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第2部 4章
58 病院巡り②
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街ではやはり風向きが違っていた。
街の人たちは歓迎の様子を見せるものの心からのものではなく、形だけというのが伝わってくる。
向けられた目は、こんなことろへ何をしに来たのかと語っていた。
だけどアリシアには彼らに向けてできることなど何もない。
今できることは、彼らの持つイメージを少しでも改善することだけだ。
だからアリシアは何も気づかない振りをして、いつも通りの王太子妃の笑顔で通り過ぎた。
王領1の街だけあって、街中は人出が多く賑わっていた。屋台には品物が溢れ、呼び込みをする商人の声も聞こえてくる。
アリシアは王都の街もあまり知らない。いつも病院や孤児院の慰問へ行く時に通り過ぎるだけで、ちゃんと街中を歩いたのはレイヴンと出掛けた時だけだ。
だから他の街と比べてどう、ということはできないが、活気が溢れていて良い街だと思えた。
訪れた診療所が3件目にもなると、人々の見る目がまた少し変わって来た。
1件目の時は、「まさか具合が?」と訝しんでいた人たちも、3件目になると目的が診察ではないとわかる。
メトワの診療所はさすがにどこも患者で溢れていて、すぐに医師と話すことはできなかった。
アリシアの立場であれば、患者を後まわしにさせることもできる。実際に患者をすべて帰そうとした医師もいた。
だけどアリシアはそれを許さず、患者と同じ様に待合室で順番を待つと伝えた。
順番を待つ間に、アリシアはそこにいる患者たちと交流を持つことにした。
患者たちの中にはアリシアの存在に恐れおののき、満足に話せない者もいる。病気を移すのではないかと恐れる者もいた。
だけどアリシアにとっては、王都で行っている病院への慰問と同じである。
もちろん皆、具合が悪かったり怪我をしていたりするので楽しい交流にはならない。
だけど人は少なからず、いつから具合が悪いのだとか、どうして怪我をしてしまったのかとか話したがるものだ。
アリシアはそんな話を1人1人丁寧に聞いていく。
そうしている内に、初めは話せなかった者も少しずつ話をしてくれるようになっていった。
具合が悪くて言葉を交わせない人には、額に手を当てて「早く良くなるように」と言葉を掛ける。「何をしに来たのか」と直接訊いてくる人には、取り組みについて話せるだけ話した。
王都にある学校について、「俺の息子でも入れるのか」と言う人には、「ええ、勿論よ」と笑顔で答える。ただ問題があるとすれば、彼に学校の費用が払えるか、だろう。
帰る時には医師だけではなく何人もの患者が見送りに出てくれた。先に診察を終えて帰ったはずの人が表で待ってくれていることもあった。
馬車を見送り、手を振る彼らの表情は明るい。
ここを訪れた時に向けられた、胡散臭い者を見るような目は消えていた。
街の人の中には、アリシアが何をしに来たのか医師に訊く者もいた。
医師は「あまり話を広めることはできない」と言葉を濁しながらも、「妃殿下は国民のことを良く考えて下さっている」と、施策の断片を話した。居合わせた患者たちも、アリシアとの交流について人に話す。
この後アリシアが建てた学校の話は、日にちを掛けて街の人々に広まることになった。
街中の診療所の訪問を終えたアリシアは、最後に王立病院へ向かうことにする。
時間が遅くなってしまったけれど、診療時間が終わる頃でもある。
彼との話はきっと長くなるだろうけれど、話が終わった後は病院内の設備を確認し、入院患者たちの慰問もしたい。
アリシアはこれからの予定を頭の中で確認しながらも、遅くなってはレイヴンが心配するだろうな、と考えていた。
街の人たちは歓迎の様子を見せるものの心からのものではなく、形だけというのが伝わってくる。
向けられた目は、こんなことろへ何をしに来たのかと語っていた。
だけどアリシアには彼らに向けてできることなど何もない。
今できることは、彼らの持つイメージを少しでも改善することだけだ。
だからアリシアは何も気づかない振りをして、いつも通りの王太子妃の笑顔で通り過ぎた。
王領1の街だけあって、街中は人出が多く賑わっていた。屋台には品物が溢れ、呼び込みをする商人の声も聞こえてくる。
アリシアは王都の街もあまり知らない。いつも病院や孤児院の慰問へ行く時に通り過ぎるだけで、ちゃんと街中を歩いたのはレイヴンと出掛けた時だけだ。
だから他の街と比べてどう、ということはできないが、活気が溢れていて良い街だと思えた。
訪れた診療所が3件目にもなると、人々の見る目がまた少し変わって来た。
1件目の時は、「まさか具合が?」と訝しんでいた人たちも、3件目になると目的が診察ではないとわかる。
メトワの診療所はさすがにどこも患者で溢れていて、すぐに医師と話すことはできなかった。
アリシアの立場であれば、患者を後まわしにさせることもできる。実際に患者をすべて帰そうとした医師もいた。
だけどアリシアはそれを許さず、患者と同じ様に待合室で順番を待つと伝えた。
順番を待つ間に、アリシアはそこにいる患者たちと交流を持つことにした。
患者たちの中にはアリシアの存在に恐れおののき、満足に話せない者もいる。病気を移すのではないかと恐れる者もいた。
だけどアリシアにとっては、王都で行っている病院への慰問と同じである。
もちろん皆、具合が悪かったり怪我をしていたりするので楽しい交流にはならない。
だけど人は少なからず、いつから具合が悪いのだとか、どうして怪我をしてしまったのかとか話したがるものだ。
アリシアはそんな話を1人1人丁寧に聞いていく。
そうしている内に、初めは話せなかった者も少しずつ話をしてくれるようになっていった。
具合が悪くて言葉を交わせない人には、額に手を当てて「早く良くなるように」と言葉を掛ける。「何をしに来たのか」と直接訊いてくる人には、取り組みについて話せるだけ話した。
王都にある学校について、「俺の息子でも入れるのか」と言う人には、「ええ、勿論よ」と笑顔で答える。ただ問題があるとすれば、彼に学校の費用が払えるか、だろう。
帰る時には医師だけではなく何人もの患者が見送りに出てくれた。先に診察を終えて帰ったはずの人が表で待ってくれていることもあった。
馬車を見送り、手を振る彼らの表情は明るい。
ここを訪れた時に向けられた、胡散臭い者を見るような目は消えていた。
街の人の中には、アリシアが何をしに来たのか医師に訊く者もいた。
医師は「あまり話を広めることはできない」と言葉を濁しながらも、「妃殿下は国民のことを良く考えて下さっている」と、施策の断片を話した。居合わせた患者たちも、アリシアとの交流について人に話す。
この後アリシアが建てた学校の話は、日にちを掛けて街の人々に広まることになった。
街中の診療所の訪問を終えたアリシアは、最後に王立病院へ向かうことにする。
時間が遅くなってしまったけれど、診療時間が終わる頃でもある。
彼との話はきっと長くなるだろうけれど、話が終わった後は病院内の設備を確認し、入院患者たちの慰問もしたい。
アリシアはこれからの予定を頭の中で確認しながらも、遅くなってはレイヴンが心配するだろうな、と考えていた。
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