【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
506 / 697
第2部 5章

21 婚約挨拶⑤

しおりを挟む
 学園での心無い中傷を経験しているのはアリシアも同じである。
 レオナルドの婚約者がこれだけ妬まれるのだ。王太子の婚約者が妬まれないはずがない。
 彼女たちは相手を攻撃できる粗を探している。そしてアリシアには攻撃されやすいネタがあった。

 学生時代、レイヴンはジェーンを想っていると言われていた。
 その話は有名で、当事者たちが卒業した今も残っている。ディアナも最近まで信じていた。それだけ信憑性の高い話だったのだ。
 当時アリシアがどれだけのことを言われていたのか、容易に想像することができる。

 アリシアは同じ様な経験をした。
 だからディアナを気遣ってくれたのだろう。

「確かに色々仰る方はいます。ですが皆さま、誰がレオナルド様の婚約者になろうと気に入らないのではないでしょうか。レオナルド様はそれだけ素敵な方ですから」

「まあ」

 アリシアがぽかんとした顔をする。
 レオナルドとレイヴンも目を見開いてディアナを見つめていた。
 その顔を見ていると可笑しくなってくる。
 これまでレオナルドがこんなに分かり易く感情を見せたことはなかった。

 実はこの言葉を言ったのはカナリーである。
 カナリーは正式な発表前から2人の婚約を知っていた。
 そして卒業までの数か月間、1年生のディアナを良く訪ねてきてくれたのだ。

 カナリーとは壮行会のスピーチを一緒に聴きに行っている。
 あの頃は、まだディアナが婚約者に決まったわけではなかった。だから余計な憶測を生まない為にも人目につかないよう気をつけていた。だけど正式な婚約者になってからは、王家との繋がりを見せることで煩い周りを牽制しようとしていたのだ。

 カナリーとはあまり長い時間を一緒に過ごせたわけではない。
 それでも顔を合わせた時は、勉強を見てくれることもあった。下心を持って近づいてくる者たちの見分け方やかわし方を教えてくれることもあった。
 その中で言われたのがこの言葉である。

 カナリーはディアナが中傷に晒されていることを知っていた。
 そしてそれが避けては通れないものだと知っていたのだ。

「あなたは今、沢山の方の悪意に晒されて辛いでしょうね。自分が駄目な人間だと感じることも、あるかもしれないわ。でもね、彼女たちは誰がレオナルド殿の婚約者に選ばれても気に入らないの。認めたくないのよ。それだけレオナルド殿が素敵な方だからよ」

「レオナルド様が素敵な方だから……?」

 ぽかんとするディアナにカナリーは不敵に笑う。
 王女らしい、自信に満ちた笑顔だった。

「ねえ?そう考えると気楽じゃない?彼女たちはあなた以外の、どんな素敵な令嬢だって気に入らないのよ。だから何を言われたって気にすることないわ」

 それを聞いた時、すとんと気持ちが楽になった。
 彼女たちはディアナが不出来だから気に入らないんじゃない。誰であっても気に入らないのだ。
 そんな人たちの言葉を真に受けて気にしていても仕方がないと思えた。

「あなたはそんな素敵なレオナルド殿に選ばれたのよ。自信を持ちなさい」

「はい。そう致します」

 この時、ディアナは本当の意味でオレリアの言葉を受け入れられたのかもしれない。
 公爵家とレオナルドに相応しいかどうか、決めるのは公爵家の人たちだ。周りではない。



 そして今日も確信することができた。
 公爵家ではオレリアもレオナルドも良くしてくれている。あまり顔を合わせることはないが、アダムも顔を合わせた時は優しく接してくれている。
 アリシアやレイヴン、カナリーも気遣ってくれている。
 レオナルドの婚約者として認めてくれているのだ。



しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

すれ違いのその先に

ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。 彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。 ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。 *愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...