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第2部 5章
65 宰相の後継者③
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当然のことながら宰相位は世襲制ではない。
アダムは公爵邸を訪れた前宰相に気に入られ、官僚として育てられた。
前宰相はアダムを後継者とするべく育て上げたけれど、その分父の跡を継ぐつもりで学んでいた前宰相の息子には随分と恨まれたそうだ。今でもアダムの政策を邪魔しようと何かと口出ししてくるという。
同じ様にレオナルドとリカルドが対立する日がくるのだろうか。
「アダム殿がリカルド兄上を手元で育てることはないだろうね。口には出さなくてもアダム殿はレオを後継者にするつもりでいるし、陛下もそれは望まないだろう。リカルド兄上はルーファス兄上と違って爵位を継ぐ予定もないし、領地での仕事も次期当主と違って補佐役の功績は表に知られにくい。要するに今のところリカルド兄上は実績のない無位の男だ。即陛下の直臣にするわけにもいかない。まずは財務大臣辺りの元で下っ端役人として始めると思うよ」
「…………」
アリシアもその推測は正しいと思う。
文官となる切っ掛けが何であれ、今のリカルドは実績のない無位の男だ。国王の側近に即なれるわけもなく、アダムが直接自分の元で働くよう誘わない限り宰相の下につくこともできない。
だけどリカルドが入局した経緯はすぐに知れ渡るだろう。
財務大臣辺りに、というのは、財務大臣がルトビア公爵派ではなく、中立派の者だからだ。
貴族たち――特にルトビア公爵家を疎ましく思う派閥の者たちがリカルドを放っておくはずがなく、リカルドは彼らの希望通りとても優秀な人物なのだ。仕事を与えられればすぐに頭角を現すだろう。レオナルドの対抗馬には十分である。
ぎゅっと手を握り締めたアリシアにロバートが優しく微笑んだ。
「心配しなくても、モルガン伯爵家はアリシアの側につく。それはルーファス兄上でもリカルド兄上でも同じだろう。モルガン伯爵家には殿下へ差し出せる娘はいないし、アリシアとは従兄妹になる。アリシアと対立する必要はない」
ロバートが国王の遣り方を上手いと思うのはここである。
次期宰相はレオナルドで決まりだと思われているところへ対抗馬を呼び込み、ルトビア公爵家ばかりを贔屓しているという貴族たちの不満を逸らさせる。だけどその対抗馬が後援するのもアリシアなのだ。
つまりレオナルドが宰相になろうとリカルドが宰相になろうとアリシアの地位は揺るがない。
「つまり後は僕がリカルド兄上に負けないよう励めばいい、ということだね」
レオナルドがそう言って頷いた。
レオナルドには高い身分とこれまでの実績がある。王太子にも信頼されている。現状ではレオナルドが随分と有利だ。
だけどアダムが引退するまでに実績や声望をひっくり返されているかもしれない。
実際のところ、国王にとっては次の宰相がレオナルドでもリカルドでも構わないのだ。
より優秀な者に宰相を任せたい。国王がそう考えるのは当然のことである。
「……僕たちも公平な目を持っているのか試されるってわけだ」
レイヴンはそっとアリシアの手を握った。
公平な目を持っているのか試される。
それは国王にも貴族たちにも見られているということだ。
もしリカルドがレオナルドより相応しい能力を見せた時に、リカルドを選ぶことができるのか。アリシアとレオナルドの仲の良さを知られているからこそ、貴族たちから向けられる目は厳しい。
そしてそれこそが王太子夫妻に求められる公平さである。特定の家や人物に肩入れすることは許されない。
「大丈夫。リカルド兄上に負けるつもりはないよ」
レオナルドはそう言うと、アリシアを安心させるように笑った。
アダムは公爵邸を訪れた前宰相に気に入られ、官僚として育てられた。
前宰相はアダムを後継者とするべく育て上げたけれど、その分父の跡を継ぐつもりで学んでいた前宰相の息子には随分と恨まれたそうだ。今でもアダムの政策を邪魔しようと何かと口出ししてくるという。
同じ様にレオナルドとリカルドが対立する日がくるのだろうか。
「アダム殿がリカルド兄上を手元で育てることはないだろうね。口には出さなくてもアダム殿はレオを後継者にするつもりでいるし、陛下もそれは望まないだろう。リカルド兄上はルーファス兄上と違って爵位を継ぐ予定もないし、領地での仕事も次期当主と違って補佐役の功績は表に知られにくい。要するに今のところリカルド兄上は実績のない無位の男だ。即陛下の直臣にするわけにもいかない。まずは財務大臣辺りの元で下っ端役人として始めると思うよ」
「…………」
アリシアもその推測は正しいと思う。
文官となる切っ掛けが何であれ、今のリカルドは実績のない無位の男だ。国王の側近に即なれるわけもなく、アダムが直接自分の元で働くよう誘わない限り宰相の下につくこともできない。
だけどリカルドが入局した経緯はすぐに知れ渡るだろう。
財務大臣辺りに、というのは、財務大臣がルトビア公爵派ではなく、中立派の者だからだ。
貴族たち――特にルトビア公爵家を疎ましく思う派閥の者たちがリカルドを放っておくはずがなく、リカルドは彼らの希望通りとても優秀な人物なのだ。仕事を与えられればすぐに頭角を現すだろう。レオナルドの対抗馬には十分である。
ぎゅっと手を握り締めたアリシアにロバートが優しく微笑んだ。
「心配しなくても、モルガン伯爵家はアリシアの側につく。それはルーファス兄上でもリカルド兄上でも同じだろう。モルガン伯爵家には殿下へ差し出せる娘はいないし、アリシアとは従兄妹になる。アリシアと対立する必要はない」
ロバートが国王の遣り方を上手いと思うのはここである。
次期宰相はレオナルドで決まりだと思われているところへ対抗馬を呼び込み、ルトビア公爵家ばかりを贔屓しているという貴族たちの不満を逸らさせる。だけどその対抗馬が後援するのもアリシアなのだ。
つまりレオナルドが宰相になろうとリカルドが宰相になろうとアリシアの地位は揺るがない。
「つまり後は僕がリカルド兄上に負けないよう励めばいい、ということだね」
レオナルドがそう言って頷いた。
レオナルドには高い身分とこれまでの実績がある。王太子にも信頼されている。現状ではレオナルドが随分と有利だ。
だけどアダムが引退するまでに実績や声望をひっくり返されているかもしれない。
実際のところ、国王にとっては次の宰相がレオナルドでもリカルドでも構わないのだ。
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「……僕たちも公平な目を持っているのか試されるってわけだ」
レイヴンはそっとアリシアの手を握った。
公平な目を持っているのか試される。
それは国王にも貴族たちにも見られているということだ。
もしリカルドがレオナルドより相応しい能力を見せた時に、リカルドを選ぶことができるのか。アリシアとレオナルドの仲の良さを知られているからこそ、貴族たちから向けられる目は厳しい。
そしてそれこそが王太子夫妻に求められる公平さである。特定の家や人物に肩入れすることは許されない。
「大丈夫。リカルド兄上に負けるつもりはないよ」
レオナルドはそう言うと、アリシアを安心させるように笑った。
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