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第2部 4章
55 朝食の席で
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2日目の朝食はサンルームで摂ることにした。
こちらの建物にもサンルームはあり、中庭に広がる庭園を眺めることができる。
別に自室に拘ることはないのだ。王城に滞在できる時間は限られているのだから、時間は有効に使った方が良い。
勿論レイヴンも、アリシアがサンルームで食事を摂りたいと言うなら否やはない。
2人は揃ってサンルームへ向かった。
サンルームには朝の光が降り注いでいた。
テーブルがセットされたとろこから庭園の美しい花々が良く見える。
王太子宮のアリシアの部屋から見下ろす庭園も見事だが、こちらはまた違った趣があった。
「妃殿下、ショールをお持ち致しましょうか」
レイヴンが少し席を外した時だ。エレノアがそっと近づき、アリシアに訊いた。
初冬のメトワの朝は冷える。
アリシアの部屋は暖炉に火が入れられ温かいが、サンルームには暖炉がない。
昼になれば暖炉が必要ない程暖かくなるけれど、今の時間はまだひんやりと感じられた。
「ええ、そうね。お願いしようかしら」
アリシアがそう答えると、ジーナがさっと腰を下げて部屋へ取りに行く。
それほど経たずにすぐ戻ってきた。
「お寒いですか?」
そう話し掛けて来たのは、ジーナと同じタイミングでサンルームへ入ってきた給仕の侍従だった。
昨日のアニーの事件を知らないのか、アリシアは話し掛ける許可を与えていない。
「この辺りでは、この時期はまだ暖かい方なんですけどね。王都の方は真冬に雪が降り積もった景色なんてご存知ないでしょうね」
「あなた…っ!」
気色ばむジーナをアリシアは手で制する。
アリシアは今、「田舎のことなど何も知らないだろう」と馬鹿にされたのだ。
見た目に触れることは止め、アリシア自身を攻撃してきたともいえる。
「あら、ご存知ないかしら?ルトビア公爵家にはジュトーという領地があるのよ。最もあそこはもう今の時期には雪に埋まっているでしょうけどね」
ジュトーというのは、メトワから見ても随分北に離れた土地である。冬が長く雪深い土地柄で、今の時期にはもう雪で埋まってしまっている。
アリシアは幼い頃に2、3度訪れたことがあるだけだが、その雪の多さに圧倒されてしまった。
ただメトワと比べる土地としては、あまりにも極端な場所ではある。
「公爵家にはジュトー出身の使用人がいるのだけど、彼に教えられる雪の対策はどれも興味深かったわ」
王都は雪に弱い。
あまり雪が降らない為に、数年に一度大雪が降るとすべての流通が止まってしまう。貴族街を馬車が走ることさえできなくなってしまうのだ。
だけどジュトーでは雪の中でも人々が生活をしている。
その生活の知恵を1つ2つ教えられるだけで、雪の中でも歩けるようになり、馬車を出せるようになった。
王都の邸の使用人たちに「雪かき」を教えたのも彼である。
「なんだか随分興味深い話をしているね?」
「レイヴン様」
いつの間にかレイヴンが戻ってきていた。
アリシアと侍従の会話を隠れて聞いていたようだ。
「確かにルトビア公爵家では大雪が降っても事業に支障がないようだった。公爵家が持つ商会でも、品が不足したことは聞いたことがない」
レイヴンは従僕の存在を無視したままアリシアの隣へ座った。
「ごめんね、寒かった?」と顔を曇らせるレイヴンに、アリシアは「大丈夫ですわ」と笑顔で答える。
「ルトビア公爵家が雪に強いのは、彼のおかげですわ。改善策を練るには詳しい者に話を聞くのが一番ですもの」
ジュトーに比べれば何でもない降雪量でも、慣れていない王都の人たちは右往左往するばかりだ。
完全に雪がなかったことにはできないけれど、対応策はある。
雪でも変わらず商品を運び込むことができるおかげで、随分と儲けることができた。
「雪深い土地を領地に持つのは、ルトビア公爵家だけではないのですけどね…?」
残念なことに他の貴族が領地民の知恵を活かしている様子を見たことはなかった。
こちらの建物にもサンルームはあり、中庭に広がる庭園を眺めることができる。
別に自室に拘ることはないのだ。王城に滞在できる時間は限られているのだから、時間は有効に使った方が良い。
勿論レイヴンも、アリシアがサンルームで食事を摂りたいと言うなら否やはない。
2人は揃ってサンルームへ向かった。
サンルームには朝の光が降り注いでいた。
テーブルがセットされたとろこから庭園の美しい花々が良く見える。
王太子宮のアリシアの部屋から見下ろす庭園も見事だが、こちらはまた違った趣があった。
「妃殿下、ショールをお持ち致しましょうか」
レイヴンが少し席を外した時だ。エレノアがそっと近づき、アリシアに訊いた。
初冬のメトワの朝は冷える。
アリシアの部屋は暖炉に火が入れられ温かいが、サンルームには暖炉がない。
昼になれば暖炉が必要ない程暖かくなるけれど、今の時間はまだひんやりと感じられた。
「ええ、そうね。お願いしようかしら」
アリシアがそう答えると、ジーナがさっと腰を下げて部屋へ取りに行く。
それほど経たずにすぐ戻ってきた。
「お寒いですか?」
そう話し掛けて来たのは、ジーナと同じタイミングでサンルームへ入ってきた給仕の侍従だった。
昨日のアニーの事件を知らないのか、アリシアは話し掛ける許可を与えていない。
「この辺りでは、この時期はまだ暖かい方なんですけどね。王都の方は真冬に雪が降り積もった景色なんてご存知ないでしょうね」
「あなた…っ!」
気色ばむジーナをアリシアは手で制する。
アリシアは今、「田舎のことなど何も知らないだろう」と馬鹿にされたのだ。
見た目に触れることは止め、アリシア自身を攻撃してきたともいえる。
「あら、ご存知ないかしら?ルトビア公爵家にはジュトーという領地があるのよ。最もあそこはもう今の時期には雪に埋まっているでしょうけどね」
ジュトーというのは、メトワから見ても随分北に離れた土地である。冬が長く雪深い土地柄で、今の時期にはもう雪で埋まってしまっている。
アリシアは幼い頃に2、3度訪れたことがあるだけだが、その雪の多さに圧倒されてしまった。
ただメトワと比べる土地としては、あまりにも極端な場所ではある。
「公爵家にはジュトー出身の使用人がいるのだけど、彼に教えられる雪の対策はどれも興味深かったわ」
王都は雪に弱い。
あまり雪が降らない為に、数年に一度大雪が降るとすべての流通が止まってしまう。貴族街を馬車が走ることさえできなくなってしまうのだ。
だけどジュトーでは雪の中でも人々が生活をしている。
その生活の知恵を1つ2つ教えられるだけで、雪の中でも歩けるようになり、馬車を出せるようになった。
王都の邸の使用人たちに「雪かき」を教えたのも彼である。
「なんだか随分興味深い話をしているね?」
「レイヴン様」
いつの間にかレイヴンが戻ってきていた。
アリシアと侍従の会話を隠れて聞いていたようだ。
「確かにルトビア公爵家では大雪が降っても事業に支障がないようだった。公爵家が持つ商会でも、品が不足したことは聞いたことがない」
レイヴンは従僕の存在を無視したままアリシアの隣へ座った。
「ごめんね、寒かった?」と顔を曇らせるレイヴンに、アリシアは「大丈夫ですわ」と笑顔で答える。
「ルトビア公爵家が雪に強いのは、彼のおかげですわ。改善策を練るには詳しい者に話を聞くのが一番ですもの」
ジュトーに比べれば何でもない降雪量でも、慣れていない王都の人たちは右往左往するばかりだ。
完全に雪がなかったことにはできないけれど、対応策はある。
雪でも変わらず商品を運び込むことができるおかげで、随分と儲けることができた。
「雪深い土地を領地に持つのは、ルトビア公爵家だけではないのですけどね…?」
残念なことに他の貴族が領地民の知恵を活かしている様子を見たことはなかった。
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