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2章 ~過去 カールとエリザベート~
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カールがどれだけ頭を下げてもマクロイド公爵は首を縦に振らなかった。
異母兄が力を失ったとしても嫡男が王位を継いでいくべきとの考えは変わらないようだ。
直接話などせず独断で退位の宣言をしてしまえば公爵も飲み込まざるを得なかったのだろうが、流石にそこまで身勝手なことはできなかった。
だから本当にこれは最後の悪あがきだったのだ。
この日以来公爵はカールと2人きりになるのを避け、カールも度々王宮を抜け出すことはできなかったので、公爵を説得できないまま日々は過ぎた。
そうして重臣たちが1人の令嬢を探し出した。
ヴィラント伯爵家は歴史ある伯爵家である。
だが10年以上前に伯爵領で大規模な自然災害が起きた。
暴風雨で多くの家屋が破壊され、田畑はめちゃくちゃになり収穫間近だった農作物は駄目になった。家畜も多くが死んだという。極めつけに右隣の領地との間に掛かる橋が落ちて、左隣の領地と繋がる山道が土砂崩れで塞がった。
王宮には救援を求める書状が届き、第5騎士団が救助活動に出向いた記録が残っている。
財政面でも補助金の申請があり、申請できる5年間毎年満額支払われていた。
それでも復興は困難を極めたようだ。
右と左、どちらの領主からも互いに必要な通行路だからと費用を折半して新しい橋の建設や山道の補修整備の提案があったようだが、伯爵家では領民への炊き出し、新しい家屋の建設、種苗の買付、牧草地の回復など領内の復興を優先していた。そもそも改修工事をさせようにも人夫として働ける人手が足りなかった。
両隣との通行路が遮断されたのも大きかった。
右と左、どちらの領地も塞がれたのは1つの通行路だったが、ヴィラント伯爵家では2つの通行路を回復させなければならない。
だけど伯爵の人の良さが仇となってどちらかだけを優先することができずに両方をなんとかしようとした結果、どちらも中途半端のまま行き詰まった。
そうして数年掛けて領内を落ち着かせ、通行路の整備に目を向けた時には遅かった。
どちらの領地も隣接しているのは伯爵領だけではない。いつまでも動き出さない伯爵家に見切りをつけて他の領地を通る街道を通していたのだ。
こうして伯爵家が両隣の領地へ道を通したい場合は伯爵家だけで費用を賄わなければならなくなった。
だけど通行路がなければ折角生産量が戻った農作物も売り先も限られる。金物細工や焼き物などの技術者は腕の良い者から違う領へ移住していた。
伯爵領は橋梁工事と土砂に埋まった山道の整備、産業技術の低下による税収の低下に悩まされている。
ヴィラント伯爵家の者たちは財政難から10年以上王都に出てきていない。
すべての貴族に参加が義務付けられている建国祭や国王の誕生祭も特殊な事情から免除されていた。両隣の領主に見放されたので他家との強い繋がりもない。
そんな伯爵家の長女がルイザである。
ルイザは重臣たちが探す側妃の条件にぴったりだった。
この日、王宮には重苦しい空気が流れていた。
集まった重臣たちは固唾を飲んでカールへ視線を向ける。
カールは苦痛に満ちた顔で、それでも頷いた。
「……わかった。側妃を娶ろう」
「……ありがとうございます」
重臣たちが一斉に頭を下げる。
これがカールにとって苦渋の決断であることはみんなわかっていた。
「兄上、決断下さったのですね!」
カールが玉座を降りると御前会議終了の合図だ。
マクロイド公爵が喜色を浮かべてカールへ声を掛ける。だけどすぐに口を噤んだ。
一瞬だけこちらへ向けられた視線に、隠しきれない憎悪と殺意を感じ取ったからだ。
側妃を娶りたくないと、退位して王妃と2人で静かに暮らしたいからと、王籍への復帰と即位を乞われたのに断ったことを恨んでいるのだろう。
だけどカールは一言も何も言わずに部屋を出て行った。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
ここで回想部分が終わり、2章1話と繋がります!
長く続いた2章もあと1話…多くても2話で終われそうです。
41話は(1話で)カールが部屋を出てからの話になりますm(_ _)m
異母兄が力を失ったとしても嫡男が王位を継いでいくべきとの考えは変わらないようだ。
直接話などせず独断で退位の宣言をしてしまえば公爵も飲み込まざるを得なかったのだろうが、流石にそこまで身勝手なことはできなかった。
だから本当にこれは最後の悪あがきだったのだ。
この日以来公爵はカールと2人きりになるのを避け、カールも度々王宮を抜け出すことはできなかったので、公爵を説得できないまま日々は過ぎた。
そうして重臣たちが1人の令嬢を探し出した。
ヴィラント伯爵家は歴史ある伯爵家である。
だが10年以上前に伯爵領で大規模な自然災害が起きた。
暴風雨で多くの家屋が破壊され、田畑はめちゃくちゃになり収穫間近だった農作物は駄目になった。家畜も多くが死んだという。極めつけに右隣の領地との間に掛かる橋が落ちて、左隣の領地と繋がる山道が土砂崩れで塞がった。
王宮には救援を求める書状が届き、第5騎士団が救助活動に出向いた記録が残っている。
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それでも復興は困難を極めたようだ。
右と左、どちらの領主からも互いに必要な通行路だからと費用を折半して新しい橋の建設や山道の補修整備の提案があったようだが、伯爵家では領民への炊き出し、新しい家屋の建設、種苗の買付、牧草地の回復など領内の復興を優先していた。そもそも改修工事をさせようにも人夫として働ける人手が足りなかった。
両隣との通行路が遮断されたのも大きかった。
右と左、どちらの領地も塞がれたのは1つの通行路だったが、ヴィラント伯爵家では2つの通行路を回復させなければならない。
だけど伯爵の人の良さが仇となってどちらかだけを優先することができずに両方をなんとかしようとした結果、どちらも中途半端のまま行き詰まった。
そうして数年掛けて領内を落ち着かせ、通行路の整備に目を向けた時には遅かった。
どちらの領地も隣接しているのは伯爵領だけではない。いつまでも動き出さない伯爵家に見切りをつけて他の領地を通る街道を通していたのだ。
こうして伯爵家が両隣の領地へ道を通したい場合は伯爵家だけで費用を賄わなければならなくなった。
だけど通行路がなければ折角生産量が戻った農作物も売り先も限られる。金物細工や焼き物などの技術者は腕の良い者から違う領へ移住していた。
伯爵領は橋梁工事と土砂に埋まった山道の整備、産業技術の低下による税収の低下に悩まされている。
ヴィラント伯爵家の者たちは財政難から10年以上王都に出てきていない。
すべての貴族に参加が義務付けられている建国祭や国王の誕生祭も特殊な事情から免除されていた。両隣の領主に見放されたので他家との強い繋がりもない。
そんな伯爵家の長女がルイザである。
ルイザは重臣たちが探す側妃の条件にぴったりだった。
この日、王宮には重苦しい空気が流れていた。
集まった重臣たちは固唾を飲んでカールへ視線を向ける。
カールは苦痛に満ちた顔で、それでも頷いた。
「……わかった。側妃を娶ろう」
「……ありがとうございます」
重臣たちが一斉に頭を下げる。
これがカールにとって苦渋の決断であることはみんなわかっていた。
「兄上、決断下さったのですね!」
カールが玉座を降りると御前会議終了の合図だ。
マクロイド公爵が喜色を浮かべてカールへ声を掛ける。だけどすぐに口を噤んだ。
一瞬だけこちらへ向けられた視線に、隠しきれない憎悪と殺意を感じ取ったからだ。
側妃を娶りたくないと、退位して王妃と2人で静かに暮らしたいからと、王籍への復帰と即位を乞われたのに断ったことを恨んでいるのだろう。
だけどカールは一言も何も言わずに部屋を出て行った。
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ここで回想部分が終わり、2章1話と繋がります!
長く続いた2章もあと1話…多くても2話で終われそうです。
41話は(1話で)カールが部屋を出てからの話になりますm(_ _)m
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