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第2部 5章
30 見極め
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「アリシア、今日は久しぶりに散歩をしようか」
静かにアリシアの髪を撫でていたレイヴンだったが、窓の外へ視線を向けるとそう言った。
この数日は雨が続いていたので表へ出ることができなかったのだ。
季節は刻々と夏へ移り変わっている。外に出ると少し暑いかもしれない。
だけど部屋の中にいるより気持ちが晴れる気がした。
「ええ、良いですわね」
アリシアが頷くと、エレノアがすぐに支度を整えてくれる。
レイヴンにエスコートされたアリシアは中央庭園へ向かった。
中央庭園まで来ると、他の貴族たちも各々散歩している。
アリシアたちの姿を見ると何かと言ってこようとするが、姿を見せなければ見せなかったで、寵愛が薄れたのだとか、仲違いをしているのでは、などと勝手なことを言い立てられる。だからこうして仲睦まじいところを時々見せておかなくてはならない。
すれ違った貴族たちが2人に挨拶をしていく。
アリシアに思うところがあったとしても、アリシアが王太子妃であることに変わりがない。すれ違う者たちは次々にアリシアへ頭を下げる。
ただそれを見ていた貴族たちの中には、こちらを見ながらヒソヒソ言葉を交わす者たちもいた。
「見て、王太子殿下と妃殿下よ」
「相変わらず仲のよろしいこと」
「でもねぇ…」
そんな言葉が聞こえてくる。
レイヴンとジェーンが噂されていた時は、少なくとも直接レイヴンに聞かせるような者はいなかった。だけど醜聞だったあの噂と違ってこれはレイヴンとアリシアを批判する声だ。
だからこそ何の反応も示さないレイヴンやアリシアに苛立つのかもしれない。
ただこの騒動でわかったこともある。
畏まった顔で礼をし挨拶をしていても、すれ違った後はこれ見よがしにひそひそと囁き合う者たちもいる。一方で少しも態度が変わらない者、アリシアへ心配そうな視線を向ける者たちもいた。
本当に信頼できる者はこんな時に見極められるのだろう。
「あら?あれは……」
中央庭園を抜けたところでアリシアが声を上げた。
視線の先にはノティスがいる。
ノティスは数人の令息や令嬢と一緒にテーブルを囲んでいた。
「異母兄上、義姉上!」
ノティスもこちらに気付いて席を立つ。
一緒にいる者たちも一斉に立ち上がっていた。
レイヴンとアリシアが近づくと一斉に頭を下げる。
「友人か?」
「はい。学園で仲良くなった方たちです。今日は一緒に勉強をしていました」
ノティスの言葉の通り、テーブルの上には教科書やノートが広げられている。
ノティスは順番に友人たちを紹介してくれた。
紹介された者はそれぞれ礼をして自己紹介をする。
彼らはデビュタントを終えてまだ1年程しか経っていない。
デビュタントの時に挨拶を受けているので顔と名前は憶えているが、馴染みがないのは仕方のないことだ。
アリシアたちは、ノティスの学園での様子をある程度は把握している。友人ができたことも、その友人たちと放課後討論会を開いていることも知っていた。
ノティスが苦手にしているのは討論だが、友人たちとみんなでAクラスを目指すのなら学力アップが必要な友人もいるだろう。
それ自体はおかしなことではないのだが。
「わざわざここで勉強を?」
アリシアと同じ疑問をレイヴンも感じたようだ。
夏が近づき暑く感じるようになっているのに、わざわざ庭園で勉強をする必要があるだろうか?
「あ…。王宮に来てみたいと言うので、わたしが招待致しました。いけませんでしたか……?」
アリシアたちの疑問はノティスに上手く伝わらなかったようだ。
王宮に来てみたいだけなら他の貴族たちと同じ様に親と一緒に来れば良い。
勉強だけが目的なら、ノティスの部屋へ行けば良いのだ。王族の私室に招かれるのはそれだけでステータスになる。
だけどそうではなく、人目につく場所でノティスと一緒に過ごし、こんな風にマルグリットやレイヴンの目に留まることを期待した者がいるのだろう。
だけどそれを含めて人付き合いだ。
これからノティスも、アリシアと同じ様に本当に信頼できる相手を見極めていかなくてはならない。
静かにアリシアの髪を撫でていたレイヴンだったが、窓の外へ視線を向けるとそう言った。
この数日は雨が続いていたので表へ出ることができなかったのだ。
季節は刻々と夏へ移り変わっている。外に出ると少し暑いかもしれない。
だけど部屋の中にいるより気持ちが晴れる気がした。
「ええ、良いですわね」
アリシアが頷くと、エレノアがすぐに支度を整えてくれる。
レイヴンにエスコートされたアリシアは中央庭園へ向かった。
中央庭園まで来ると、他の貴族たちも各々散歩している。
アリシアたちの姿を見ると何かと言ってこようとするが、姿を見せなければ見せなかったで、寵愛が薄れたのだとか、仲違いをしているのでは、などと勝手なことを言い立てられる。だからこうして仲睦まじいところを時々見せておかなくてはならない。
すれ違った貴族たちが2人に挨拶をしていく。
アリシアに思うところがあったとしても、アリシアが王太子妃であることに変わりがない。すれ違う者たちは次々にアリシアへ頭を下げる。
ただそれを見ていた貴族たちの中には、こちらを見ながらヒソヒソ言葉を交わす者たちもいた。
「見て、王太子殿下と妃殿下よ」
「相変わらず仲のよろしいこと」
「でもねぇ…」
そんな言葉が聞こえてくる。
レイヴンとジェーンが噂されていた時は、少なくとも直接レイヴンに聞かせるような者はいなかった。だけど醜聞だったあの噂と違ってこれはレイヴンとアリシアを批判する声だ。
だからこそ何の反応も示さないレイヴンやアリシアに苛立つのかもしれない。
ただこの騒動でわかったこともある。
畏まった顔で礼をし挨拶をしていても、すれ違った後はこれ見よがしにひそひそと囁き合う者たちもいる。一方で少しも態度が変わらない者、アリシアへ心配そうな視線を向ける者たちもいた。
本当に信頼できる者はこんな時に見極められるのだろう。
「あら?あれは……」
中央庭園を抜けたところでアリシアが声を上げた。
視線の先にはノティスがいる。
ノティスは数人の令息や令嬢と一緒にテーブルを囲んでいた。
「異母兄上、義姉上!」
ノティスもこちらに気付いて席を立つ。
一緒にいる者たちも一斉に立ち上がっていた。
レイヴンとアリシアが近づくと一斉に頭を下げる。
「友人か?」
「はい。学園で仲良くなった方たちです。今日は一緒に勉強をしていました」
ノティスの言葉の通り、テーブルの上には教科書やノートが広げられている。
ノティスは順番に友人たちを紹介してくれた。
紹介された者はそれぞれ礼をして自己紹介をする。
彼らはデビュタントを終えてまだ1年程しか経っていない。
デビュタントの時に挨拶を受けているので顔と名前は憶えているが、馴染みがないのは仕方のないことだ。
アリシアたちは、ノティスの学園での様子をある程度は把握している。友人ができたことも、その友人たちと放課後討論会を開いていることも知っていた。
ノティスが苦手にしているのは討論だが、友人たちとみんなでAクラスを目指すのなら学力アップが必要な友人もいるだろう。
それ自体はおかしなことではないのだが。
「わざわざここで勉強を?」
アリシアと同じ疑問をレイヴンも感じたようだ。
夏が近づき暑く感じるようになっているのに、わざわざ庭園で勉強をする必要があるだろうか?
「あ…。王宮に来てみたいと言うので、わたしが招待致しました。いけませんでしたか……?」
アリシアたちの疑問はノティスに上手く伝わらなかったようだ。
王宮に来てみたいだけなら他の貴族たちと同じ様に親と一緒に来れば良い。
勉強だけが目的なら、ノティスの部屋へ行けば良いのだ。王族の私室に招かれるのはそれだけでステータスになる。
だけどそうではなく、人目につく場所でノティスと一緒に過ごし、こんな風にマルグリットやレイヴンの目に留まることを期待した者がいるのだろう。
だけどそれを含めて人付き合いだ。
これからノティスも、アリシアと同じ様に本当に信頼できる相手を見極めていかなくてはならない。
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