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第2部 5章
37 それぞれの初恋
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同じ頃、アリシアの部屋でレイヴンとアリシアもお茶会の話をしていた。
こちらでもパトリシアが話題になっている。
これまでほとんど関わりのなかったパトリシアと親しくなれたのは大きい。それにお茶会の間中、中央庭園を訪れていた貴族たちがこちらを気にしていることにも気がついていた。
彼らは目撃者として、目にしたことを社交界で広めてくれるだろう。珍しい顔ぶれなので人の興味を引くはずだ。元々の狙いはディアナとアリシアたちの繋がりを知らしめることなので、目的は十分果たされたと言えるだろう。
アリシアはこの結果に満足していた。
そんなアリシアに、レイヴンがおずおずと話し掛ける。
「あの…さ、アリシアもそうだった……?」
何のことかわからないアリシアは首を傾げた。
レイヴンは哀しそうな顔をしている。
どうしたのか問い掛けようとした時、レイヴンが言葉を続けた。
「マルセルのことを諦める為に、しっかり目に焼き付けた……?」
「っ!!」
アリシアは息を飲んだ。
レイヴンはアイビスに告げたアリシアの言葉で、マルセルのことを思い出していたのだ。
「……………………」
どう答えればいいのか、しばらく逡巡していたアリシアだったが、マルセルを想っていたことは既に知られている。ここで躊躇っていても仕方がない、とアリシアは想い切ることにした。
「私は……。マルセル殿と、結ばれたいと思ったことはございませんので」
あの頃、アリシアは確かにマルセルを想っていたけれど、マルセルへ気持ちを告げるつもりはなかった。
愛情によって成り立つ関係に恐怖を感じていたアリシアには、王太子妃として相応しく振舞っていれば正妃として扱うというレイヴンの言葉が何より安心できたのだ。
だからマルセルに婚約者がいると聞いても受け入れられたし、マルセルと婚約者の睦まじい姿を見ても心が騒ぐことはなかった。
こうして考えてみると、マルセルへ向けた想いは恋ではなく憧れのようなものだったのかもしれない。
もし今、レイヴンが他の女性と睦まじくしているところを見ればきっと平静ではいられないだろう。
アリシアが腕を伸ばすとレイヴンが抱き締めてくれる。
レイヴンが側妃を迎えて他の女性をこうして抱き締めたらと思うと、それだけで胸が灼けた。
「……変なことを訊いてごめんね」
レイヴンはアリシアが気持ちを疑われて悲しんでいると思ったようだ。
アリシアの額や頬に何度も口づける。アリシアはそれに応えるように、背中へまわした腕に力を込めた。
レイヴンはアリシアの気持ちを疑っているわけではない。
レイヴンの初恋はアリシアだけど、アリシアの初恋はレイヴンではなかった、それだけだ。
今のアリシアはレイヴンを愛してくれている。
だけどもう終わったことだとわかっていても、かつてアリシアがマルセルへ向けていた視線を思い出すと、どうしようもなく胸が痛むのだ。
それにレイヴンたちが結婚した後少し時間を置いて結婚したマルセルは、既に跡継ぎとなる子を儲けている。
マルセルが伯爵位を継いだ後は、その子が跡継ぎとして届け出られるだろう。
もしアリシアがマルセルと結婚していれば、今頃はアリシアも母になっていたかもしれない。少なくともマルセルなら、2年の時を無駄にすることはなかった。
それに伯爵家なら跡継ぎが生まれなくても養子を取ることができる。
もしかしたらアリシアは、マルセルと結婚した方が幸せだったかもしれない。
そこまで考えて、レイヴンは首を振った。
もしそうだとしても、アリシアを譲ることなんてできない。
例え時を遡ることができたとしても、レイヴンはアリシアを手放さないだろう。
こんなことを考えても無意味なのだ。
「レイヴン様?」
アリシアが心配そうにレイヴンを見上げている。
レイヴンは安心させるようにアリシアの額へ口づけた。
こちらでもパトリシアが話題になっている。
これまでほとんど関わりのなかったパトリシアと親しくなれたのは大きい。それにお茶会の間中、中央庭園を訪れていた貴族たちがこちらを気にしていることにも気がついていた。
彼らは目撃者として、目にしたことを社交界で広めてくれるだろう。珍しい顔ぶれなので人の興味を引くはずだ。元々の狙いはディアナとアリシアたちの繋がりを知らしめることなので、目的は十分果たされたと言えるだろう。
アリシアはこの結果に満足していた。
そんなアリシアに、レイヴンがおずおずと話し掛ける。
「あの…さ、アリシアもそうだった……?」
何のことかわからないアリシアは首を傾げた。
レイヴンは哀しそうな顔をしている。
どうしたのか問い掛けようとした時、レイヴンが言葉を続けた。
「マルセルのことを諦める為に、しっかり目に焼き付けた……?」
「っ!!」
アリシアは息を飲んだ。
レイヴンはアイビスに告げたアリシアの言葉で、マルセルのことを思い出していたのだ。
「……………………」
どう答えればいいのか、しばらく逡巡していたアリシアだったが、マルセルを想っていたことは既に知られている。ここで躊躇っていても仕方がない、とアリシアは想い切ることにした。
「私は……。マルセル殿と、結ばれたいと思ったことはございませんので」
あの頃、アリシアは確かにマルセルを想っていたけれど、マルセルへ気持ちを告げるつもりはなかった。
愛情によって成り立つ関係に恐怖を感じていたアリシアには、王太子妃として相応しく振舞っていれば正妃として扱うというレイヴンの言葉が何より安心できたのだ。
だからマルセルに婚約者がいると聞いても受け入れられたし、マルセルと婚約者の睦まじい姿を見ても心が騒ぐことはなかった。
こうして考えてみると、マルセルへ向けた想いは恋ではなく憧れのようなものだったのかもしれない。
もし今、レイヴンが他の女性と睦まじくしているところを見ればきっと平静ではいられないだろう。
アリシアが腕を伸ばすとレイヴンが抱き締めてくれる。
レイヴンが側妃を迎えて他の女性をこうして抱き締めたらと思うと、それだけで胸が灼けた。
「……変なことを訊いてごめんね」
レイヴンはアリシアが気持ちを疑われて悲しんでいると思ったようだ。
アリシアの額や頬に何度も口づける。アリシアはそれに応えるように、背中へまわした腕に力を込めた。
レイヴンはアリシアの気持ちを疑っているわけではない。
レイヴンの初恋はアリシアだけど、アリシアの初恋はレイヴンではなかった、それだけだ。
今のアリシアはレイヴンを愛してくれている。
だけどもう終わったことだとわかっていても、かつてアリシアがマルセルへ向けていた視線を思い出すと、どうしようもなく胸が痛むのだ。
それにレイヴンたちが結婚した後少し時間を置いて結婚したマルセルは、既に跡継ぎとなる子を儲けている。
マルセルが伯爵位を継いだ後は、その子が跡継ぎとして届け出られるだろう。
もしアリシアがマルセルと結婚していれば、今頃はアリシアも母になっていたかもしれない。少なくともマルセルなら、2年の時を無駄にすることはなかった。
それに伯爵家なら跡継ぎが生まれなくても養子を取ることができる。
もしかしたらアリシアは、マルセルと結婚した方が幸せだったかもしれない。
そこまで考えて、レイヴンは首を振った。
もしそうだとしても、アリシアを譲ることなんてできない。
例え時を遡ることができたとしても、レイヴンはアリシアを手放さないだろう。
こんなことを考えても無意味なのだ。
「レイヴン様?」
アリシアが心配そうにレイヴンを見上げている。
レイヴンは安心させるようにアリシアの額へ口づけた。
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