438 / 697
第2部 4章
62 朝のひと時
しおりを挟む
翌朝、目を覚ましたアリシアは心地良い気怠さを感じていた。
昨日は1日出歩いていたので疲れを感じないわけではない。だけど昨日は嬉しいこともあった。
「おはよう、アリシア」
「……おはようございます」
視線を上げると、いつものようにレイヴンがアリシアを見つめていた。
視線が合うと自然に笑みが浮かんでくる。
昨夜はアリシアから強請らなくてもレイヴンが抱いてくれた。
そのことが気怠さの一因にもなっている。だけど体に残る疲れを不快とは思わない。
アリシアはレイヴンの背中に腕を伸ばして胸に頬を摺り寄せた。
レイヴンはそんなアリシアの甘えた仕草に嬉しそうに笑うと、優しく抱き寄せて髪を撫でてくれた。
幸せな朝のひと時だった。
「今日は移動時間が長くなるから、もし疲れたり具合が悪くなったりしたらすぐに言ってね」
「はい。大丈夫ですわ」
レイヴンの言葉にアリシアがにこりと笑う。
どう見ても仲睦まじい夫婦そのものである。
目の前で繰り広げられる主夫妻の睦まじいやり取りに、トーマスは自身の認識が誤っていたのだと認めざるを得なかった。
王家に仕えて長いトーマスは、レイヴンが子どもの頃から知っている。
メトワを離れることはほとんどないが、それでもレイヴンと婚約者の関係が表面的なものであるとの噂は十分耳に入っていた。
だからまだ世継ぎも生まないアリシアが視察についてくると聞いた時、レイヴンが他の女に手を出さないように無理矢理ついてくるのだと思ったのだ。
だけど実際に2人の様子を目にすると、とても表面的な関係には見えない。
それに夫妻の寝室の様子は、部屋を掃除するメイドを通じて入ってくる。その話を聞く限り、閨も毎日あるようだ。
元から噂が間違っていたのか仲が改善したのかわからないが、今の2人は心から愛し合っているように見える。
それにアリシアが到着してから無茶と思う要求はされていない。アニーへの処罰は厳しかったが、あれもアニーに非があることだ。それ以外のことで困らされたことはなく、我儘も過度な贅沢を好む様子も見せていない。
今日もレイヴンの視察に同行するというアリシアは、清楚で可憐なドレスを着ている。
「いってらっしゃいませ」
2人を見送る使用人たちが一斉に頭を下げる。
アリシアをエスコートしながら柔らかい笑顔を見せるレイヴンが、チラッとこちらへ向けた視線にトーマスは息を飲んだ。
レイヴンはもうアリシアに笑顔を向け、こちらのことは見ていない。
アニーへの処罰が厳しすぎると感じたトーマスは、レイヴンに減刑するよう訴えた。
だけどその願いが聞き入れられることはなく、昨日アリシアへ同じ無礼を働いた侍従はレイヴンが自ら解雇した。
レイヴンはアリシアに無礼を働く者を許さない。
それはトーマスでも同じなのだ。
トーマスがアリシアに無礼な態度を見せているのをレイヴンは知っている。
アリシアへの態度を改めないと許さない。
あの視線は最後通牒のように思えた。
昨日は1日出歩いていたので疲れを感じないわけではない。だけど昨日は嬉しいこともあった。
「おはよう、アリシア」
「……おはようございます」
視線を上げると、いつものようにレイヴンがアリシアを見つめていた。
視線が合うと自然に笑みが浮かんでくる。
昨夜はアリシアから強請らなくてもレイヴンが抱いてくれた。
そのことが気怠さの一因にもなっている。だけど体に残る疲れを不快とは思わない。
アリシアはレイヴンの背中に腕を伸ばして胸に頬を摺り寄せた。
レイヴンはそんなアリシアの甘えた仕草に嬉しそうに笑うと、優しく抱き寄せて髪を撫でてくれた。
幸せな朝のひと時だった。
「今日は移動時間が長くなるから、もし疲れたり具合が悪くなったりしたらすぐに言ってね」
「はい。大丈夫ですわ」
レイヴンの言葉にアリシアがにこりと笑う。
どう見ても仲睦まじい夫婦そのものである。
目の前で繰り広げられる主夫妻の睦まじいやり取りに、トーマスは自身の認識が誤っていたのだと認めざるを得なかった。
王家に仕えて長いトーマスは、レイヴンが子どもの頃から知っている。
メトワを離れることはほとんどないが、それでもレイヴンと婚約者の関係が表面的なものであるとの噂は十分耳に入っていた。
だからまだ世継ぎも生まないアリシアが視察についてくると聞いた時、レイヴンが他の女に手を出さないように無理矢理ついてくるのだと思ったのだ。
だけど実際に2人の様子を目にすると、とても表面的な関係には見えない。
それに夫妻の寝室の様子は、部屋を掃除するメイドを通じて入ってくる。その話を聞く限り、閨も毎日あるようだ。
元から噂が間違っていたのか仲が改善したのかわからないが、今の2人は心から愛し合っているように見える。
それにアリシアが到着してから無茶と思う要求はされていない。アニーへの処罰は厳しかったが、あれもアニーに非があることだ。それ以外のことで困らされたことはなく、我儘も過度な贅沢を好む様子も見せていない。
今日もレイヴンの視察に同行するというアリシアは、清楚で可憐なドレスを着ている。
「いってらっしゃいませ」
2人を見送る使用人たちが一斉に頭を下げる。
アリシアをエスコートしながら柔らかい笑顔を見せるレイヴンが、チラッとこちらへ向けた視線にトーマスは息を飲んだ。
レイヴンはもうアリシアに笑顔を向け、こちらのことは見ていない。
アニーへの処罰が厳しすぎると感じたトーマスは、レイヴンに減刑するよう訴えた。
だけどその願いが聞き入れられることはなく、昨日アリシアへ同じ無礼を働いた侍従はレイヴンが自ら解雇した。
レイヴンはアリシアに無礼を働く者を許さない。
それはトーマスでも同じなのだ。
トーマスがアリシアに無礼な態度を見せているのをレイヴンは知っている。
アリシアへの態度を改めないと許さない。
あの視線は最後通牒のように思えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる