【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
468 / 697
第2部 4章

92 訊けない気持ち

しおりを挟む
「マルグリット様。私…、マルグリット様にお伺いしたいことが……」

「あら、何かしら?」

 以前も一度問い掛けようとして言えなかったことである。
 あの時、ふいに浮かんだ疑問をそのまま口にしようとして咄嗟に口を噤んだのは、とんでもなく不敬なことだからだ。

 とても口に出して良いことではない。

 そう思ったのに、また口にしようとするのはなぜなのか。
 それだけ気に掛かっているということなのだろう。

 だけど訊き辛いことに違いはない。
 中々言い出すことができずに口を開けたり閉じたりしているアリシアを、マルグリットは不思議そうに見ていた。
 
「?!」

 マルグリットに握られたままの手にぎゅっと力が籠められたのを感じてアリシアは顔を上げた。
 柔和な笑顔のマルグリットがアリシアを見つめている。
 その笑顔は「大丈夫」と言っているように見えた。

「今の私たちは母娘よ、アリシア。執務の時間は終わったの。私は義母ははとして義娘むすめと話しているつもりでいるわ。だからあなたも義娘むすめとして話してちょうだい」

 義娘むすめとして。
 それは何を訊いても不敬ではない、ということだろうか。

 マルグリットが頷くのに促されるようにして、アリシアは口を開いた。

「マ、マルグリット様は……、陛下を愛しておられないのですか……?」

「………え?」

 予想外の問いだったらしく、マルグリットが目を見開いて動きを止めた。

「こんなことを申し上げて申し訳ありません。ですが私、どうしても気になってしまって…」

 そう言って項垂れるアリシアを、マルグリットは呆然として見つめていた。




 一方扉の向こうでは、国王とレイヴンが同じく動きを止めていた。
 我に返ったレイヴンが、恐る恐る国王の顔を窺う。
 国王はそれにも気づかない様子で、目を見開いたまま扉を見つめていた。




「私、レイヴン様が側妃を迎えるのは当然のことだと思っていました。その時が来ても取り乱したりせず、レイヴン様が煩わしい思いをしない様に快く受け入れて、側妃になられる方とも良い関係を築けるよう努めようと……。そ、それなのに、実際に話を聞いたら、私、辛くて……っ」

「アリシア」

 またぽろぽろと涙を零しだしたアリシアをマルグリットが抱き締める。
 本当の母のように優しく背を撫でるマルグリットに、アリシアは堪えきれず嗚咽を漏らした。
 しばらくはアリシアの嗚咽だけが室内に響く。
 ひとしきり泣いた後、またアリシアが話し出した。

「レイヴン様は、私を愛してくださっています。そのお気持ちは疑っておりません。側妃を迎えるのは、レイヴン様の意思ではない……。それがわかっているのに、こんなに辛くて……。もし、レイヴン様が、その方を愛していると言われたら、私きっと…耐えられません。……ですが、マルグリット様が結婚された時、陛下はサンドラ叔母様…いえ、サンドラ殿を想っておられた。他の方を想っておられる方に嫁ぐのは辛くありませんでしたか?」

 マルグリットは国王がサンドラを想っていても気にならなったのだろうか。
 それはマルグリットが、国王を愛していないから?
 
 以前浮かんだ疑問が鮮明に蘇る。
 レイヴンへの気持ちが変わっただけに、現実のように思えた。

「それに、陛下は5人も側妃を迎えておられます……。陛下が側妃を迎えらるのは、嫌ではありませんでしたか?側妃の方々と良い関係を築けたのは…、陛下を、愛しておられないからでしょうか」




しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

すれ違いのその先に

ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。 彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。 ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。 *愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...