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第2部 5章
5 あれから1年②/香水①
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「もうすぐマルグリット様主催の舞踏会があるでしょう。そこでまたノティス殿下の評価も変わるのではないかしら。学園での評判はクラスメイトから家族へ伝わっているでしょうし、親交を持ちたいと思う者も出て来るでしょう」
「そうですわね……。それはそれで大変でしょうけれど、慣れていくしかありませんものね」
カナリーの言葉にアリシアは頷いた。
そうしながら懐かしくなる。もうすぐマルグリット主催の舞踏会が開かれるのだ。
去年はこの舞踏会でレイヴン色のドレスを着た。卒業パーティーのドレスを再現したようなドレスだった。
あの頃のアリシアは、打ち明けられたレイヴンの気持ちや急に変わった態度にただ戸惑うばかりだった。
それなのに今は気持ちが通じて、レイヴンが傍にいないと淋しいと感じている。
あれからまだ1年しか経っていないなんて、信じられない様な気がした。
変わったのはレイヴンとの関係だけではない。あの時、同じ王族席にはカナリーもノティスも座っていた。
だけどカナリーとは儀礼的な挨拶を交わしただけで、ノティスとは挨拶さえしなかった。誰にも話し掛けられず、所在無げに佇むノティスを横目で見ただけである。
あの時は2人とこんなに仲良くなるなんて思ってもいなかった。
それは2人も同じことだろう。
「評判といえば、お兄様はまた香水を変えたのですね。令嬢たちが騒いでいましたわ」
その言葉にアリシアは苦笑する。
カナリーが言う通り、レイヴンは最近香水を変えていた。
レイヴンが香水を変えるのはもう3回目であり、その度に社交界で騒ぎになっていた。
「あの香水も、メトワでお義姉様と作ったものですの?」
「ええ。季節に合わせて4種類作りましたの。その中の夏用のものですわ」
メトワから戻ってすぐ、レイヴンの香水が変わったと社交界で騒ぎになった。
季節毎に香りを変える貴族の中で、何年も香水を変えなかったレイヴンが香りを変えたのである。どんな心境の変化があったのかと誰もが囁き合っていた。
だけどそんな疑問はすぐに解消されることになる。
この日、レイヴンはアリシアと一緒に王宮のロング・ギャラリーを歩いていた。ロング・ギャラリーには、メトワの城と同様に絵画や彫像など国宝級の芸術品が集められている。
貴族であれば誰でも出入りすることが許されていて、寒い冬になり庭園を散歩することができなくなった貴婦人たちの良い社交場となっていた。レイヴンとアリシアも、メトワから戻った辺りから庭園に出るのは止めてロング・ギャラリーで過ごすようになっている。
この数日、レイヴンを目にした貴婦人たちが何やら囁き合っていることにアリシアは気がついていた。
レイヴンが香水を変えたことはすれ違えばすぐにわかる。レイヴンが香りを変えたことが知られれば話題になると、ある程度予想していたアリシアは彼女たちの様子に驚くことはなかった。
ただ、この日は少し違っていた。
アリシアは知らなかったが、この頃側妃候補として名前が上がっていた令嬢たちが親に連れられて複数来ていたのだ。レイヴンに娘の顔を見せて交流を持たせることで側妃に選ばれやすくしようとしたのだろう。すれ違う貴族に挨拶をされて無視することはできない。
それは何組目の父娘だっただろうか。
父親に紹介されて恥ずかしそうに挨拶をした令嬢が、レイヴンの許しを得て口を開いた。
「最近香水を変えられたのですね。以前の香りも素敵でしたが、新しい香りも素敵ですわ」
令嬢にしてみれば、最新の話題であり皆の関心事である。
自身の変化に触れられてレイヴンが喜ぶと思ったのかもしれない。
だけど側妃候補としては完全な悪手だった。満面の笑みを浮かべたレイヴンはこう言ったのだ。
「ありがとう。メトワの調香師のところでアリシアと一緒に作ったんだ。アリシアが僕に合う香りを一緒に選んでくれたんだよ」
瞬間、ロング・ギャラリーが大きく騒めいた。
「そうですわね……。それはそれで大変でしょうけれど、慣れていくしかありませんものね」
カナリーの言葉にアリシアは頷いた。
そうしながら懐かしくなる。もうすぐマルグリット主催の舞踏会が開かれるのだ。
去年はこの舞踏会でレイヴン色のドレスを着た。卒業パーティーのドレスを再現したようなドレスだった。
あの頃のアリシアは、打ち明けられたレイヴンの気持ちや急に変わった態度にただ戸惑うばかりだった。
それなのに今は気持ちが通じて、レイヴンが傍にいないと淋しいと感じている。
あれからまだ1年しか経っていないなんて、信じられない様な気がした。
変わったのはレイヴンとの関係だけではない。あの時、同じ王族席にはカナリーもノティスも座っていた。
だけどカナリーとは儀礼的な挨拶を交わしただけで、ノティスとは挨拶さえしなかった。誰にも話し掛けられず、所在無げに佇むノティスを横目で見ただけである。
あの時は2人とこんなに仲良くなるなんて思ってもいなかった。
それは2人も同じことだろう。
「評判といえば、お兄様はまた香水を変えたのですね。令嬢たちが騒いでいましたわ」
その言葉にアリシアは苦笑する。
カナリーが言う通り、レイヴンは最近香水を変えていた。
レイヴンが香水を変えるのはもう3回目であり、その度に社交界で騒ぎになっていた。
「あの香水も、メトワでお義姉様と作ったものですの?」
「ええ。季節に合わせて4種類作りましたの。その中の夏用のものですわ」
メトワから戻ってすぐ、レイヴンの香水が変わったと社交界で騒ぎになった。
季節毎に香りを変える貴族の中で、何年も香水を変えなかったレイヴンが香りを変えたのである。どんな心境の変化があったのかと誰もが囁き合っていた。
だけどそんな疑問はすぐに解消されることになる。
この日、レイヴンはアリシアと一緒に王宮のロング・ギャラリーを歩いていた。ロング・ギャラリーには、メトワの城と同様に絵画や彫像など国宝級の芸術品が集められている。
貴族であれば誰でも出入りすることが許されていて、寒い冬になり庭園を散歩することができなくなった貴婦人たちの良い社交場となっていた。レイヴンとアリシアも、メトワから戻った辺りから庭園に出るのは止めてロング・ギャラリーで過ごすようになっている。
この数日、レイヴンを目にした貴婦人たちが何やら囁き合っていることにアリシアは気がついていた。
レイヴンが香水を変えたことはすれ違えばすぐにわかる。レイヴンが香りを変えたことが知られれば話題になると、ある程度予想していたアリシアは彼女たちの様子に驚くことはなかった。
ただ、この日は少し違っていた。
アリシアは知らなかったが、この頃側妃候補として名前が上がっていた令嬢たちが親に連れられて複数来ていたのだ。レイヴンに娘の顔を見せて交流を持たせることで側妃に選ばれやすくしようとしたのだろう。すれ違う貴族に挨拶をされて無視することはできない。
それは何組目の父娘だっただろうか。
父親に紹介されて恥ずかしそうに挨拶をした令嬢が、レイヴンの許しを得て口を開いた。
「最近香水を変えられたのですね。以前の香りも素敵でしたが、新しい香りも素敵ですわ」
令嬢にしてみれば、最新の話題であり皆の関心事である。
自身の変化に触れられてレイヴンが喜ぶと思ったのかもしれない。
だけど側妃候補としては完全な悪手だった。満面の笑みを浮かべたレイヴンはこう言ったのだ。
「ありがとう。メトワの調香師のところでアリシアと一緒に作ったんだ。アリシアが僕に合う香りを一緒に選んでくれたんだよ」
瞬間、ロング・ギャラリーが大きく騒めいた。
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