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第2部 4章
75 不安要素②
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レイヴンとアリシアのことは嫁入り前のカナリーにとって他人事ではなかった。
カナリーは年が変われば早々に卒業する。
そうすればすぐに結婚式だ。
リベラ侯爵邸には既に何度も通っていて、侯爵夫妻とも良好な関係を築いている。
将来的には侯爵となるサディアスだが、まだ侯爵に引退の意思はなく、しばらくは父親について領地経営を学ぶ予定だ。カナリーも侯爵夫人から侯爵家の采配を学ぶ為、結婚後は侯爵邸の敷地にある別邸に住むことになっている。
元からあった建物を王家が資金を出して立派に改装させた別宅で、カナリーも気に入っていた。
だけどもしサディアスがカナリーを置いて本邸に通っていたら。
家族の晩餐にカナリーだけが呼ばれなかったら、と思うと身震いがした。
それはまだ幼いアイビスも同じだったらしい。
昨夜遅くにアイビスはカナリーの部屋を訪れた。
アイビスは既に寝ているはずの時間で夜着を着ている。
驚いて迎え入れたカナリーに、アイビスは抱きついて泣き出した。
「どうしたの?!」
「それがわからないのです。お部屋に戻ってからずっと暗い顔をしてらして……」
慌てるカナリーに、アイビス付きの侍女が困った顔で説明をする。
泣きじゃくるアイビスの背中を撫でながら、カナリーはアイビスが話してくれるのを待った。
しばらくして落ち着いたアイビスが小さい声で言う。
「1人でご飯食べるの嫌ぁ……」
カナリーは侍女たちと顔を見合わせた。
明らかにレイヴンの話が引き金になっている。
マルグリットはアリシアが1人でいることを望んでいたと言っていた。
だけど幼いアイビスにそんな心理はわからない。
まだ1人で公務に出たことがなく学園の課題もないアイビスは、これまで1人で食事をしたことがなかった。
レイヴンの話を聞いて、1人の食事を想像をしたアイビスは淋しくなってしまったようだ。
アイビスを抱き締めて宥めながら、このままではいけないとカナリーは思った。
デミオンとアンジュの存在が幼いアリシアに悪影響だったのなら、アリシアの状況は幼いアイビスに悪影響である。
「お義姉様、今日はどのように過ごされていたのですか?」
ジェーンとのお茶会で何度もこの部屋を訪れているカナリーは、奥の棚に以前はなかったはずの本が積まれていることに気がついていた。
アリシアは休暇中、いつもレオナルドから届けられた本を読んでいたと聞いている。去年に比べてレイヴンとの仲が改善されたとはいえ、アリシアを心配したレオナルドが今年も運び入れたのだろう。
「そうね。今日はレイヴン様と一緒に詩作をしていたわ」
「お兄様が詩作を?」
「……アリシアほど得意じゃないけど、できない訳じゃない」
目を丸くしたカナリーにレイヴンが憮然として応える。
確かにカナリーたちは基礎教育の一環として詩作を学んでいた。学園での授業もあるので、好成績を残したレイヴンが苦手ということもないだろう。
だけど卒業後の詩作は完全に趣味と呼べるもので、これまでレイヴンが自作の詩を披露するのを見たことはない。
「年明けに文芸サロンがあるの。そこで発表する詩を用意しないといけなくて」
「お義姉様が開いているサロンですね。お義姉様の詩が高く評価されているのは知っています」
カナリーがそう言うと、アリシアはにこやかに頷いた。
アリシアは音楽や絵画、文芸作品などのサロンを積極的に開いている。対してレイヴンが開くのは政治や経済に関するサロンだ。
どちらのサロンも高く評価されていて、招待を望む貴族は多い。
「興味がおありでしたらカナリー殿下も招待致しますわ」
そう言われてカナリーは慌てて首を振った。
カナリーも詩作を学んでいるが、あくまで教養として学んでいるだけで詩作を楽しんだことはない。
侯爵夫人となれば社交としてそういう芸術サロンにも顔を出さないといけないのかもしれないが、カナリーはどちらかというと音楽や演劇のサロンに興味があった。
カナリーがそう言うと、アリシアは笑って次の演劇サロンに招待すると言ってくれた。
しばらくそうして談笑した後、カナリーは意を決して本題を切り出した。
「お義姉様、元旦に正殿で開かれる宴にいらっしゃいませんか……?」
カナリーは年が変われば早々に卒業する。
そうすればすぐに結婚式だ。
リベラ侯爵邸には既に何度も通っていて、侯爵夫妻とも良好な関係を築いている。
将来的には侯爵となるサディアスだが、まだ侯爵に引退の意思はなく、しばらくは父親について領地経営を学ぶ予定だ。カナリーも侯爵夫人から侯爵家の采配を学ぶ為、結婚後は侯爵邸の敷地にある別邸に住むことになっている。
元からあった建物を王家が資金を出して立派に改装させた別宅で、カナリーも気に入っていた。
だけどもしサディアスがカナリーを置いて本邸に通っていたら。
家族の晩餐にカナリーだけが呼ばれなかったら、と思うと身震いがした。
それはまだ幼いアイビスも同じだったらしい。
昨夜遅くにアイビスはカナリーの部屋を訪れた。
アイビスは既に寝ているはずの時間で夜着を着ている。
驚いて迎え入れたカナリーに、アイビスは抱きついて泣き出した。
「どうしたの?!」
「それがわからないのです。お部屋に戻ってからずっと暗い顔をしてらして……」
慌てるカナリーに、アイビス付きの侍女が困った顔で説明をする。
泣きじゃくるアイビスの背中を撫でながら、カナリーはアイビスが話してくれるのを待った。
しばらくして落ち着いたアイビスが小さい声で言う。
「1人でご飯食べるの嫌ぁ……」
カナリーは侍女たちと顔を見合わせた。
明らかにレイヴンの話が引き金になっている。
マルグリットはアリシアが1人でいることを望んでいたと言っていた。
だけど幼いアイビスにそんな心理はわからない。
まだ1人で公務に出たことがなく学園の課題もないアイビスは、これまで1人で食事をしたことがなかった。
レイヴンの話を聞いて、1人の食事を想像をしたアイビスは淋しくなってしまったようだ。
アイビスを抱き締めて宥めながら、このままではいけないとカナリーは思った。
デミオンとアンジュの存在が幼いアリシアに悪影響だったのなら、アリシアの状況は幼いアイビスに悪影響である。
「お義姉様、今日はどのように過ごされていたのですか?」
ジェーンとのお茶会で何度もこの部屋を訪れているカナリーは、奥の棚に以前はなかったはずの本が積まれていることに気がついていた。
アリシアは休暇中、いつもレオナルドから届けられた本を読んでいたと聞いている。去年に比べてレイヴンとの仲が改善されたとはいえ、アリシアを心配したレオナルドが今年も運び入れたのだろう。
「そうね。今日はレイヴン様と一緒に詩作をしていたわ」
「お兄様が詩作を?」
「……アリシアほど得意じゃないけど、できない訳じゃない」
目を丸くしたカナリーにレイヴンが憮然として応える。
確かにカナリーたちは基礎教育の一環として詩作を学んでいた。学園での授業もあるので、好成績を残したレイヴンが苦手ということもないだろう。
だけど卒業後の詩作は完全に趣味と呼べるもので、これまでレイヴンが自作の詩を披露するのを見たことはない。
「年明けに文芸サロンがあるの。そこで発表する詩を用意しないといけなくて」
「お義姉様が開いているサロンですね。お義姉様の詩が高く評価されているのは知っています」
カナリーがそう言うと、アリシアはにこやかに頷いた。
アリシアは音楽や絵画、文芸作品などのサロンを積極的に開いている。対してレイヴンが開くのは政治や経済に関するサロンだ。
どちらのサロンも高く評価されていて、招待を望む貴族は多い。
「興味がおありでしたらカナリー殿下も招待致しますわ」
そう言われてカナリーは慌てて首を振った。
カナリーも詩作を学んでいるが、あくまで教養として学んでいるだけで詩作を楽しんだことはない。
侯爵夫人となれば社交としてそういう芸術サロンにも顔を出さないといけないのかもしれないが、カナリーはどちらかというと音楽や演劇のサロンに興味があった。
カナリーがそう言うと、アリシアは笑って次の演劇サロンに招待すると言ってくれた。
しばらくそうして談笑した後、カナリーは意を決して本題を切り出した。
「お義姉様、元旦に正殿で開かれる宴にいらっしゃいませんか……?」
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