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第2部 4章
64 牧場②
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この国の平民の識字率は低い。
各地に平民用の学校はあるが、学費が高いので通えるのは裕福層の子どもたちに限られている。
字が読めなければ賃金の高い仕事には就けない。
アリシアは孤児院への慰問を通じてその問題に直面した。
成人して孤児院を出た子どもたちは、条件の良い仕事に就くことができずにその日暮らしを強いられているのだ。食い詰めて犯罪に走る者もいる。
その状況を改善しようと月に数回孤児院へ講師の派遣を始めたが、まだ成果を出すには至っていない。
「もっと近くで見学しても良いかな?」
授業に興味を示したのはレイヴンも同じだった。講師役の青年や子どもたちの様子をじっと見つめている。
識字率の低さは宮廷でも問題になっていて改善を試みているが、中々上手くいっていない。
その原因の1つに、平民からの反対があった。
平民の中でも裕福層ではない子どもたちは、幼い頃から働き手として数えられている。その子どもたちが学校へ行くことに大人たちは良い顔をしない。
そんな時間があるなら少しでも稼げ、ということである。
同じ様にして育ってきた大人たちは、勉強の大切さを理解していないのだ。
また、雇い主側の思惑もある。
大量の労働力を必要とする雇用主は、安い賃金で沢山の労働力を確保したい。その為には働き手に学がない方が使いやすいのだ。
学のある者はすぐに次の仕事を見つけられる為、劣悪な環境だと辞めてしまう。辞めるだけならまだ良いが、環境改善を求めて訴訟を起こすこともある。
だから規模の大きいところ程、平民に知識を求めていないのだ。
そんな事情もあって平民の教育についてはその土地の管理者に委ねられている側面があった。
「あの青年が教えているのか?彼は……、見たことがあるな」
「あれはわたしの息子ですよ」
牧場主が笑う。
そう言わてみれば牧場主と面差しが似ていた。
「殿下が最後に倅と会ったのは、あれがまだ学校へ行く前ですからね。街の学校へ行っていましたが、卒業して戻ったのですよ」
「そうか、学校に……」
牧場主の息子は裕福層の子どもである。
学費を払うこともできるし、学校の寮に入っていたのだろう。
牧場主に連れられてレイヴンとアリシアが近づくと、青年がこちらに気がついた。驚いた表情を見せたがそれは一瞬で、子どもたちに立ち上がるよう声を掛ける。
そして子どもたちに挨拶をするよう促した後、自身は胸に片手を当てて頭を下げた。
平民がする正式な礼である。
「邪魔をしてしまってすまない。牧場を見学していたのだが、授業をしているのが目に入ったんだ。少し見学しても良いだろうか」
「勿論です、殿下、妃殿下。興味を向けて下さり、ありがとうございます」
青年がにこりと笑う。
領民の教育に興味がない貴族が多いことを知っているのだ。
それからレイヴンとアリシアは、子どもたちに混ざって授業を受けた。
青年は別に席を用意すると言ったが、それを断り草の上に座る。
ただ気を遣わせ過ぎない為に、牧場主が慌てて持ってきたシートだけは借りることにした。
初めはレイヴンとアリシアを気にして落ち着かなかった子どもたちも、次第に慣れた様で元の通り授業を聞いている。書き取りの時間は青年と一緒にレイヴンとアリシアも子どもたちの手元を見た。
一生懸命に文字を写す子どもたちを、レイヴンとアリシアは微笑ましく見つめていた。
各地に平民用の学校はあるが、学費が高いので通えるのは裕福層の子どもたちに限られている。
字が読めなければ賃金の高い仕事には就けない。
アリシアは孤児院への慰問を通じてその問題に直面した。
成人して孤児院を出た子どもたちは、条件の良い仕事に就くことができずにその日暮らしを強いられているのだ。食い詰めて犯罪に走る者もいる。
その状況を改善しようと月に数回孤児院へ講師の派遣を始めたが、まだ成果を出すには至っていない。
「もっと近くで見学しても良いかな?」
授業に興味を示したのはレイヴンも同じだった。講師役の青年や子どもたちの様子をじっと見つめている。
識字率の低さは宮廷でも問題になっていて改善を試みているが、中々上手くいっていない。
その原因の1つに、平民からの反対があった。
平民の中でも裕福層ではない子どもたちは、幼い頃から働き手として数えられている。その子どもたちが学校へ行くことに大人たちは良い顔をしない。
そんな時間があるなら少しでも稼げ、ということである。
同じ様にして育ってきた大人たちは、勉強の大切さを理解していないのだ。
また、雇い主側の思惑もある。
大量の労働力を必要とする雇用主は、安い賃金で沢山の労働力を確保したい。その為には働き手に学がない方が使いやすいのだ。
学のある者はすぐに次の仕事を見つけられる為、劣悪な環境だと辞めてしまう。辞めるだけならまだ良いが、環境改善を求めて訴訟を起こすこともある。
だから規模の大きいところ程、平民に知識を求めていないのだ。
そんな事情もあって平民の教育についてはその土地の管理者に委ねられている側面があった。
「あの青年が教えているのか?彼は……、見たことがあるな」
「あれはわたしの息子ですよ」
牧場主が笑う。
そう言わてみれば牧場主と面差しが似ていた。
「殿下が最後に倅と会ったのは、あれがまだ学校へ行く前ですからね。街の学校へ行っていましたが、卒業して戻ったのですよ」
「そうか、学校に……」
牧場主の息子は裕福層の子どもである。
学費を払うこともできるし、学校の寮に入っていたのだろう。
牧場主に連れられてレイヴンとアリシアが近づくと、青年がこちらに気がついた。驚いた表情を見せたがそれは一瞬で、子どもたちに立ち上がるよう声を掛ける。
そして子どもたちに挨拶をするよう促した後、自身は胸に片手を当てて頭を下げた。
平民がする正式な礼である。
「邪魔をしてしまってすまない。牧場を見学していたのだが、授業をしているのが目に入ったんだ。少し見学しても良いだろうか」
「勿論です、殿下、妃殿下。興味を向けて下さり、ありがとうございます」
青年がにこりと笑う。
領民の教育に興味がない貴族が多いことを知っているのだ。
それからレイヴンとアリシアは、子どもたちに混ざって授業を受けた。
青年は別に席を用意すると言ったが、それを断り草の上に座る。
ただ気を遣わせ過ぎない為に、牧場主が慌てて持ってきたシートだけは借りることにした。
初めはレイヴンとアリシアを気にして落ち着かなかった子どもたちも、次第に慣れた様で元の通り授業を聞いている。書き取りの時間は青年と一緒にレイヴンとアリシアも子どもたちの手元を見た。
一生懸命に文字を写す子どもたちを、レイヴンとアリシアは微笑ましく見つめていた。
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