影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

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2章 ~過去 カールとエリザベート~

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 薔薇の宮でも変化があった。
 ルイが生まれてからは乳母や侍女、侍従など、ルイの為の使用人が雇われている。
 だけどルイがいなくなってしまった以上、彼らを雇い続けることはできない。
 葬儀が終わった後、彼らの気持ちが落ち着くのを待って紹介状を書き、新しい雇用先を斡旋して徐々に人数を減らしていった。

 薔薇の宮を去る時、彼らはカールに何度も頭を下げ、未だ寝付いているエリザベートを案じる言葉を口にしていた。そしてルイとの思い出を1つ2つ語っていく。
 ルイは彼らに愛されていたのだと思うとカールの頬を涙が流れた。彼らはルイとルイを慈しむ両親の姿をいつも微笑ましく見守っていたのだ。



「本当に、申し訳ございませんでした……っ!私がもっと厚着をさせていれば、お風邪を召されることもなかったのに……っ」

 中でも乳母の嘆きは激しかった。ぽろぽろと涙を流しながら頭を下げる。
 彼女もまたルイを可愛がっていた1人だ。そしてルイの死を受け入れられず、「もっと気をつけていれば」と、自分を責めている。

「そなたのせいではない。そなたはよくルイの世話をしてくれたじゃないか。ルイもそなたが大好きだったよ」

 それは事実だ。
 ルイは優しい乳母が大好きだった。
 乳母もルイを可愛がってくれていた。

 本来子どもの世話を任されているのは乳母だ。
 忙しくて子どものことにまで手がまわらない母親に変わって可愛がり、いけないことは叱って基本的な躾を施す。
 だけど彼女はカールやエリザベートがあれこれ口を出しても嫌がらず、むしろ親子の絆を深めるべきだと積極的に受け入れてくれていた。
 それが貴族社会においてどれだけ異質で有難いことか、カールは理解している。

「……図々しいお願いですが、なにか殿下の形見になるものをいただけませんか……?」

 乳母の言葉にカールは少し考え、ベビー服をひとつ手渡した。
 ルイのキャビネットには刺繍や裁縫の得意なダシェンボード公爵家の女性たちから贈られたたくさんの服が収められている。
 だけどこれは乳母が縫った服で、最初に贈られたものだ。

「ありがとうございます。ありがとう、ございます……っ!」

 手渡されたベビー服を捧げるように持ち、乳母はその場で泣き崩れた。







 
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