525 / 697
第2部 5章
39 覚悟①
しおりを挟む
この日、レイヴンとアリシアはリベラ侯爵家の舞踏会に来ていた。
最近ではアルスタから戻る使節団の帰還式典と舞踏会の準備に追われているレイヴンだが、これはカナリーを次期侯爵夫人としてお披露目する為のものである。王籍を離れた後も王家がカナリーの後ろ盾だと示す為にも外すことのできない舞踏会だった。
レイヴンとアリシアが広間へ足を踏み入れると、そこかしこで黄色い声が上がる。
あまり臣下の開く舞踏会には参加しないレイヴンだが、これはカナリーの晴れ舞台なので出席するだろうと見込んだ令嬢たちが、レイヴンの訪れを待っていたのだ。
令嬢たちには隣に立つアリシアが見えていないらしい。
最近は社交界に出る度に非難を受けるアリシアだが、王宮に引き籠っているわけにもいかない。それは中傷に負けることと同義である。
アリシアはこれまでと同じように、何を言われても気にしないことにしていた。
広間へ入ってすぐのところで客人を出迎える侯爵夫妻に挨拶を受け、広間の中へと進んでいく。
本日の主役であるサディアスとカナリーがすぐに挨拶に訪れた。
カナリーは薄紅色のドレスを着ていて、初々しくありながらも存在感を放っている。
「王太子殿下、妃殿下。今宵はお出で下さり、ありがとうございます」
「改めて結婚おめでとう、2人とも。2人の幸せを心から願っている」
形式的な挨拶が終わると、カナリーの表情が緩む。
サディアスはまだ緊張しているようだが、彼ももう王太子の義弟になったのだ。これからはその立場に慣れていかなくてはならない。
「お義姉様のドレス、素敵ですわ。それはモルガン伯爵領の織物ですわね」
「ええ、そうよ。モルガン伯爵夫人が贈って下さったの」
アリシアは最近、社交界で着るドレスに苦慮していた。
レイヴンの色を使ったドレスは貴族たちの悪感情を掻き立てるが、着なくなれば寵愛が薄れたのだと嗤われる。
そんなアリシアの窮状を知ったアシュリーが、織物を献上すると申し出てくれたのだ。
モルガン伯爵領の織物は染めも織り目も独特なので見る人が見れば一目でわかる。
王太子や王太子妃に貴族が特産品を献上するのは良くあることで、献上品にレイヴンの色が使われていないのは当然のことだ。
モルガン伯爵家は特産品の中でも最上のものを献上することになるが、それをアリシアが社交界で着れば話題になって伯爵領の織物が売れる。現にアリシアのドレスがモルガン伯爵領の織物を使ったものだと気づいた夫人方は感嘆の息を漏らしていた。
織物を王宮まで届けてくれるのはルーファスだ。
年越しに合わせて領地に戻ったルーファスだが、年が変わってからも数か月ごとに王都へ来ては国王の執務室で話をしている。最近では同席する大臣や文官たちからその優秀さが広められ、ルトビア公爵家の縁者だから贔屓されているという風評を覆していた。ロバートの陰に隠れていたルーファスの才能が王都で認められたのだ。
そうして王宮へ通う内に、ルーファスはアリシアの置かれた状況に気がついた。
知らせを受けたサラはすぐにアシュリーへ報告し、2人で織り物を選んでくれたという。
それ以来、定期的に織物が届けられている。ルーファスによると、「可愛い姪の為に」と毎回アシュリーが張り切って選んでいるそうだ。
最近ではアルスタから戻る使節団の帰還式典と舞踏会の準備に追われているレイヴンだが、これはカナリーを次期侯爵夫人としてお披露目する為のものである。王籍を離れた後も王家がカナリーの後ろ盾だと示す為にも外すことのできない舞踏会だった。
レイヴンとアリシアが広間へ足を踏み入れると、そこかしこで黄色い声が上がる。
あまり臣下の開く舞踏会には参加しないレイヴンだが、これはカナリーの晴れ舞台なので出席するだろうと見込んだ令嬢たちが、レイヴンの訪れを待っていたのだ。
令嬢たちには隣に立つアリシアが見えていないらしい。
最近は社交界に出る度に非難を受けるアリシアだが、王宮に引き籠っているわけにもいかない。それは中傷に負けることと同義である。
アリシアはこれまでと同じように、何を言われても気にしないことにしていた。
広間へ入ってすぐのところで客人を出迎える侯爵夫妻に挨拶を受け、広間の中へと進んでいく。
本日の主役であるサディアスとカナリーがすぐに挨拶に訪れた。
カナリーは薄紅色のドレスを着ていて、初々しくありながらも存在感を放っている。
「王太子殿下、妃殿下。今宵はお出で下さり、ありがとうございます」
「改めて結婚おめでとう、2人とも。2人の幸せを心から願っている」
形式的な挨拶が終わると、カナリーの表情が緩む。
サディアスはまだ緊張しているようだが、彼ももう王太子の義弟になったのだ。これからはその立場に慣れていかなくてはならない。
「お義姉様のドレス、素敵ですわ。それはモルガン伯爵領の織物ですわね」
「ええ、そうよ。モルガン伯爵夫人が贈って下さったの」
アリシアは最近、社交界で着るドレスに苦慮していた。
レイヴンの色を使ったドレスは貴族たちの悪感情を掻き立てるが、着なくなれば寵愛が薄れたのだと嗤われる。
そんなアリシアの窮状を知ったアシュリーが、織物を献上すると申し出てくれたのだ。
モルガン伯爵領の織物は染めも織り目も独特なので見る人が見れば一目でわかる。
王太子や王太子妃に貴族が特産品を献上するのは良くあることで、献上品にレイヴンの色が使われていないのは当然のことだ。
モルガン伯爵家は特産品の中でも最上のものを献上することになるが、それをアリシアが社交界で着れば話題になって伯爵領の織物が売れる。現にアリシアのドレスがモルガン伯爵領の織物を使ったものだと気づいた夫人方は感嘆の息を漏らしていた。
織物を王宮まで届けてくれるのはルーファスだ。
年越しに合わせて領地に戻ったルーファスだが、年が変わってからも数か月ごとに王都へ来ては国王の執務室で話をしている。最近では同席する大臣や文官たちからその優秀さが広められ、ルトビア公爵家の縁者だから贔屓されているという風評を覆していた。ロバートの陰に隠れていたルーファスの才能が王都で認められたのだ。
そうして王宮へ通う内に、ルーファスはアリシアの置かれた状況に気がついた。
知らせを受けたサラはすぐにアシュリーへ報告し、2人で織り物を選んでくれたという。
それ以来、定期的に織物が届けられている。ルーファスによると、「可愛い姪の為に」と毎回アシュリーが張り切って選んでいるそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる