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第2部 5章
38 巣立ちの淋しさ
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暑い盛りが過ぎた頃、カナリーの結婚式が行われた。
王宮内に建つ教会から祝いの鐘が鳴り響き、王都の教会へと広がっていく。
王家の慶事は予め公布されているので、鐘を聞いた国民たちがカナリーを祝おうと王宮の正門前に集まってくる。カナリーを乗せた馬車が王宮を出るころには、多くの民衆が正門前に詰めかけ、カナリーに祝福の言葉を掛けていた。
ウェディングドレスを着たカナリーは美しかった。
アリシアが思った通り、Aラインのシンプルなドレスはカナリーの美しさを良く引き立てている。カナリー自身が美しく華やかなので、派手な飾りはいらないのだ。
アリシアは祭壇で幸せそうに微笑み合うカナリーとサディアスを見て、2人の幸せを祈った。
そうしてカナリーが王宮を出てから早くも10日程が過ぎた。アリシアはその間、毎晩正殿へ通ってマルグリットやアイビスと話をしている。
カナリーが嫁ぐ日は随分前から決まっていたのに、どうしても淋しさが拭えなかった。マルグリットやアイビスは余計にそうだろう。
「なんだか随分静かになってしまった気が致しますね」
「そうね。まだ皆受け入れられていないみたい」
アリシアの言葉にマルグリットが淋しそうに頷いた。
いなくなったのはカナリーだけだが、アイビスがしょんぼりと沈んでいるので、明るい笑い声が消えてしまったのだ。だけどこれは慣れるしかない。
「陛下もお淋しいみたいで、最近は良く正殿にいらっしゃるのよ」
マルグリットに言葉にアリシアはハッとして顔を上げた。
あの話を聞いてしまった後、マルグリットは心配を掛けたからと、国王と話し合ったことを教えてくれていた。
国王がサンドラを今も愛しているというのは、マルグリットの思い違いだったこと、名前で呼んで欲しいと言われたこと、……「愛している」と言われたこと。
そう話しながら頬を染めるマルグリットを見て、アリシアはマルグリットがまだ国王を愛しているのだと思い至った。
その後カナリーから国王がよく正殿に顔を出すようになったと聞き、極プライベートな時間だけ、マルグリットが国王を「クレイン様」と呼ぶようになったと教えられた。
カナリーはこれまでにない両親の姿に複雑な顔をしていたけれど、アリシアはホッとして胸を撫でおろしたのだ。
議会は今もレイヴンの側妃候補を選んでいる。
だけど側妃候補を推す力が弱まったのは、国王がレイヴンに側妃を娶らせることに消極的になったからだ。
国王はこれまで、正妃から跡継ぎが生まれなければ側妃を持つのは当然のことだと考えていた。
妃に求められる最も重要な職務は跡継ぎを生むことだと教えられ、歴代の国王もそれに倣っていた。だからユリアを薦められた時も仕方がないとすんなりと受け入れたのだ。
だけどその裏でマルグリットは辛い思いをしていた。
マルグリットとアリシアの話を盗み聞いたことで、そのことに思い至ったのだ。
国王の中には今も世継ぎを案じる気持ちがあるだろう。マルグリットにも息子の跡は孫に、という気持ちはあるはずだ。慣習に逆らう怖さも、議会や貴族の反発も2人はよく知っている。
だけど国王は、側妃を迎えるのはせめてレイヴンが受け入れてから、と考えを改めてくれたようだ。
アリシアは焦る気持ちを抑えて見守ってくれる2人に深く感謝していた。
王宮内に建つ教会から祝いの鐘が鳴り響き、王都の教会へと広がっていく。
王家の慶事は予め公布されているので、鐘を聞いた国民たちがカナリーを祝おうと王宮の正門前に集まってくる。カナリーを乗せた馬車が王宮を出るころには、多くの民衆が正門前に詰めかけ、カナリーに祝福の言葉を掛けていた。
ウェディングドレスを着たカナリーは美しかった。
アリシアが思った通り、Aラインのシンプルなドレスはカナリーの美しさを良く引き立てている。カナリー自身が美しく華やかなので、派手な飾りはいらないのだ。
アリシアは祭壇で幸せそうに微笑み合うカナリーとサディアスを見て、2人の幸せを祈った。
そうしてカナリーが王宮を出てから早くも10日程が過ぎた。アリシアはその間、毎晩正殿へ通ってマルグリットやアイビスと話をしている。
カナリーが嫁ぐ日は随分前から決まっていたのに、どうしても淋しさが拭えなかった。マルグリットやアイビスは余計にそうだろう。
「なんだか随分静かになってしまった気が致しますね」
「そうね。まだ皆受け入れられていないみたい」
アリシアの言葉にマルグリットが淋しそうに頷いた。
いなくなったのはカナリーだけだが、アイビスがしょんぼりと沈んでいるので、明るい笑い声が消えてしまったのだ。だけどこれは慣れるしかない。
「陛下もお淋しいみたいで、最近は良く正殿にいらっしゃるのよ」
マルグリットに言葉にアリシアはハッとして顔を上げた。
あの話を聞いてしまった後、マルグリットは心配を掛けたからと、国王と話し合ったことを教えてくれていた。
国王がサンドラを今も愛しているというのは、マルグリットの思い違いだったこと、名前で呼んで欲しいと言われたこと、……「愛している」と言われたこと。
そう話しながら頬を染めるマルグリットを見て、アリシアはマルグリットがまだ国王を愛しているのだと思い至った。
その後カナリーから国王がよく正殿に顔を出すようになったと聞き、極プライベートな時間だけ、マルグリットが国王を「クレイン様」と呼ぶようになったと教えられた。
カナリーはこれまでにない両親の姿に複雑な顔をしていたけれど、アリシアはホッとして胸を撫でおろしたのだ。
議会は今もレイヴンの側妃候補を選んでいる。
だけど側妃候補を推す力が弱まったのは、国王がレイヴンに側妃を娶らせることに消極的になったからだ。
国王はこれまで、正妃から跡継ぎが生まれなければ側妃を持つのは当然のことだと考えていた。
妃に求められる最も重要な職務は跡継ぎを生むことだと教えられ、歴代の国王もそれに倣っていた。だからユリアを薦められた時も仕方がないとすんなりと受け入れたのだ。
だけどその裏でマルグリットは辛い思いをしていた。
マルグリットとアリシアの話を盗み聞いたことで、そのことに思い至ったのだ。
国王の中には今も世継ぎを案じる気持ちがあるだろう。マルグリットにも息子の跡は孫に、という気持ちはあるはずだ。慣習に逆らう怖さも、議会や貴族の反発も2人はよく知っている。
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アリシアは焦る気持ちを抑えて見守ってくれる2人に深く感謝していた。
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