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第2部 6章
72 出産①
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レイヴンはその日、アリシアの呻き声で目を覚ました。
驚いて隣を覗き込むと、アリシアはぎゅっと目を瞑って身を丸めている。力いっぱいシーツを掴んだ細い指はブルブルと震えていた。
「どうしたの?!大丈夫?!」
レイヴンが慌てて呼びかけてもアリシアには応える余裕がないようで、苦しそうに呻き声を上げるだけだ。
レイヴンの声を聞いて飛び込んできたエレノアが医務室まで走り、アリシアは侍医長の診察を受けることになった。
最も知らせを受けた侍医たちが寝室へ駆け込んで来た時には痛みが通り過ぎたようで、オロオロするレイヴンを尻目にアリシアは落ち着きを取り戻していた。
どうやらアリシアは昨夜眠ってから度々痛みで目を覚ましていたようだ。それなのにレイヴンを起こさないようにと1人で耐えていたらしい。そしてとうとう耐えきれない痛みになり、声を漏らしてしまったということである。
「起こしてくれれば良かったのに……」
隣で話を聞いていたレイヴンは青くなるが、アリシアは曖昧に笑うだけだ。
アリシアには痛みの理由がわかっているのである。
斯くして侍医長の診断は陣痛だった。
だた陣痛の間隔がまだ長く痛みも弱い為、産室へ移るのは早いという。
それでもいつ産室へ移ることになっても良いようにアリシアは出産用の衣服に着替えることになった。アナトリアの王室では儀式によって着る服が決まっており、出産もそのひとつである。
「殿下も今の内にお着替えください」
アリシアから離れるようエレノアに促されるが、レイヴンは「絶対に嫌だ」と首を振った。
あんなに辛そうだったのに、痛みが弱いなんて信じられない。
苦しむアリシアの傍を離れたくない。
「絶対に嫌だ!!僕もアリシアと一緒に行く!!」
だけどエレノアにしてみれば、レイヴンが付いてきても邪魔なだけである。
それに陣痛の間隔はまだ長く、次の陣痛までに着替える余裕くらいはある。
「妃殿下に何かありましたら必ずお知らせしますから!」
要するに「アリシアの邪魔をするな」と押し切られ、レイヴンは寝室へ取り残された。
「レイヴン様は着替えて下さるかしら……」
エレノアとドレッシングルームへ移ったアリシアは心配そうに眉を寄せた。
レイヴンはきっと産室まで付いてくるつもりだろう。決まりとして侍医以外の男性が産室へ入ることはできないが、レイヴンなら産室の外で待っていてくれるはずだ。
ただ王太子が夜着のまま廊下を彷徨いていたらすぐに噂になってしまう。
「それくらいは殿下も心得ていらっしゃるでしょう」とエレノアは笑っているが、アリシアは不安だった。
だから寝室へ戻った時、レイヴンが着替えているのを見て本当にホッとしたのだ。
「レイヴン様……」
安心した顔で腕を伸ばすアリシアをレイヴンが抱き締める。
レイヴンはアリシアが1人で不安だったのだろうと勘違いしていたが、お互いの為になる勘違いだった。
その後陣痛の間隔はどんどん短くなり、痛みが強くなってくる。
アリシアが呻くたびにレイヴンは狼狽えて侍医を呼びつけるが、侍医にできることはなく、エレノアに叱咤されながらアリシアの腰を擦る。
おかげで侍医長から「そろそろ産室へ移りましょう」と言われた時には、侍医たちもエレノアも疲労困憊していた。
ただ1人レイヴンだけは疲労を感じる余裕もなく、廊下を歩くアリシアが苦しみだしたらどうしようとそわそわしていた。
驚いて隣を覗き込むと、アリシアはぎゅっと目を瞑って身を丸めている。力いっぱいシーツを掴んだ細い指はブルブルと震えていた。
「どうしたの?!大丈夫?!」
レイヴンが慌てて呼びかけてもアリシアには応える余裕がないようで、苦しそうに呻き声を上げるだけだ。
レイヴンの声を聞いて飛び込んできたエレノアが医務室まで走り、アリシアは侍医長の診察を受けることになった。
最も知らせを受けた侍医たちが寝室へ駆け込んで来た時には痛みが通り過ぎたようで、オロオロするレイヴンを尻目にアリシアは落ち着きを取り戻していた。
どうやらアリシアは昨夜眠ってから度々痛みで目を覚ましていたようだ。それなのにレイヴンを起こさないようにと1人で耐えていたらしい。そしてとうとう耐えきれない痛みになり、声を漏らしてしまったということである。
「起こしてくれれば良かったのに……」
隣で話を聞いていたレイヴンは青くなるが、アリシアは曖昧に笑うだけだ。
アリシアには痛みの理由がわかっているのである。
斯くして侍医長の診断は陣痛だった。
だた陣痛の間隔がまだ長く痛みも弱い為、産室へ移るのは早いという。
それでもいつ産室へ移ることになっても良いようにアリシアは出産用の衣服に着替えることになった。アナトリアの王室では儀式によって着る服が決まっており、出産もそのひとつである。
「殿下も今の内にお着替えください」
アリシアから離れるようエレノアに促されるが、レイヴンは「絶対に嫌だ」と首を振った。
あんなに辛そうだったのに、痛みが弱いなんて信じられない。
苦しむアリシアの傍を離れたくない。
「絶対に嫌だ!!僕もアリシアと一緒に行く!!」
だけどエレノアにしてみれば、レイヴンが付いてきても邪魔なだけである。
それに陣痛の間隔はまだ長く、次の陣痛までに着替える余裕くらいはある。
「妃殿下に何かありましたら必ずお知らせしますから!」
要するに「アリシアの邪魔をするな」と押し切られ、レイヴンは寝室へ取り残された。
「レイヴン様は着替えて下さるかしら……」
エレノアとドレッシングルームへ移ったアリシアは心配そうに眉を寄せた。
レイヴンはきっと産室まで付いてくるつもりだろう。決まりとして侍医以外の男性が産室へ入ることはできないが、レイヴンなら産室の外で待っていてくれるはずだ。
ただ王太子が夜着のまま廊下を彷徨いていたらすぐに噂になってしまう。
「それくらいは殿下も心得ていらっしゃるでしょう」とエレノアは笑っているが、アリシアは不安だった。
だから寝室へ戻った時、レイヴンが着替えているのを見て本当にホッとしたのだ。
「レイヴン様……」
安心した顔で腕を伸ばすアリシアをレイヴンが抱き締める。
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その後陣痛の間隔はどんどん短くなり、痛みが強くなってくる。
アリシアが呻くたびにレイヴンは狼狽えて侍医を呼びつけるが、侍医にできることはなく、エレノアに叱咤されながらアリシアの腰を擦る。
おかげで侍医長から「そろそろ産室へ移りましょう」と言われた時には、侍医たちもエレノアも疲労困憊していた。
ただ1人レイヴンだけは疲労を感じる余裕もなく、廊下を歩くアリシアが苦しみだしたらどうしようとそわそわしていた。
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