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第2部 6章
40 近況報告①
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「酷い表情ですね」
「レオか……」
レイヴンは部屋へ入って来たレオナルドをぼんやり見つめた。
聞こえなかったけれど、扉が叩かれたのだろう。
返事をした覚えはないが、レイヴンがレオナルドの訪問を拒むことはない。フランクはそれを知っているのでレオナルドを通したのだ。
「酒はほどほどにしませんと体を壊しますよ」
レオナルドがレイヴンの正面に座る。
2人の間に置かれた机の上にはウイスキーが置かれていた。
元々酒は嗜むくらいであまり飲む方ではない。
だけどアリシアがいなくなってから酒量は増えるばかりで度数もどんどん強くなっていく。
不健康そうな顔色の一因である。
「……眠れないんだ……」
レイヴンはアリシアがアシェントへ移った後も、婚姻前に使っていた個人の寝室ではなく夫婦の寝室を使っている。
アリシアのいない寝室は広くて寒くて淋しくて、疲れ果てていても中々眠ることができなかった。
思い浮かんでくるのは以前見た夢のことだ。
寝室の中を見渡すと、アリシアへ贈った小物が飾られている。その中にはデートで買ったガラスの猫もあった。
夢と同じ様にアリシアはもう帰ってこないのではないか、という恐怖に襲われる。
ただ夢とは違ってアリシアが公爵家から持ってきた小物も飾られているので、湧き上がる恐怖をなんとか抑えられているのだ。
「そんなことではアリシアが戻る前に殿下が倒れてしまいますよ」
アリシアを案じる気持ちは同じでも、レオナルドには以前より余裕ができたようだ。
レオナルドからしてみれば、信用できない者ばかりの王太子宮より信頼している使用人を集めた公爵家のマナーハウスの方が余程安心できるのだろう。
そしてレオナルドが毎晩レイヴンの元を訪れるのは、アシェントから届いた文を見せる為だった。
アリシアからの文は来ない。だけどアリシアの傍にはマリアンがいる。
マリアンが毎日アリシアの様子を書いてレオナルドへ知らせているのだ。
馬車で行けば4日の距離も馬を走らせれば2日で着く。
公爵家の騎士がレイヴンからの文を携え、アシェントへ2日掛けて駆けていく。1日休んだ騎士がマリアンからの文を預かり帰ってくる。
これを毎日行う為には5名の騎士が必要なのだが、公爵家でもアリシアの様子をいち早く把握しておく為に労力を惜しんでいなかった。
つまり今レオナルドの手元にある文は2日前の情報ということである。
「母上もようやくアシェントへ着いたようですから大丈夫ですよ」
オレリアはアリシアが王太子宮を出た後、予定通りマルグリット主催のお茶会に出た。
そこで想定通り同情や憐憫、嘲笑や陰口を浴びせられ、憔悴した様子で帰宅する。それから更に2度ほどお茶会やサロンに顔を出した後、体調不良と称して公爵邸に引き籠った。
一週間もあればルトビア公爵夫人が体調を崩したらしいという噂が程よく広まっている。その頃合いを見て療養の名目で領地へ発ったのだ。
領地へ向かう馬車の列は長く、人目を引いていた。
勿論それはパフォーマンスである。
アシェントは公爵家にとって重要な土地だ。体調を崩した公爵夫人が療養先に選ぶのはおかしなことではない。
アリシアの移動は秘密裡に行われた為、マリアンなど少数の使用人しか移すことができなかった。
だけど公爵夫人が療養するなら信頼のおける使用人たちを大勢連れて行くのは当然のことだ。先にアシェントへ移動している公爵家お抱えの医師も、表向きはこの時オレリアが連れて行ったことになっている。
おかげで公爵邸にはオレリアの友人たちからお見舞いや様子を窺う文が多く届けられており、「どうも疲れが出てしまったようです」「空気の良い土地へ移りましたから、随分楽になったようです」と、それらしい返事を書くのがレオナルドの仕事になっていた。
オレリアがアシェントへ着いてからはまだ1週間ほどである。
「レオか……」
レイヴンは部屋へ入って来たレオナルドをぼんやり見つめた。
聞こえなかったけれど、扉が叩かれたのだろう。
返事をした覚えはないが、レイヴンがレオナルドの訪問を拒むことはない。フランクはそれを知っているのでレオナルドを通したのだ。
「酒はほどほどにしませんと体を壊しますよ」
レオナルドがレイヴンの正面に座る。
2人の間に置かれた机の上にはウイスキーが置かれていた。
元々酒は嗜むくらいであまり飲む方ではない。
だけどアリシアがいなくなってから酒量は増えるばかりで度数もどんどん強くなっていく。
不健康そうな顔色の一因である。
「……眠れないんだ……」
レイヴンはアリシアがアシェントへ移った後も、婚姻前に使っていた個人の寝室ではなく夫婦の寝室を使っている。
アリシアのいない寝室は広くて寒くて淋しくて、疲れ果てていても中々眠ることができなかった。
思い浮かんでくるのは以前見た夢のことだ。
寝室の中を見渡すと、アリシアへ贈った小物が飾られている。その中にはデートで買ったガラスの猫もあった。
夢と同じ様にアリシアはもう帰ってこないのではないか、という恐怖に襲われる。
ただ夢とは違ってアリシアが公爵家から持ってきた小物も飾られているので、湧き上がる恐怖をなんとか抑えられているのだ。
「そんなことではアリシアが戻る前に殿下が倒れてしまいますよ」
アリシアを案じる気持ちは同じでも、レオナルドには以前より余裕ができたようだ。
レオナルドからしてみれば、信用できない者ばかりの王太子宮より信頼している使用人を集めた公爵家のマナーハウスの方が余程安心できるのだろう。
そしてレオナルドが毎晩レイヴンの元を訪れるのは、アシェントから届いた文を見せる為だった。
アリシアからの文は来ない。だけどアリシアの傍にはマリアンがいる。
マリアンが毎日アリシアの様子を書いてレオナルドへ知らせているのだ。
馬車で行けば4日の距離も馬を走らせれば2日で着く。
公爵家の騎士がレイヴンからの文を携え、アシェントへ2日掛けて駆けていく。1日休んだ騎士がマリアンからの文を預かり帰ってくる。
これを毎日行う為には5名の騎士が必要なのだが、公爵家でもアリシアの様子をいち早く把握しておく為に労力を惜しんでいなかった。
つまり今レオナルドの手元にある文は2日前の情報ということである。
「母上もようやくアシェントへ着いたようですから大丈夫ですよ」
オレリアはアリシアが王太子宮を出た後、予定通りマルグリット主催のお茶会に出た。
そこで想定通り同情や憐憫、嘲笑や陰口を浴びせられ、憔悴した様子で帰宅する。それから更に2度ほどお茶会やサロンに顔を出した後、体調不良と称して公爵邸に引き籠った。
一週間もあればルトビア公爵夫人が体調を崩したらしいという噂が程よく広まっている。その頃合いを見て療養の名目で領地へ発ったのだ。
領地へ向かう馬車の列は長く、人目を引いていた。
勿論それはパフォーマンスである。
アシェントは公爵家にとって重要な土地だ。体調を崩した公爵夫人が療養先に選ぶのはおかしなことではない。
アリシアの移動は秘密裡に行われた為、マリアンなど少数の使用人しか移すことができなかった。
だけど公爵夫人が療養するなら信頼のおける使用人たちを大勢連れて行くのは当然のことだ。先にアシェントへ移動している公爵家お抱えの医師も、表向きはこの時オレリアが連れて行ったことになっている。
おかげで公爵邸にはオレリアの友人たちからお見舞いや様子を窺う文が多く届けられており、「どうも疲れが出てしまったようです」「空気の良い土地へ移りましたから、随分楽になったようです」と、それらしい返事を書くのがレオナルドの仕事になっていた。
オレリアがアシェントへ着いてからはまだ1週間ほどである。
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