【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
487 / 697
第2部 5章

2 側妃候補の転落②

しおりを挟む
「来て下さって嬉しいですわ。お兄様、お義姉様」

 レイヴンとアリシアが部屋を訪れると、カナリーが嬉しそうに出迎えてくれた。
 嫁入り前のカナリーは幸せそうに輝いている。

「嫁入り調度品が届いたと聞きましたの。私にも見せていただけるかしら」

「勿論ですわ、お義姉様。どうぞ、こちらへいらしてください」

 アリシアが用件を告げると、カナリーは支度部屋となっている客間へ2人を案内してくれた。

 アリシアたちはこれまでにも何度か夕食の後にこの部屋を訪れたことがある。ドレスや装飾品が届く度にカナリーが見せてくれていたのだ。
 その時はまだ部屋の中はガランとしていた。だけど今は調度品が多数運び込まれ、広いはずの客間が狭いように見えた。

「素敵ですわ。カナリー殿下もいよいよ嫁いでしまわれるのですね」

「嫌ですわ、お義姉様。まだ何か月もありましてよ」

 アリシアが感慨深く呟くとカナリーが苦笑する。
 確かにカナリーが嫁ぐのは夏の終わりで、今は初夏を迎えたばかりだ。
 大抵の貴族は学園の卒業を待って結婚式を挙げる為、立て続けに行われる学友たちの結婚式でカナリーは楽しくも忙しい毎日を送っていた。

「お義姉様もこんなに大変でした?」

 訊かれて、アリシアは首を振る。
 アリシアは学園を卒業してすぐに嫁いだので、学友の結婚式に出たことはない。
 王太子や王太子妃が軽々しく臣下の結婚式に出ることはできないからだ。

「そうでしたわ。お2人の結婚式は早かったですものね。私、あの時驚いたのでした。あれも今思えばお兄様の我儘でしたのね」

 カナリーの言葉にレイヴンが顔を赤らめた。
 毎年学園を卒業してすぐの時期は結婚式が続く為、王族の結婚式は最後になるよう予定を組まれる。
 特に王太子の結婚式は大きなイベントなので同じ時期に式を挙げる者たちへの配慮であり、嫁ぐ前の最後のひと時を学友と過ごせるようにとの王太子妃になる者への配慮でもあった。

 だけどレイヴンはできるだけ早く結婚したいと言って譲らなかった。
 少しでも早くアリシアと結婚したいという気持ちと、マルセルへの想いを警戒する気持ちがあったからだ。
 アリシアが間違いを犯すとは思っていない。だけど少しでも早く自分のものにして、安心したかった。

 勿論アリシアは断らなかった。
 完璧な王太子妃になることだけを考えていたアリシアは、結婚式が遅くても早くてもどちらでも良かったのだ。

 アリシアはエスコートされていた腕を離した。
 レイヴンがアリシアの顔を見る。
 レイヴンを見上げて微笑んだアリシアは、そっと手を差し出した。

 
 幸せそうに手を繋ぐ2人を見たカナリーは、ルシアの輿入れを阻止できて良かったと心から感じていた。
 レイヴンが側妃を迎えることに反対だったカナリーは、邪魔をする機会をずっと狙っていたのだ。
 それはマルグリットも同じである。




 レイヴンとアリシアの仲を応援し、かつ自身も同じ経験をしているマルグリットは、レイヴンが側妃を持つことに否定的だった。
 だけど立場上、議会の決定を声高に反対することもできない。
 2人の間に子どもがいないことは事実であり、また、マルグリットがアリシアを庇えば、王家がルトビア公爵家ばかりを優遇しているという言い分を肯定することになってしまうからだ。

 そんな時にルシアがカナリーへ無礼を働いた。
 王女の母であり王妃であるマルグリットがこれに抗議するのは当然のことである。
 ルシアを非難する口実を自ら与えてくれたのだから、これに乗らないわけがない。

 この頃、ブラウニング侯爵家ではまだ事態を軽く見ていた。
 王妃から抗議文が来たと言っても所詮は学生同士の諍いである。それに学園は学生同士の平等な交流を推奨している。ルシアがカナリーへ謝罪して、カナリーがそれを受け入れればそれで終わる話だと考えていたのだ。

 だからルシアは屈辱に震えながらも人前でカナリーに謝罪した。
「謝罪を受け入れますわ」
 そう言われると信じて。

 だけどカナリーは謝罪を受け入れなかった。
 いくら学園が学生同士の平等な交流を推奨しているといってもそれは建て前上のことだ。それに未来の側妃・・・・・という身分をひけらかして周りを従えていたのはルシアの方である。
 
「あなたの態度はとても不愉快でした。謝罪を受け入れるつもりはありません」

 カナリーがこう告げた途端、ルシアの周りから人がいなくなった。
 ルシアの増長ぶりに嫌気がさしていた者たちが遠巻きにして、ひそひそと囁き合う。クスクスと嗤う声もあった。
 ルシアは固い顔で踵を返すと逃げるように教室を出て行った。
 
 そこからはとんとん拍子である。
 マルグリットは、自身のサロンやお茶会からブラウニング侯爵夫人を締め出した。抗議文を送ったのに、侯爵家から謝罪がなかったからだ。
 ルシアがカナリーへ謝罪するのは当然だが、侯爵家として王妃へ謝罪するのも当然である。
 だけどブラウニング侯爵はそれは怠った。
 3日も経たない内に侯爵家は社交界ですっかり孤立していた。

 これで焦ったのは議会である。ルシアは側妃の最有力候補なのだ。
 侯爵家を取りなそうと国王に謁見した議員だったが、国王に「あんな評判の悪い令嬢を側妃にして大丈夫なのか?」と訊かれてルシアを諦めた。
 
 カナリーを侮辱したルシアは、国王や王妃にすっかり嫌われている。
 王太子もルシアを娶ることに積極的ではない。
 これではルシアが側妃になり王子を生んでも、王太子にするよう支持を得られないと悟ったのだ。

 かくして側妃候補から外されたルシアは卒業と同時に社交界から姿を消した。
 ブラウニング侯爵夫妻もすっかり権力ちからを失い、小さくなって過ごしている。




しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...