【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 4章

62 朝のひと時

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 翌朝、目を覚ましたアリシアは心地良い気怠さを感じていた。
 昨日は1日出歩いていたので疲れを感じないわけではない。だけど昨日は嬉しいこともあった。
 
「おはよう、アリシア」

「……おはようございます」

 視線を上げると、いつものようにレイヴンがアリシアを見つめていた。
 視線が合うと自然に笑みが浮かんでくる。
 
 昨夜はアリシアから強請らなくてもレイヴンが抱いてくれた。
 そのことが気怠さの一因にもなっている。だけど体に残る疲れを不快とは思わない。

 アリシアはレイヴンの背中に腕を伸ばして胸に頬を摺り寄せた。
 レイヴンはそんなアリシアの甘えた仕草に嬉しそうに笑うと、優しく抱き寄せて髪を撫でてくれた。

 幸せな朝のひと時だった。





「今日は移動時間が長くなるから、もし疲れたり具合が悪くなったりしたらすぐに言ってね」

「はい。大丈夫ですわ」

 レイヴンの言葉にアリシアがにこりと笑う。
 どう見ても仲睦まじい夫婦そのものである。

 目の前で繰り広げられる主夫妻の睦まじいやり取りに、トーマスは自身の認識が誤っていたのだと認めざるを得なかった。
 王家に仕えて長いトーマスは、レイヴンが子どもの頃から知っている。
 メトワを離れることはほとんどないが、それでもレイヴンと婚約者の関係が表面的なものであるとの噂は十分耳に入っていた。
 だからまだ世継ぎも生まないアリシアが視察についてくると聞いた時、レイヴンが他の女に手を出さないように無理矢理ついてくるのだと思ったのだ。

 だけど実際に2人の様子を目にすると、とても表面的な関係には見えない。
 それに夫妻の寝室の様子は、部屋を掃除するメイドを通じて入ってくる。その話を聞く限り、閨も毎日あるようだ。
 元から噂が間違っていたのか仲が改善したのかわからないが、今の2人は心から愛し合っているように見える。 

 それにアリシアが到着してから無茶と思う要求はされていない。アニーへの処罰は厳しかったが、あれもアニーに非があることだ。それ以外のことで困らされたことはなく、我儘も過度な贅沢を好む様子も見せていない。
 今日もレイヴンの視察に同行するというアリシアは、清楚で可憐なドレスを着ている。
 
「いってらっしゃいませ」

 2人を見送る使用人たちが一斉に頭を下げる。
 アリシアをエスコートしながら柔らかい笑顔を見せるレイヴンが、チラッとこちらへ向けた視線にトーマスは息を飲んだ。
 レイヴンはもうアリシアに笑顔を向け、こちらのことは見ていない。


 アニーへの処罰が厳しすぎると感じたトーマスは、レイヴンに減刑するよう訴えた。
 だけどその願いが聞き入れられることはなく、昨日アリシアへ同じ無礼を働いた侍従はレイヴンが自ら解雇した。
 
 レイヴンはアリシアに無礼を働く者を許さない。
 それはトーマスでも同じなのだ。
 トーマスがアリシアに無礼な態度を見せているのをレイヴンは知っている。

 アリシアへの態度を改めないと許さない。

 あの視線は最後通牒のように思えた。

 
 
 

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