【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 6章

6 母娘①

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 この半年程の間にアリシアの周囲も変わった。
 最近ではオレリアが頻繁に王太子宮を訪れている。
 
 アリシアが王太子宮への自由な出入りを許可した後も、オレリアは決して驕ることなく節度を守っていた。
 それが破られたのは、あの日――懐妊したと思っていたアリシアに月のモノが来た日――からだ。アリシアの落ち込んだ様子がレイヴンからレオナルドへ、そしてレオナルドからオレリアへ伝わったのだろう。デリケートな問題なので女親がついていた方が良いと思ったのかもしれない。





 オレリアが入室してくると、レイヴンは人払いをして部屋を出ていった。
 2人きりの方が本心を話せると気遣ってくれたのだろう。
 だけど扉が閉まる音が聞こえた後も、アリシアは何も言うことができなかった。
 何かを言ってしまえば抑えていた感情が溢れてしまいそうで、黙ったままオレリアの顔を見つめることしか出来なかったのだ。
 沈黙を破ったのはオレリアだった。

「アリシア」
 
 たった一言。
 そう呼び掛けられただけで、涙が零れ落ちていく。
 気が付けばオレリアの腕の中で声を上げて泣いていた。

 それからどれくらい経っただろうか。
 無言でアリシアの背中を撫でていたオレリアだが、アリシアが落ち着いてきたのを見計らって話し出した。

 オレリアも結婚してから何年経っても子ができなかったこと。
 その間に2年も後に婚姻を結んだアシュリーが3人も子を生んだこと。
 いずれ義姉妹になる関係だと婚約者の時代から親しくしていたはずのアシュリーが、羨ましくて妬ましくて仕方なかったこと。

 オレリアが嫁いだのは公爵家の嫡男だ。当然跡継ぎが求められていた。
 アダムとの仲はずっと良好だった。閨も普通にあった。
 それなのに懐妊しない。

 他の家であれば義母に責められていたと思う。
 跡継ぎを求める夫が外に女を作っても文句を言える立場ではなかった。だけど前公爵夫人がオレリアを責めることはなく、アダムが女を囲うようなこともなかった。

 それにオレリアの近くにはサンドラがいた。
 1つ違いのサンドラは、オレリアが嫁いだ翌年デミオンと結婚している。
 だけど結婚当初から他に女がいたデミオンとサンドラは上手くいっていない。オレリアと同じ様に、サンドラも結婚後3年経っても4年経っても懐妊することはなかった。

「……もしサンドラ様が先に懐妊していたら、私は耐えられなかったと思うの」

 それは本来なら誰にも知られたくなかったことだろう。

 結婚して3年経っても跡継ぎを生むことができない焦り。
 義姉妹でもあり親しい友人でもあるはずのアシュリーを妬む気持ちや、サンドラも同じなのだと安堵する薄暗い気持ち。夫と上手くいっていないはずのサンドラが先に懐妊してしまったら……という不安も、今のアリシアには痛い程よくわかった。
 
 それと同時に、アリシアはオレリアがなぜこんな話をしだしたのか理解していた。
 中々懐妊できずに焦る気持ちも、先に出産をした友人を妬む気持ちも、誰かと比べて安心する気持ちや先を越されたら……という不安も、特別なことではなく誰もが感じる可能性のあることなのだと伝えたいのだ。
 アリシアの焦りや罪悪感を少しでも軽くしたいと思ったのだろう。




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