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第2部 5章
40 覚悟②
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「本日はどうかお楽しみ下さいませ」
軽く会話を交わした後、一礼をしたサディアスとカナリーが離れていく。
アリシアの状況を理解しているカナリーは、アリシアが楽しめるはずがないのはわかっていた。それでも舞踏会の主役である以上、1人の客だけに構っているわけにはいかない。
心配そうな顔を見せるカナリーをアリシアは笑顔で見送った。
その後も、しばらくは和やかな時間が続いた。
貴族でもアリシアに批判的な者ばかりではない。
レオナルドとディアナが挨拶に来てくれたし、新たに友人となったカロリーナやエレーナ、ジョアニーも挨拶に来てくれた。
中でもカロリーナはアリシアへ同情を寄せてくれていた。3人の中ではカロリーナだけがまだ子を生んでいない。
カロリーナも跡継ぎを求められる重圧を感じているのだろう。ただ、カロリーナには継承権のことで夫との仲が拗れていた時期があった。だから今はまだ仕方がないと思うようにしているようだ。
カロリーナが伯爵家の娘なのも大きい。
娘夫婦の状況を知っていた両親が口を出さずに見守ってくれているのだ。
それを思うと、婿を迎えたカロリーナが少しだけ羨ましい気がした。
穏やかな時間には終わりが来るもので、親しい者とばかり過ごしているわけにはいかない。
未婚の娘を連れた貴族たちがレイヴンの元へ押し寄せてくる。議会が側妃候補を推す力を失ったとしても、側妃を狙う令嬢がいなくなったわけではない。寧ろ議会が力を失ったことで、レイヴンに気に入られることが一番の条件になった。婚姻できる年齢で一番若い令嬢を、という年齢制限もないので、未婚の令嬢を持つ貴族たちは皆張り切っている。
それでも礼儀を弁えた令嬢はレイヴンに秋波を送りながらもアリシアへの礼も忘れることはなく、少し言葉を交わした後は常識的な範囲で傍を離れていく。
問題なのは礼儀を弁えない一部の者たちで、親子揃って嘲笑するような笑みを浮かべてアリシアへぞんざいに挨拶をした後、レイヴンに纏わりついて離れないのだ。
挨拶をする為に待っている貴族はまだ残っている。レイヴンが離れるよううながしても、「もう少しだけ、宜しいでしょう?」と言うことを聞かない。それを複数回繰り返し、やっと次の者に変わるのだ。
次の者に変わるといっても傍を離れるわけではない。
両親はともかく、令嬢はお声掛かりを待ってレイヴンのまわりをうろついている。似たような者たちと牽制し合い、トラブルを起こすことも増えていた。
特に今日は王宮の舞踏会ではなく、国王や王妃の目がないことで令嬢たちの行動も大胆になっているようだ。
酷いのがガーモット伯爵家のジェンナで、挨拶をした後はレイヴンの周りを決して離れようとしない。周りの令嬢と罵り合い、挨拶をしている令嬢の邪魔をしようとする。
見兼ねたカナリーが止めに入ろうとしたところで、レイヴンがジェンナへ柔らかい笑みを向けた。
「よくわかったよ。君には側妃になる覚悟があるんだね?」
瞬間、ジェンナが顔を輝かせる。
レイヴンはアリシアをエスコートしていた腕をほどくと、アリシアの腰へ腕をまわして抱き寄せた。
「僕はアリシアを愛している。側妃を娶るつもりはない。もう何度もそう言っているはずだ。君も聞いたことがあるんじゃないか?それでも無理にねじ込むというのなら、形だけの妃になる覚悟があるのだろう?君が側妃になっても、僕は君の殿舎に通うつもりはない。君とは白い結婚になる。だけど側妃に割り当てられる費用はあるから、ある程度は優雅に暮らせるよ。側妃の殿舎の人事権は正妃にあるけどね。――ああ、だけど側妃を迎えるのは子を生ませる為か。白い結婚なら子ができるはずないし、やっぱり君はいらないね」
そう言ってレイヴンがにっこり笑うと、ジェンナはカッと顔を赤くして歪ませた。両手を硬く握りしめ、全身をプルプルと震わせている。
伯爵令嬢として生まれ、大事に育てられたジェンナは、これまでこんな辱めを受けたことがないのだろう。
だけど人を貶めるのなら、自分もそうされる覚悟を持つべきなのだ。
そこへジェンナと同じく顔を紅潮させたガーモット伯爵夫妻が駆けつけた。
軽く会話を交わした後、一礼をしたサディアスとカナリーが離れていく。
アリシアの状況を理解しているカナリーは、アリシアが楽しめるはずがないのはわかっていた。それでも舞踏会の主役である以上、1人の客だけに構っているわけにはいかない。
心配そうな顔を見せるカナリーをアリシアは笑顔で見送った。
その後も、しばらくは和やかな時間が続いた。
貴族でもアリシアに批判的な者ばかりではない。
レオナルドとディアナが挨拶に来てくれたし、新たに友人となったカロリーナやエレーナ、ジョアニーも挨拶に来てくれた。
中でもカロリーナはアリシアへ同情を寄せてくれていた。3人の中ではカロリーナだけがまだ子を生んでいない。
カロリーナも跡継ぎを求められる重圧を感じているのだろう。ただ、カロリーナには継承権のことで夫との仲が拗れていた時期があった。だから今はまだ仕方がないと思うようにしているようだ。
カロリーナが伯爵家の娘なのも大きい。
娘夫婦の状況を知っていた両親が口を出さずに見守ってくれているのだ。
それを思うと、婿を迎えたカロリーナが少しだけ羨ましい気がした。
穏やかな時間には終わりが来るもので、親しい者とばかり過ごしているわけにはいかない。
未婚の娘を連れた貴族たちがレイヴンの元へ押し寄せてくる。議会が側妃候補を推す力を失ったとしても、側妃を狙う令嬢がいなくなったわけではない。寧ろ議会が力を失ったことで、レイヴンに気に入られることが一番の条件になった。婚姻できる年齢で一番若い令嬢を、という年齢制限もないので、未婚の令嬢を持つ貴族たちは皆張り切っている。
それでも礼儀を弁えた令嬢はレイヴンに秋波を送りながらもアリシアへの礼も忘れることはなく、少し言葉を交わした後は常識的な範囲で傍を離れていく。
問題なのは礼儀を弁えない一部の者たちで、親子揃って嘲笑するような笑みを浮かべてアリシアへぞんざいに挨拶をした後、レイヴンに纏わりついて離れないのだ。
挨拶をする為に待っている貴族はまだ残っている。レイヴンが離れるよううながしても、「もう少しだけ、宜しいでしょう?」と言うことを聞かない。それを複数回繰り返し、やっと次の者に変わるのだ。
次の者に変わるといっても傍を離れるわけではない。
両親はともかく、令嬢はお声掛かりを待ってレイヴンのまわりをうろついている。似たような者たちと牽制し合い、トラブルを起こすことも増えていた。
特に今日は王宮の舞踏会ではなく、国王や王妃の目がないことで令嬢たちの行動も大胆になっているようだ。
酷いのがガーモット伯爵家のジェンナで、挨拶をした後はレイヴンの周りを決して離れようとしない。周りの令嬢と罵り合い、挨拶をしている令嬢の邪魔をしようとする。
見兼ねたカナリーが止めに入ろうとしたところで、レイヴンがジェンナへ柔らかい笑みを向けた。
「よくわかったよ。君には側妃になる覚悟があるんだね?」
瞬間、ジェンナが顔を輝かせる。
レイヴンはアリシアをエスコートしていた腕をほどくと、アリシアの腰へ腕をまわして抱き寄せた。
「僕はアリシアを愛している。側妃を娶るつもりはない。もう何度もそう言っているはずだ。君も聞いたことがあるんじゃないか?それでも無理にねじ込むというのなら、形だけの妃になる覚悟があるのだろう?君が側妃になっても、僕は君の殿舎に通うつもりはない。君とは白い結婚になる。だけど側妃に割り当てられる費用はあるから、ある程度は優雅に暮らせるよ。側妃の殿舎の人事権は正妃にあるけどね。――ああ、だけど側妃を迎えるのは子を生ませる為か。白い結婚なら子ができるはずないし、やっぱり君はいらないね」
そう言ってレイヴンがにっこり笑うと、ジェンナはカッと顔を赤くして歪ませた。両手を硬く握りしめ、全身をプルプルと震わせている。
伯爵令嬢として生まれ、大事に育てられたジェンナは、これまでこんな辱めを受けたことがないのだろう。
だけど人を貶めるのなら、自分もそうされる覚悟を持つべきなのだ。
そこへジェンナと同じく顔を紅潮させたガーモット伯爵夫妻が駆けつけた。
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