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第2部 5章
36 すこしずつ距離を
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「今日のお茶会は楽しめたようだね」
「はい。初めは緊張しましたが、皆様良くして下さいました」
グーリッド伯爵邸へ向かう馬車の中、向かい合って座ったレオナルドとディアナが笑顔を交わす。
お茶会ではアイビスの初恋騒動があったけれど、それ以外は終始笑顔が溢れ、和やかに終わった。
ディアナも案じていたような粗相を犯すことはなく、これまで縁のなかった高貴な方々にも受け入れられたと感じられた。
「パトリシア殿下と初めてお話しましたが、優しい方で良かったです」
学園で同学年だが、クラスの違うパトリシアと交わることはこれまでなかった。
だけどディアナがAクラスを目指していると知ると、協力を申し出てくれたのだ。
ディアナはその申し出を有難く受けることにした。
言葉には出さないが、アイビスのことを考えてしまう。
レオナルドへ向けた想いは、幼いなりに真剣だったはずだ。
それなのにレオナルドの相手が、取るに足らない、隣に立つのに相応しくないような相手であれば、悔しい思いをするだろう。
アイビスの為にもレオナルドと公爵家に相応しくなりたいと強く思う。
「パトリシア殿下か……。僕も直接お話したのは初めてだ。殿下と親しくなれただけでも参加した価値はあった」
レオナルドは幼い頃から王宮や王太子宮に出入りしているが、側妃が生んだ子どもたちと言葉をかわす機会はあまりない。すれ違っても挨拶をして通り過ぎるだけである。
パトリシアとも舞踏会や夜会で挨拶をしたことはあるが、ちゃんと話をしたのはこれが初めてだった。
側妃の子とはいえ、王子や王女と親しくなるのは悪くない。
特にパトリシアはユリアの娘である。
外から見る限り、国王が一番大切にしているのはマルグリットだが、ユリアとも特別な絆があるようだ。
パトリシアも幼い頃から婚約しているが、先に嫁ぐカナリーと比べて家格が落ちないように侯爵家に絞って婚約者を探した節がある。
マルグリットとユリアが親しいのも関係しているかもしれない。
「パトリシア殿下が嫁ぐのは、ルクベルク侯爵家だったね」
このままパトリシアと親しくなれば、いずれ侯爵家とも親交を持つことができる。パトリシアとしてもルトビア公爵家との繋がりは大きい。特にユリアの実家はほとんど没落していて、降嫁後の王女の後ろ盾になる力はないのだ。
お互いにとって今日のお茶会は有意義だったと言えるだろう。
「ルクベルク侯爵子息も学園にいらっしゃいますわ。殿下と同じAクラスです」
「そう。それじゃあディアナ嬢も言葉を交わす機会があるかもしれないね」
パトリシアが学園でディアナの勉強を見てくれるのならそうなるだろう。ルクベルク侯爵子息も交えて討論会が行われるかもしれない。
そうして人脈は広がっていくのだ。
「あの、レオナルド様……」
「どうしたの?」
呼び掛けられたレオナルドは首を傾げた。
ディアナが赤くなって目を伏せているのだ。
しばらく躊躇った後、ディアナは意を決したように顔を上げた。
「私のことを、ディアナと呼んで下さいませんか…?」
レオナルドは目を瞬いた。
これまで『ディアナ嬢』と呼んでいたのを『ディアナ』と呼んで欲しいと言っているのだ。
カナリーと同じ様にレオナルドからの距離を感じていたのかもしれない。
レオナルドはくすっと笑った。
「わかった。これからはディアナと呼ぶことにするよ。僕のこともレオナルドと呼んでくれて構わない。レオでも良いよ」
「いえっ!それは……っ」
ディアナが慌てた声を出す。
まあ無理だろうな、とレオナルドは苦笑した。
アリシアと同様、ディアナも公爵子息を呼び捨てにするような教育は受けていないのだ。
「焦らなくて良いから、少しずつね」
レオナルドがそう言うと、ディアナはホッとしたように頷いた。
まだ知り合ってからそれ程時が経っていない。
距離を縮めるのはこれからで十分だ。
「はい。初めは緊張しましたが、皆様良くして下さいました」
グーリッド伯爵邸へ向かう馬車の中、向かい合って座ったレオナルドとディアナが笑顔を交わす。
お茶会ではアイビスの初恋騒動があったけれど、それ以外は終始笑顔が溢れ、和やかに終わった。
ディアナも案じていたような粗相を犯すことはなく、これまで縁のなかった高貴な方々にも受け入れられたと感じられた。
「パトリシア殿下と初めてお話しましたが、優しい方で良かったです」
学園で同学年だが、クラスの違うパトリシアと交わることはこれまでなかった。
だけどディアナがAクラスを目指していると知ると、協力を申し出てくれたのだ。
ディアナはその申し出を有難く受けることにした。
言葉には出さないが、アイビスのことを考えてしまう。
レオナルドへ向けた想いは、幼いなりに真剣だったはずだ。
それなのにレオナルドの相手が、取るに足らない、隣に立つのに相応しくないような相手であれば、悔しい思いをするだろう。
アイビスの為にもレオナルドと公爵家に相応しくなりたいと強く思う。
「パトリシア殿下か……。僕も直接お話したのは初めてだ。殿下と親しくなれただけでも参加した価値はあった」
レオナルドは幼い頃から王宮や王太子宮に出入りしているが、側妃が生んだ子どもたちと言葉をかわす機会はあまりない。すれ違っても挨拶をして通り過ぎるだけである。
パトリシアとも舞踏会や夜会で挨拶をしたことはあるが、ちゃんと話をしたのはこれが初めてだった。
側妃の子とはいえ、王子や王女と親しくなるのは悪くない。
特にパトリシアはユリアの娘である。
外から見る限り、国王が一番大切にしているのはマルグリットだが、ユリアとも特別な絆があるようだ。
パトリシアも幼い頃から婚約しているが、先に嫁ぐカナリーと比べて家格が落ちないように侯爵家に絞って婚約者を探した節がある。
マルグリットとユリアが親しいのも関係しているかもしれない。
「パトリシア殿下が嫁ぐのは、ルクベルク侯爵家だったね」
このままパトリシアと親しくなれば、いずれ侯爵家とも親交を持つことができる。パトリシアとしてもルトビア公爵家との繋がりは大きい。特にユリアの実家はほとんど没落していて、降嫁後の王女の後ろ盾になる力はないのだ。
お互いにとって今日のお茶会は有意義だったと言えるだろう。
「ルクベルク侯爵子息も学園にいらっしゃいますわ。殿下と同じAクラスです」
「そう。それじゃあディアナ嬢も言葉を交わす機会があるかもしれないね」
パトリシアが学園でディアナの勉強を見てくれるのならそうなるだろう。ルクベルク侯爵子息も交えて討論会が行われるかもしれない。
そうして人脈は広がっていくのだ。
「あの、レオナルド様……」
「どうしたの?」
呼び掛けられたレオナルドは首を傾げた。
ディアナが赤くなって目を伏せているのだ。
しばらく躊躇った後、ディアナは意を決したように顔を上げた。
「私のことを、ディアナと呼んで下さいませんか…?」
レオナルドは目を瞬いた。
これまで『ディアナ嬢』と呼んでいたのを『ディアナ』と呼んで欲しいと言っているのだ。
カナリーと同じ様にレオナルドからの距離を感じていたのかもしれない。
レオナルドはくすっと笑った。
「わかった。これからはディアナと呼ぶことにするよ。僕のこともレオナルドと呼んでくれて構わない。レオでも良いよ」
「いえっ!それは……っ」
ディアナが慌てた声を出す。
まあ無理だろうな、とレオナルドは苦笑した。
アリシアと同様、ディアナも公爵子息を呼び捨てにするような教育は受けていないのだ。
「焦らなくて良いから、少しずつね」
レオナルドがそう言うと、ディアナはホッとしたように頷いた。
まだ知り合ってからそれ程時が経っていない。
距離を縮めるのはこれからで十分だ。
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