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第2部 6章
67 侍女の務め①
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王領への移動は驚くほど順調だった。
同じ馬車にアリシアとレオナルド、オレリアが乗っている。後ろに続く馬車に乗るのも、マリアンなど気心がしれた者たちだ。「暑い」「寒い」「疲れた」「休みたい」が気軽に言えるのが良かったのだろう。
元々オレリアは王都を離れられないアダムに代わって年に数回領地の視察を行っている。公爵家の紋章をつけた馬車が領内を走っていても、領民たちは「領主夫人が視察に来て下さったのだ」と思うだけでほとんど気に留めない。
領内で宿を取れたのも大きかった。
どこかで必ず一泊しなければならないので、秘密を守りやすいのはやはり領内だ。その中でもロバートの商会が運営している宿を選んだ。
宿の主人は予め言い含められていたらしく、できるだけ外部の者と接触しないように、アリシアの部屋に近付く者は最小限にと気をつけてくれていた。
翌日も順調で、空はよく晴れている。
アリシアはあまり寒さを感じることもなく、 王領への景色を楽しんでいた。
嫁いだ時に二度と見ることはないと思っていた景色だ。マルグリットやレイヴンが与えてくれたこの機会を無駄にしないようアシェントの景色を目に焼き付けたい。
「緊張してる?」
「そんなことはありませんわ。少し淋しいだけです」
レオナルドに訊かれてアリシアは首を振った。
嫁いだ時は、戦いに臨むような、今後一切気を抜けない場所へ赴く気持ちだった。
だけど王宮はそんな場所ではないともうわかっている。あそこにはアリシアのもうひとつの家族が住んでいるのだ。
とはいえ、実家を離れる淋しさがないわけではない。
それでも以前に比べれば、マリアンたちも心穏やかに送り出せるだろう。アリシアが嫁ぐ時、使用人たちは敵地に送り出すような悲壮さでアリシアを見送っていた。それを思えば改善されたレイヴンとの関係を見せられて良かったと思う。
だけど本当は少しだけ不安もあった。
アリシアが向かっているのは、王都ではなく王領なのだ。
メトワの人たちは中々アリシアを受け入れてくれなかった。今回はレイヴンも傍にいない。
実際にはそこにいないアリシアが滞在していることになっている。それをどんな風に受け止めているだろうか。
ティナムの人たちのように優しい人たちなら良いけれど。
アリシアは少し憂鬱だった。
だけどそんな心配は王領に着いた途端霧散した。
王城に入ったアリシアたちを先頭で出迎えたのはエレノアやドナ、ジーナである。
驚くアリシアに、目に涙を溜めたエレノアが教えてくれる。
アリシアが王領へ移ったのに王太子宮の使用人がすべて残っているのは不自然だ。だから特にアリシアに忠誠を誓う者たちが選ばれ、事情を教えられて王領へ移されていた。
貴族たちから贈られる見舞いの品を受け取り礼状を書いて、アリシアがここで生活しているように装っていたという。
「そんな手間を掛けていたなんて……」
絶句するアリシアにエレノアが首を振る。
エレノアはアリシアが必ず回復して戻ってくると信じていたのだ。そして戻ってきたアリシアは回復したどころか懐妊していた。
これ以上のことがあるだろうか。
「妃殿下をこうしてお迎えできて、心から嬉しく思います」
涙を拭ったエレノアは、後ろに控えるマリアンへ視線を向ける。
話に聞いていたアリシア付きの侍女だろう。レイヴンは当初彼女を侍女頭にと考えていたのだ。
懐妊した主を他人へ任せないといけない彼女の不安はエレノアにも理解できる。
「妃殿下のことはお任せください。私たちが心を込めてお仕え致します」
「……宜しくお願い致します」
マリアンは頭を下げたまま涙を流していた。
同じ馬車にアリシアとレオナルド、オレリアが乗っている。後ろに続く馬車に乗るのも、マリアンなど気心がしれた者たちだ。「暑い」「寒い」「疲れた」「休みたい」が気軽に言えるのが良かったのだろう。
元々オレリアは王都を離れられないアダムに代わって年に数回領地の視察を行っている。公爵家の紋章をつけた馬車が領内を走っていても、領民たちは「領主夫人が視察に来て下さったのだ」と思うだけでほとんど気に留めない。
領内で宿を取れたのも大きかった。
どこかで必ず一泊しなければならないので、秘密を守りやすいのはやはり領内だ。その中でもロバートの商会が運営している宿を選んだ。
宿の主人は予め言い含められていたらしく、できるだけ外部の者と接触しないように、アリシアの部屋に近付く者は最小限にと気をつけてくれていた。
翌日も順調で、空はよく晴れている。
アリシアはあまり寒さを感じることもなく、 王領への景色を楽しんでいた。
嫁いだ時に二度と見ることはないと思っていた景色だ。マルグリットやレイヴンが与えてくれたこの機会を無駄にしないようアシェントの景色を目に焼き付けたい。
「緊張してる?」
「そんなことはありませんわ。少し淋しいだけです」
レオナルドに訊かれてアリシアは首を振った。
嫁いだ時は、戦いに臨むような、今後一切気を抜けない場所へ赴く気持ちだった。
だけど王宮はそんな場所ではないともうわかっている。あそこにはアリシアのもうひとつの家族が住んでいるのだ。
とはいえ、実家を離れる淋しさがないわけではない。
それでも以前に比べれば、マリアンたちも心穏やかに送り出せるだろう。アリシアが嫁ぐ時、使用人たちは敵地に送り出すような悲壮さでアリシアを見送っていた。それを思えば改善されたレイヴンとの関係を見せられて良かったと思う。
だけど本当は少しだけ不安もあった。
アリシアが向かっているのは、王都ではなく王領なのだ。
メトワの人たちは中々アリシアを受け入れてくれなかった。今回はレイヴンも傍にいない。
実際にはそこにいないアリシアが滞在していることになっている。それをどんな風に受け止めているだろうか。
ティナムの人たちのように優しい人たちなら良いけれど。
アリシアは少し憂鬱だった。
だけどそんな心配は王領に着いた途端霧散した。
王城に入ったアリシアたちを先頭で出迎えたのはエレノアやドナ、ジーナである。
驚くアリシアに、目に涙を溜めたエレノアが教えてくれる。
アリシアが王領へ移ったのに王太子宮の使用人がすべて残っているのは不自然だ。だから特にアリシアに忠誠を誓う者たちが選ばれ、事情を教えられて王領へ移されていた。
貴族たちから贈られる見舞いの品を受け取り礼状を書いて、アリシアがここで生活しているように装っていたという。
「そんな手間を掛けていたなんて……」
絶句するアリシアにエレノアが首を振る。
エレノアはアリシアが必ず回復して戻ってくると信じていたのだ。そして戻ってきたアリシアは回復したどころか懐妊していた。
これ以上のことがあるだろうか。
「妃殿下をこうしてお迎えできて、心から嬉しく思います」
涙を拭ったエレノアは、後ろに控えるマリアンへ視線を向ける。
話に聞いていたアリシア付きの侍女だろう。レイヴンは当初彼女を侍女頭にと考えていたのだ。
懐妊した主を他人へ任せないといけない彼女の不安はエレノアにも理解できる。
「妃殿下のことはお任せください。私たちが心を込めてお仕え致します」
「……宜しくお願い致します」
マリアンは頭を下げたまま涙を流していた。
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