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第2部 6章
13 おやすみ
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この日、夕食後のアリシアの部屋にいつものような甘い雰囲気はなかった。
部屋の中にはレイヴンとアリシアだけではなく、レイヴンに呼ばれて侍医長が来ている。
侍医長を呼んだのは視察への同行について相談する為だ。レオナルドにはアリシアと話してみると言ったけれど、専門家の立場から客観的な意見を貰った方が良いと思ったのだ。
同行はやはり難しいらしく、話を聞いた侍医長は飛び上がって驚いていた。
「とんでもございません!今の妃殿下の御身体で長時間の馬車移動など無理でございます!」
予想通りの答えにレイヴンは頷いた。
アリシアもこの答えはわかっていたようで大人しく聞いている。侍医長がいるので落ち込んだ様子は見せない。
だけどレイヴンが侍医長を呼んだのは、同行する為の解決策を知りたいからだ。アリシアを王都に残す為には体調不良を公に認めなければならないので本当に最後の手段だった。
「その無理を可能にするにはどうすればいい?」
レイヴンの言葉に侍医長は難しい顔で黙り込んだ。
医師としては何としてでも止めさせたい。だけど2人が置かれた状況も理解している。そして無茶な要望であってもそれが必要であれば叶えるのが仕事だった。
「そうですなぁ……。まずはもっと食事を摂られることが一番でしょう。野菜を潰したスープや果物のジュースでも構いません。少しでも栄養を取り、体力をつけなくてはなりません」
侍医長もアリシアが普段からもっと食べようと無理をしているのは知っていた。
だけどそれでは足りないのだ。
「あとはもっと休息を取られることでしょうな。体力がないのに無理をしては体を壊すだけです。閨も少し休まれた方がよろしいでしょう」
「そんなっ!!」
ここで初めてアリシアが声を上げた。
閨がなければ子どもができない。今は少しでも多く精が欲しい。閨を止めるなんて、とても受け入れられることではなかった。
だけど侍医長は首を振る。
「無理をしても良い結果には繋がりません。それだけ妃殿下の御身体は弱っておられるのです。ただ妃殿下のお心の安定も同じくらい重要です。ですので週に1度か2度……。それが許可を出せる限界でございます」
本当はひと月でもふた月でも体調が戻るまで止めて欲しい。
だけどそれではアリシアの精神がもたないだろう。閨を止めるのは子を諦めるのと同じことだ。
だから週に1度か2度。
子を宿すことよりアリシアの精神的な支えとして許可を出す。
レイヴンを見上げたアリシアは「いやいや」と頭を振った。瞳が涙で潤んでいる。
レイヴンはアリシアをぎゅっと抱き締めた。
「……僕はアリシアの体が一番大事だ。従うよ」
「レイヴン様っ!!」
アリシアが悲鳴のような声を上げる。
だけどレイヴンの答えは変わらない。結局侍医長に従うべきなのはアリシアもわかっているのだ。
暫くすると低い嗚咽が漏れ始める。
レイヴンはアリシアが落ち着くまで背中を撫で続けた。
侍医長の姿はいつの間にか消えていた。
「レイヴン様……」
湯浴みの後、ベッドの上でレイヴンとアリシアは向き合っていた。
一度は侍医長の言葉を受け入れたように見えたアリシアだったが、やはり諦めきれないようだ。
だけど受け入れることはできない。
「駄目だよ、アリシア。今日はもう眠ろう」
レイヴンは優しくそう言い聞かせて横になる。
おずおずと隣に横たわったアリシアを胸に抱き寄せた。
「大好きだよ、アリシア。こうしているだけで幸せなんだ」
その言葉に嘘はない。
体を重ねなくても、びったりくっついているだけで幸せになれる。
アリシアはすっかり痩せてしまったけれど、暖かさは変わらない。
「レイヴン様……」
アリシアはまだ諦めきれない様子でレイヴンを見つめていた。
潤んだ瞳で見上げられ、哀しそうな声で強請られればついつい応えそうになってしまう。
元よりアリシアの願いはすべて叶えたいと思っているのだ。
いや、駄目だ。
レイヴンは心を鬼にして首を振る。
先程話し合って翌日仕事のない週末だけと決めたのだ。
「おやすみ、アリシア。ゆっくり休んで」
レイヴンはそう言うと目を閉じた。
アリシアはしばらくレイヴンを見上げていたけれど、やがて諦めたようで胸に頬が寄せられた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
いただいた感想により若干軌道修正。
レイヴン「毎日してたら妊娠し辛いなんて知らなかったね」
アリシア「…………(赤面)」
部屋の中にはレイヴンとアリシアだけではなく、レイヴンに呼ばれて侍医長が来ている。
侍医長を呼んだのは視察への同行について相談する為だ。レオナルドにはアリシアと話してみると言ったけれど、専門家の立場から客観的な意見を貰った方が良いと思ったのだ。
同行はやはり難しいらしく、話を聞いた侍医長は飛び上がって驚いていた。
「とんでもございません!今の妃殿下の御身体で長時間の馬車移動など無理でございます!」
予想通りの答えにレイヴンは頷いた。
アリシアもこの答えはわかっていたようで大人しく聞いている。侍医長がいるので落ち込んだ様子は見せない。
だけどレイヴンが侍医長を呼んだのは、同行する為の解決策を知りたいからだ。アリシアを王都に残す為には体調不良を公に認めなければならないので本当に最後の手段だった。
「その無理を可能にするにはどうすればいい?」
レイヴンの言葉に侍医長は難しい顔で黙り込んだ。
医師としては何としてでも止めさせたい。だけど2人が置かれた状況も理解している。そして無茶な要望であってもそれが必要であれば叶えるのが仕事だった。
「そうですなぁ……。まずはもっと食事を摂られることが一番でしょう。野菜を潰したスープや果物のジュースでも構いません。少しでも栄養を取り、体力をつけなくてはなりません」
侍医長もアリシアが普段からもっと食べようと無理をしているのは知っていた。
だけどそれでは足りないのだ。
「あとはもっと休息を取られることでしょうな。体力がないのに無理をしては体を壊すだけです。閨も少し休まれた方がよろしいでしょう」
「そんなっ!!」
ここで初めてアリシアが声を上げた。
閨がなければ子どもができない。今は少しでも多く精が欲しい。閨を止めるなんて、とても受け入れられることではなかった。
だけど侍医長は首を振る。
「無理をしても良い結果には繋がりません。それだけ妃殿下の御身体は弱っておられるのです。ただ妃殿下のお心の安定も同じくらい重要です。ですので週に1度か2度……。それが許可を出せる限界でございます」
本当はひと月でもふた月でも体調が戻るまで止めて欲しい。
だけどそれではアリシアの精神がもたないだろう。閨を止めるのは子を諦めるのと同じことだ。
だから週に1度か2度。
子を宿すことよりアリシアの精神的な支えとして許可を出す。
レイヴンを見上げたアリシアは「いやいや」と頭を振った。瞳が涙で潤んでいる。
レイヴンはアリシアをぎゅっと抱き締めた。
「……僕はアリシアの体が一番大事だ。従うよ」
「レイヴン様っ!!」
アリシアが悲鳴のような声を上げる。
だけどレイヴンの答えは変わらない。結局侍医長に従うべきなのはアリシアもわかっているのだ。
暫くすると低い嗚咽が漏れ始める。
レイヴンはアリシアが落ち着くまで背中を撫で続けた。
侍医長の姿はいつの間にか消えていた。
「レイヴン様……」
湯浴みの後、ベッドの上でレイヴンとアリシアは向き合っていた。
一度は侍医長の言葉を受け入れたように見えたアリシアだったが、やはり諦めきれないようだ。
だけど受け入れることはできない。
「駄目だよ、アリシア。今日はもう眠ろう」
レイヴンは優しくそう言い聞かせて横になる。
おずおずと隣に横たわったアリシアを胸に抱き寄せた。
「大好きだよ、アリシア。こうしているだけで幸せなんだ」
その言葉に嘘はない。
体を重ねなくても、びったりくっついているだけで幸せになれる。
アリシアはすっかり痩せてしまったけれど、暖かさは変わらない。
「レイヴン様……」
アリシアはまだ諦めきれない様子でレイヴンを見つめていた。
潤んだ瞳で見上げられ、哀しそうな声で強請られればついつい応えそうになってしまう。
元よりアリシアの願いはすべて叶えたいと思っているのだ。
いや、駄目だ。
レイヴンは心を鬼にして首を振る。
先程話し合って翌日仕事のない週末だけと決めたのだ。
「おやすみ、アリシア。ゆっくり休んで」
レイヴンはそう言うと目を閉じた。
アリシアはしばらくレイヴンを見上げていたけれど、やがて諦めたようで胸に頬が寄せられた。
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いただいた感想により若干軌道修正。
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アリシア「…………(赤面)」
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