586 / 697
第2部 6章
14 本当に愛しているのなら…
しおりを挟む
「おやすみ、アリシア。ゆっくり休んで」
そう言ってレイヴンが目を閉じてしまった後も、アリシアはレイヴンを見つめていた。
自分に甘いレイヴンなら駄目だと言っていても望みを叶えてくれるのではないかと期待してしまう。
だけどレイヴンは本当に眠ってしまった。
「………」
しばらくそのまま見つめていても、レイヴンが抱いてくれそうな気配はない。
仕方なくアリシアはもそもそと体勢を変えた。レイヴンの胸に頬を寄せればトクトクと心臓の音が聞こえてくる。
レイヴンの腕の中は温かい。
本当はアリシアもレイヴンが正しいとわかっているのだ。
侍医長に言われるまでもなく、体力が落ちたことは自覚している。このまま視察について行っても迷惑を掛けるだけで自らの評価を下げるだけだろう。
視察にはついて行きたい。
だけど閨は減らしたくない。
そんな何もかもが思い通りにいくはずがなかった。
「………」
アリシアはそうしてしばらくレイヴンの鼓動を聞いていた。
これまで月のモノの時以外は毎日抱かれていつの間にか眠っていたので、こんな風にレイヴンの鼓動を聞くことはなかったのだ。
いや、月のモノの時も、こうして大切にしてくれるレイヴンの腕を特別なこととは思わずにすぐに眠ってしまっていた。
この優しさは、いつまでアリシアへ向けられているだろうか。
来週は、来月は。
他の女性を抱いているかもしれない。
「………」
レイヴンは毎日アリシアを抱いてくれていた。
そんな人が何日も女性を抱かずにいられるだろうか。
他の男性であれば不貞と咎められることでも、レイヴンには認められているのだ。
いや、認められるどころか求められている。
もしレイヴンが他の女性と関係を持てば、すぐに側妃として迎えられるだろう。
「………」
本当はアリシアにもわかっている。
それが正しい道だ。
子どもがいないまま3年が過ぎた時点で、レイヴンは側妃を迎えるべきだった。
レイヴンが側妃を拒むのなら、アリシアは後押しするべきだったし、レオナルドは諫言するべきだった。
誰もかれもが間違えている。
本当に愛しているなら間違えた時に正しい道を教えるはずなのに、アリシアは気づかないふりをしてしまった。
「………」
レイヴンを本当に愛しているのなら側妃を薦めるべきだ。
そうすれば貴族たちの不満を解消できるし、レイヴンは跡継ぎに恵まれる。
以前夢で見たレイヴンを想い出すと、アリシアの胸がずきんと痛んだ。
夢の中のレイヴンは側妃が生んだ王子を抱いて幸せそうに笑っていた。
レイヴンを本当に愛しているのなら、あの幸せをあげるべきなのだ。
アリシアはレイヴンの胸に添えていた手をぎゅっと握った。
その手は骨ばっていて柔らかそうには見えない。手のひらや指だけではなく、胸も背中も足も、柔らかみを失っていて女性としての魅力を失ってしまった。
それなのにレイヴンはこれまで少しも嫌な素振りを見せずに抱いてくれていた。
それだけで十分ではないのか。
「………っ」
レイヴンが他の女性を抱く。
それを考えただけで胸が痛んで涙が出てきた。
「うっ…っ、ふっ…ぅ」
レイヴンを起こしてはいけない。
そう思うのに嗚咽が漏れるのを抑えきれない。
アリシアは手で口を押えると身を縮めるようにして肩を震わせた。
「おやすみ、アリシア。ゆっくり休んで」
そう言って目を瞑ったレイヴンだったが、本当は起きていた。
アリシアを諦めさせる為に寝たふりをしただけだ。アリシアがレイヴンを起こさないようにと声を殺して泣くのも聞こえている。
本当はすぐに起き上がってアリシアを慰めたい。
だけどそうすれば抱かずにいられないだろう。レイヴンだってアリシアを抱きたくないわけではないのだ。
だけどそれではこんなことをした意味がなくなってしまう。
レイヴンは少し身動きをして、不自然ではないくらいだけアリシアを引き寄せた。
アリシアが身を強張らせる。
だけどしばらくするとまた小さな泣き声が聞こえてきた。
レイヴンはそうして空が白み始めるまでアリシアの嗚咽を聞いていた。
そう言ってレイヴンが目を閉じてしまった後も、アリシアはレイヴンを見つめていた。
自分に甘いレイヴンなら駄目だと言っていても望みを叶えてくれるのではないかと期待してしまう。
だけどレイヴンは本当に眠ってしまった。
「………」
しばらくそのまま見つめていても、レイヴンが抱いてくれそうな気配はない。
仕方なくアリシアはもそもそと体勢を変えた。レイヴンの胸に頬を寄せればトクトクと心臓の音が聞こえてくる。
レイヴンの腕の中は温かい。
本当はアリシアもレイヴンが正しいとわかっているのだ。
侍医長に言われるまでもなく、体力が落ちたことは自覚している。このまま視察について行っても迷惑を掛けるだけで自らの評価を下げるだけだろう。
視察にはついて行きたい。
だけど閨は減らしたくない。
そんな何もかもが思い通りにいくはずがなかった。
「………」
アリシアはそうしてしばらくレイヴンの鼓動を聞いていた。
これまで月のモノの時以外は毎日抱かれていつの間にか眠っていたので、こんな風にレイヴンの鼓動を聞くことはなかったのだ。
いや、月のモノの時も、こうして大切にしてくれるレイヴンの腕を特別なこととは思わずにすぐに眠ってしまっていた。
この優しさは、いつまでアリシアへ向けられているだろうか。
来週は、来月は。
他の女性を抱いているかもしれない。
「………」
レイヴンは毎日アリシアを抱いてくれていた。
そんな人が何日も女性を抱かずにいられるだろうか。
他の男性であれば不貞と咎められることでも、レイヴンには認められているのだ。
いや、認められるどころか求められている。
もしレイヴンが他の女性と関係を持てば、すぐに側妃として迎えられるだろう。
「………」
本当はアリシアにもわかっている。
それが正しい道だ。
子どもがいないまま3年が過ぎた時点で、レイヴンは側妃を迎えるべきだった。
レイヴンが側妃を拒むのなら、アリシアは後押しするべきだったし、レオナルドは諫言するべきだった。
誰もかれもが間違えている。
本当に愛しているなら間違えた時に正しい道を教えるはずなのに、アリシアは気づかないふりをしてしまった。
「………」
レイヴンを本当に愛しているのなら側妃を薦めるべきだ。
そうすれば貴族たちの不満を解消できるし、レイヴンは跡継ぎに恵まれる。
以前夢で見たレイヴンを想い出すと、アリシアの胸がずきんと痛んだ。
夢の中のレイヴンは側妃が生んだ王子を抱いて幸せそうに笑っていた。
レイヴンを本当に愛しているのなら、あの幸せをあげるべきなのだ。
アリシアはレイヴンの胸に添えていた手をぎゅっと握った。
その手は骨ばっていて柔らかそうには見えない。手のひらや指だけではなく、胸も背中も足も、柔らかみを失っていて女性としての魅力を失ってしまった。
それなのにレイヴンはこれまで少しも嫌な素振りを見せずに抱いてくれていた。
それだけで十分ではないのか。
「………っ」
レイヴンが他の女性を抱く。
それを考えただけで胸が痛んで涙が出てきた。
「うっ…っ、ふっ…ぅ」
レイヴンを起こしてはいけない。
そう思うのに嗚咽が漏れるのを抑えきれない。
アリシアは手で口を押えると身を縮めるようにして肩を震わせた。
「おやすみ、アリシア。ゆっくり休んで」
そう言って目を瞑ったレイヴンだったが、本当は起きていた。
アリシアを諦めさせる為に寝たふりをしただけだ。アリシアがレイヴンを起こさないようにと声を殺して泣くのも聞こえている。
本当はすぐに起き上がってアリシアを慰めたい。
だけどそうすれば抱かずにいられないだろう。レイヴンだってアリシアを抱きたくないわけではないのだ。
だけどそれではこんなことをした意味がなくなってしまう。
レイヴンは少し身動きをして、不自然ではないくらいだけアリシアを引き寄せた。
アリシアが身を強張らせる。
だけどしばらくするとまた小さな泣き声が聞こえてきた。
レイヴンはそうして空が白み始めるまでアリシアの嗚咽を聞いていた。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる