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第2部 4章
51 余興
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晩餐は滞りなく進んだ。
彼らは何か問題を起こしてこの場を台無しにしたいわけではない。初めは静まりかえっていたが、代官であるホーキンス子爵が口火を切って話し出したことで、あちらこちらから話声が聞こえるようになっていった。
そうなるとこれも貴族社会の嗜みということか、アリシアに意地の悪い声を掛ける者もあった。
彼女は供された食事を褒め称えつつ、こう言ったのだ。
「素晴らしいお料理で感激致しましたわ。流石は妃殿下。領内のことをよく把握しておられるのですね」
彼女は料理を褒め、そして領内の名産物ばかりが使われたメニューと、それを決めたアリシアの博識さを褒め称えているのだ。
実際前菜で使われた野菜は領地の特産品であり、魚料理で使われた鰆も領内の漁港で獲れたものをそのまま運んできている。今食べている鴨肉も、領内で獲られたものだ。メトワの鴨猟は有名である。
どれも美味しく素晴らしい料理なのは間違いない。
ただアリシアはメニューを決めていない。
メニューを決め、食材の手配をしたのはトーマスだ。
メトワに着いてからメニューを決めていたのでは間に合わない。
そしてアリシアは王都から指示できるほどこの城の者に認められていないし、招待客たちの好みを把握できていない。
彼女は、いやこのテーブルにいる者たちは皆それを知っているのだ。
その上でアリシアの反応を窺っている。にやにや笑う顔もあれば、不安げに視線を伏せた者もいた。
ここでアリシアが自分の手柄にしても、それを指摘する者はいないだろう。
ただ陰で嗤うだけだ。
「褒めて頂いて嬉しいわ。だけど今日のメニューを決めたのは執事のトーマスよ。称賛は是非彼に。それとシェフのモーガンにね」
「っ!!」
アリシアが笑顔でそう言うと、夫人は息を飲んだ。
ここで嘘を吐く必要はない。
そんなことをして点数稼ぎをする必要はないのだ。
ただ彼女はなぜそんなことを言い出したのか。
考えるまでもなく1つの結論にたどり着いた。
ここにいる者たちは、アリシアが視察に同行することになった理由を知らない。
何の説明を受けることもなく中央の情報も手に入れにくい彼女たちは、レイヴンがアリシアへ向ける寵愛を知らないのだ。そんな彼女たちが、この城の使用人と同じように考えていたとしてもおかしくなかった。
そう、まだ子どものいない正妃が、目が届かないところで側妃を選ばれるのが怖くて強引について来た、と。
彼女たちが思う傲慢な妃なら、自分の手柄にして愉悦に浸っていたかもしれない。
そして彼女たちはそんなアリシアを見て嗤いたかったのだ。
「ま、まあ、そうですの……」
当ての外れた夫人は気まずそうに視線を逸らした。
笑顔のままアリシアが視線を巡らせると、慌てて目を伏せる夫人が何人もいた。
だけど楽し気に顔を輝かせる夫人も沢山いた。
もしかしたらこのこと自体が余興なのかもしれない。
社交界から離れた彼女たちは、久しぶりの刺激を楽しんでいるのだ。
彼らは何か問題を起こしてこの場を台無しにしたいわけではない。初めは静まりかえっていたが、代官であるホーキンス子爵が口火を切って話し出したことで、あちらこちらから話声が聞こえるようになっていった。
そうなるとこれも貴族社会の嗜みということか、アリシアに意地の悪い声を掛ける者もあった。
彼女は供された食事を褒め称えつつ、こう言ったのだ。
「素晴らしいお料理で感激致しましたわ。流石は妃殿下。領内のことをよく把握しておられるのですね」
彼女は料理を褒め、そして領内の名産物ばかりが使われたメニューと、それを決めたアリシアの博識さを褒め称えているのだ。
実際前菜で使われた野菜は領地の特産品であり、魚料理で使われた鰆も領内の漁港で獲れたものをそのまま運んできている。今食べている鴨肉も、領内で獲られたものだ。メトワの鴨猟は有名である。
どれも美味しく素晴らしい料理なのは間違いない。
ただアリシアはメニューを決めていない。
メニューを決め、食材の手配をしたのはトーマスだ。
メトワに着いてからメニューを決めていたのでは間に合わない。
そしてアリシアは王都から指示できるほどこの城の者に認められていないし、招待客たちの好みを把握できていない。
彼女は、いやこのテーブルにいる者たちは皆それを知っているのだ。
その上でアリシアの反応を窺っている。にやにや笑う顔もあれば、不安げに視線を伏せた者もいた。
ここでアリシアが自分の手柄にしても、それを指摘する者はいないだろう。
ただ陰で嗤うだけだ。
「褒めて頂いて嬉しいわ。だけど今日のメニューを決めたのは執事のトーマスよ。称賛は是非彼に。それとシェフのモーガンにね」
「っ!!」
アリシアが笑顔でそう言うと、夫人は息を飲んだ。
ここで嘘を吐く必要はない。
そんなことをして点数稼ぎをする必要はないのだ。
ただ彼女はなぜそんなことを言い出したのか。
考えるまでもなく1つの結論にたどり着いた。
ここにいる者たちは、アリシアが視察に同行することになった理由を知らない。
何の説明を受けることもなく中央の情報も手に入れにくい彼女たちは、レイヴンがアリシアへ向ける寵愛を知らないのだ。そんな彼女たちが、この城の使用人と同じように考えていたとしてもおかしくなかった。
そう、まだ子どものいない正妃が、目が届かないところで側妃を選ばれるのが怖くて強引について来た、と。
彼女たちが思う傲慢な妃なら、自分の手柄にして愉悦に浸っていたかもしれない。
そして彼女たちはそんなアリシアを見て嗤いたかったのだ。
「ま、まあ、そうですの……」
当ての外れた夫人は気まずそうに視線を逸らした。
笑顔のままアリシアが視線を巡らせると、慌てて目を伏せる夫人が何人もいた。
だけど楽し気に顔を輝かせる夫人も沢山いた。
もしかしたらこのこと自体が余興なのかもしれない。
社交界から離れた彼女たちは、久しぶりの刺激を楽しんでいるのだ。
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