自分のことを優先していたアリシアは、不満を爆発させる侍女たちに苦笑するしかない。
「本当に申し訳ありません」
アンナが身を縮こませる様にして再度頭を下げる。
だけどドナとジーナがすぐに止めた。
「アンナ様が謝ることはありませんわ」
「そうですわ。アンナ様は他の者たちとは違って一度も嫌な態度を取りませんでしたもの」
2人の言葉にアンナは曖昧な表情を浮かべるだけで応えない。
そう、きっとアンナも同じなのだ。
言葉や態度に表さないだけで、同じことを思っていた。
いや、きっと今も思っている。
「もう謝らなくて良いわ。私は本当に気にしていないし、おかげで私の推測が正しいとわかったもの」
「え?」
声を上げたのは誰だったのか。
アンナだけではなくそこにいた全員が驚いた視線をアリシアへ向けていた。
所属が違っているのでどちらの方が役職が高い、ということはないが、やはりアリシアの信頼を得ているエレノアたちのほうが立場が強くなる。1人居心地が悪そうにしていたアンナだったが、城内を歩きながらエレノアたちとも言葉を交わす内に段々馴染んでいた。
侍女たちには他にも仕事があるので部屋へ残してきた侍女もいる為、アリシアに同行していた侍女は3人で、エレノアの他はドナとジーナという。
2人もエレノアと同じくアリシアの輿入れに合わせて雇われた侍女で、その時からアリシアを主と心得ていた。子爵家の令嬢である。
一方アンナは近隣の領地を治める男爵家の令嬢で、学園を卒業後、メトワで直接雇用されていた。王都に出ることはほとんどなく、アリシアのことはやはり絵姿でしか知らなかったという。
それでもはきはきしていて動きがよく、礼儀作法もしっかりしている。ヘレンが推薦しただけのことはある、と納得できる侍女だった。
そうして程よく和んだところで、アンナが意を決したように口を開いた。
「妃殿下、先程はアニーが大変失礼致しました。申し訳ありません」
「アニー?」
アリシアはその名前に心当たりがない。
だけどアンナに、「……妃殿下に直接話し掛けたメイドでございます」と言われて頷いた。
「それならもう気にしてないわ」
アリシアは実際のところ、あのメイドに腹を立てたわけではなかった。
ただ他の使用人たちを黙らせる良い見せしめになると思っただけだ。
そういう意味では生贄となったあのメイドを気の毒に思う気持ちもある。
あのメイド――アニーが言った言葉は、あの場にいた者たちのほとんどが考えていたことだろう。
アニーは皆を代表して声を上げたつもりだったのかもしれない。
なぜ皆噂するだけで直接アリシアへ告げないのか、その理由に思い至らなかったのはアニー自身の落ち度だが、他の者たちも噂話がアリシアの耳に入っても構わないと思っていたのだ。それほど使用人たちの態度は露骨だった。
そんな部下たちを咎めないヘレンやリアーナも、言葉には出さなくても同じ様に思っていたに違いない。
そしてアニーはそのことに気がついていた。
だからこそアニーは、あんな厳しい処罰を受けることになると思わず、同じ話題で盛り上がっていた仲間に見捨てられるとも思わなかったのだ。
そんなアニーへ僅かながら同情を寄せるアリシアだったが、ドナやジーナは違うようだ。
「妃殿下はお優しすぎます。もっとお怒りになってもよろしいのですよ」
「そうですわ。大体この城の者たちは皆無礼すぎます」
ドナとジーナが次々と怒りの声を上げる。エレノアも言葉にはしないが思うところがあるようで、2人を止めることなく静かにお茶を飲んでいた。
部下を咎めないことで自身の気持ちを表すのはヘレンやリアーナと同じ手法である。
侍女たちはこの城で随分嫌な思いをしていたようだ。
様子がおかしいことに気がつきながらも自分のことを優先していたアリシアは、不満を爆発させる侍女たちに苦笑するしかない。
「本当に申し訳ありません」
アンナが身を縮こませる様にして再度頭を下げる。
だけどドナとジーナがすぐに止めた。
「アンナ様が謝ることはありませんわ」
「そうですわ。アンナ様は他の者たちとは違って一度も嫌な態度を取りませんでしたもの」
2人の言葉にアンナは曖昧な表情を浮かべるだけで応えない。
そう、きっとアンナも同じなのだ。
言葉や態度に表さないだけで、同じことを思っていた。
いや、きっと今も思っている。
「もう謝らなくて良いわ。私は本当に気にしていないし、おかげで私の推測が正しいとわかったもの」
「え?」
声を上げたのは誰だったのか。
アンナだけではなくそこにいた全員が驚いた視線をアリシアへ向けていた。
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