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第2部 4章
93 想い人の想い人①
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「……そうね。愛していない……、のかもしれないわね」
「マルグリット様?」
しばらく沈黙が続いた後、マルグリットが呟いた。
その表情を見て、アリシアは息を飲みこむ。
悲しみを耐えているような、諦めているような、いつもの明るいマルグリットからは想像できないような表情だった。
「陛下を愛しているのか、私にもわからないのよ。遠い昔、まだ学園に入学する前は愛していた記憶があるのに」
ごめんなさい、こんな答えを求めているんじゃないわよね、とマルグリットが笑みを零す。
アリシアは何も言えずに首を振った。
酷いことを訊いたのはアリシアの方だ。
マルグリットに答える義務などない。
それなのに怒りもせずに答えようとしてくれている。それだけで有難いことだった。
「学園に入学して1年が経った頃かしら、あの方の様子が変わったのは。それまであまり感情を表に出すような方ではなかったのに、時々急に不機嫌になったり、些細なことで声を荒げるようになってしまったのよ。その内に、あの方が不機嫌になるのは、ある女生徒が男子生徒と話したり一緒にいる時だけだと噂になってしまって……。その女生徒というのがサンドラ殿だったの」
アリシアは頷いた。以前レイヴンから聞いたのと同じ話である。
ただ当事者であるマルグリットから聞く話は、以前とは違う重みを感じさせた。
「私は初めその噂を信じていなかったわ。だってあの方の私への態度は、それまでと少しも変わらなかったもの。優しくて親切で、婚約者として大切にして下さっていた。だからあの噂も、悪意ある中傷の1つだと思っていたの。だけど……。偶然、あの方がサンドラ殿と話をしているところを見てしまって……」
話といっても、先生に頼まれた課題を手渡されただけなのよ。とマルグリットは付け足した。
アリシアがサンドラを叔母として慕っているのを知っているので、サンドラの名誉に傷がつかない様気遣ってくれているのだ。
「ショックだったわ。だってこれまで見たことがないような、幸せそうな表情をしているのですもの。私の前で、あんな表情を見せてくれたことなんて1度もなかったのに。そしてその時に……、噂は真実なのだと悟ってしまったの」
マルグリットがその時のことを思い出すように瞳を閉じる。
その時のマルグリットの気持ちがこちらまで伝わってきた様な気がして胸が痛んだ。
今のアリシアにはその痛みが良くわかる。
もしレイヴンが他の人を想うようになってしまったら、きっとアリシアは耐えられないだろう。
だけどレイヴンは、学園時代この痛みに耐えていたのだ。
アリシアは別の人を……、マルセルを想っていたから。
『マルセルを愛さないで。僕だけを見て!と言いたかった。マルセルを想っている君を傍で見ていて、僕は嫉妬で狂いそうだった』
レイヴンの言葉が蘇る。
こんな思いをマルグリットもしていたのだろうか。
そしてアリシアも、これからすることになるのかもしれない。
扉の向こうでは、国王が拳を握っていた。
無言で握り締められた手は、小刻みに震えている。
『……そうね。愛していない……、のかもしれないわね』
その言葉を国王はどんな気持ちで聞いたのか、傍で見ていたレイヴンにもわからなかった。
レイヴンは学園時代を思い出す。
マルセルを想うアリシアを傍で見ていたあの頃。
母もあの時の自分と同じ思いをしていたのだと、思い出した痛みを堪えるように胸の前をぎゅっと握った。
「マルグリット様?」
しばらく沈黙が続いた後、マルグリットが呟いた。
その表情を見て、アリシアは息を飲みこむ。
悲しみを耐えているような、諦めているような、いつもの明るいマルグリットからは想像できないような表情だった。
「陛下を愛しているのか、私にもわからないのよ。遠い昔、まだ学園に入学する前は愛していた記憶があるのに」
ごめんなさい、こんな答えを求めているんじゃないわよね、とマルグリットが笑みを零す。
アリシアは何も言えずに首を振った。
酷いことを訊いたのはアリシアの方だ。
マルグリットに答える義務などない。
それなのに怒りもせずに答えようとしてくれている。それだけで有難いことだった。
「学園に入学して1年が経った頃かしら、あの方の様子が変わったのは。それまであまり感情を表に出すような方ではなかったのに、時々急に不機嫌になったり、些細なことで声を荒げるようになってしまったのよ。その内に、あの方が不機嫌になるのは、ある女生徒が男子生徒と話したり一緒にいる時だけだと噂になってしまって……。その女生徒というのがサンドラ殿だったの」
アリシアは頷いた。以前レイヴンから聞いたのと同じ話である。
ただ当事者であるマルグリットから聞く話は、以前とは違う重みを感じさせた。
「私は初めその噂を信じていなかったわ。だってあの方の私への態度は、それまでと少しも変わらなかったもの。優しくて親切で、婚約者として大切にして下さっていた。だからあの噂も、悪意ある中傷の1つだと思っていたの。だけど……。偶然、あの方がサンドラ殿と話をしているところを見てしまって……」
話といっても、先生に頼まれた課題を手渡されただけなのよ。とマルグリットは付け足した。
アリシアがサンドラを叔母として慕っているのを知っているので、サンドラの名誉に傷がつかない様気遣ってくれているのだ。
「ショックだったわ。だってこれまで見たことがないような、幸せそうな表情をしているのですもの。私の前で、あんな表情を見せてくれたことなんて1度もなかったのに。そしてその時に……、噂は真実なのだと悟ってしまったの」
マルグリットがその時のことを思い出すように瞳を閉じる。
その時のマルグリットの気持ちがこちらまで伝わってきた様な気がして胸が痛んだ。
今のアリシアにはその痛みが良くわかる。
もしレイヴンが他の人を想うようになってしまったら、きっとアリシアは耐えられないだろう。
だけどレイヴンは、学園時代この痛みに耐えていたのだ。
アリシアは別の人を……、マルセルを想っていたから。
『マルセルを愛さないで。僕だけを見て!と言いたかった。マルセルを想っている君を傍で見ていて、僕は嫉妬で狂いそうだった』
レイヴンの言葉が蘇る。
こんな思いをマルグリットもしていたのだろうか。
そしてアリシアも、これからすることになるのかもしれない。
扉の向こうでは、国王が拳を握っていた。
無言で握り締められた手は、小刻みに震えている。
『……そうね。愛していない……、のかもしれないわね』
その言葉を国王はどんな気持ちで聞いたのか、傍で見ていたレイヴンにもわからなかった。
レイヴンは学園時代を思い出す。
マルセルを想うアリシアを傍で見ていたあの頃。
母もあの時の自分と同じ思いをしていたのだと、思い出した痛みを堪えるように胸の前をぎゅっと握った。
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