【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 4章

54 長い1日の終わりに

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 寝室へ入るとレイヴンがすぐに傍へ来た。ここで抱き上げられてベッドへ運ばれるのが最近の決まりになっている。
 だけど今日はアリシアをぎゅっと抱き締めたまま動かない。
 しばらくそうした後に、耳元でくぐもった声が聞こえた。

「今日は嫌なことがいっぱいあったと思うから……」

 それを聞いた瞬間、アリシアの胸がドキンと大きく音を立てた。
 動揺を悟られないよう震えそうになる体を必死に抑える。

 だけどアリシアはすぐに気がついた。
 レイヴンは肖像画の部屋であったことを知らない。レイヴンが言っているのは使用人とのトラブルや、晩餐会で夫人方から悪意的な興味を向けられたこと、それにレイヴンの気を引こうと群がる少女たちのことだ。
 それならアリシアは気にしていない。

「大丈夫ですわ。私は何とも思っておりません」

 むしろこれまで気づかなかったことが不思議な程だ。
 どこの家でも新しい女主人が来るとなれば、どういう人物なのか気にするだろう。アリシアもディアナの話を聞いた時、人となりが気になった。
 それがこれまで守られてきた慣例を破らせるような人物であれば、悪い想像が膨らみやすい。
 少し考えればわかることだった。
 
 夫人方のことも同じである。
 それに加えて、地方には中央の噂が数か月遅れて届くという。もしかしたら夫人方はレイヴンとジェーンの噂を聞いたばかりなのかもしれない。
 だからアリシアのドレスや仲睦まじい様子の2人にあれほど驚いていたのだろう。

 そして何より令嬢たちのことである。
 道中のことも含めて、アリシアはこれまで何も考えていなかった。 
 王太子と身近に触れ合えるのだから、寵愛を得たいと願う令嬢にとって最大のチャンスに違いない。領地の少女たちも同じことで、レイヴンに見初められれば玉の輿だと考えるのは当然だった。

 これまでまったく気づかなかったのは、それだけレイヴンの周りに興味がなかったということだ。
 そしてレイヴンが気づかせないように振舞ってくれていた。
 それを自覚できただけでも、視察に同行して良かったと思える。

「僕はアリシアに近づこうとする男たちにすごく嫉妬したのに、アリシアは妬いてくれないの?」

「そうでしたわね」

 拗ねたようなレイヴンの言葉にアリシアを思わず笑ってしまう。
 初めは男たちがにじり寄ろうとする度にアリシアの腰を引き寄せていたレイヴンだったが、しばらくすると相手は貴族のマナーを知らないのだから、と開き直ったのか、その動きは大胆になっていった。
 肩を抱き寄せ、耳元で囁き、最後には腕を絡ませて手を握ったまま離さない。一部の貴族たちは目を丸くしていたけれど、周りの状況を見て飲み込んでくれたようだった。

「私はレイヴン様が傍にいて下さったので嫉妬せずに済みましたわ」

 レイヴンのその動きは、レイヴンを囲む少女たちにも効果があった。
 伸ばした手をさり気なく躱されるより、分かり易くアリシアへの寵愛を示されたことで見込みがないと悟ったようだ。

 ただ2人の元を訪れたのは下心のある者だけではない。
 いや、彼らにも下心はあったけれど、それは己が携わる仕事を知って欲しい、認められたい、というものだった。
 彼らは腕を絡ませて手を握り合う2人に顔を引き攣らせていたけれど、誇りを持つ仕事について熱心に語ってくれた。その内のいくつかのところへは、街の視察に出た時に訪れようと思っている。

「それじゃあ良かった……、と思うべきなのかな」

 レイヴンは、アリシアが嫌な思いをしなかったことを喜びながら、嫉妬されなかったことが複雑なようだ。
 そんなところにもレイヴンの愛情が感じられて心が温かくなってくる。
 自然と笑みを浮かべたアリシアに、レイヴンはちゅっと音をたてて口づけた。ひょいと抱き上げてベッドまで運ぶ。

「それじゃあ寝ようか」

 紳士的に微笑むレイヴンの夜着をアリシアが掴む。

「眠るのですか?」

 明日、アリシアが疲れていなければ、という約束がある。
 上目遣いに見上げられて、レイヴンの頬が染まった。

「……疲れてない?」

 アリシアが頷くとレイヴンの唇が重なった。

 眠るまでには少し時間が掛かりそうである。
 


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