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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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「本日入宮致しました、ルイザでございます。どうぞよろしくお願い致します」
教えられた通りに挨拶をしたルイザはカーテシーをした。
これまでで一番美しくできたカーテシーだった。
王妃との対面は和やかに進んだ。
青に金色の刺繍が施されたドレスの王妃は優しく微笑んで声を掛けてくれる。
領地からの道中のことなど興味深そうに聞いてくれる王妃にルイザは嬉しくなった。
そうして互いに「ルイザ様」「エリザベート様」と呼び合うことを認め合った後、ふいに王妃が視線を伏せる。
「ルイザ様に大変な役目を負わせてしまうこと、申し訳なく思っています」
それまでとは違う真剣な顔、改まった口調にルイザの鼓動が跳ねる。
先ほどまでの優しい空気は消え失せ、緊張感が押し寄せてきた。
だけど大変な役目とは何だろうか?
ルイザは戸惑った。
思い当るのは世継ぎを生むことしかない。だが人生経験が浅いルイザには子を生むことがそれほど大変なこととは思えないのだ。
だけどもしかしたら王妃は、子が生めないことを周りに責められたのかもしれない。
それに両親は婚約者時代の国王と王妃がとても仲睦まじいカップルだったと言っていたが、人の気持ちは変わるものだ。こうしてルイザをにこやかに迎え入れているところを見ても、2人の気持ちは離れてしまったのかもしれない。
そんな相手の子どもをなんとか授かろうと気を揉むのは、王妃にとって辛いことだったのだろう。
だけど、私ならば。
「ご心配いりませんわ、エリザベート様。その役目はきっと私が果たしてみせます」
ルイザがにっこり笑ってそう言うと、王妃は複雑そうな顔で微笑んだ。
「リーザ!」
エリザベートが自室へ戻ると、カールがすぐに駆け寄ってきた。
ルイザとの謁見を終えた後、カールはすぐにここへ来ている。本来ならやらなければならない執務が今日もあるはずなのだが、仕来りとしてルイザが挨拶に来ることは当然知っているので、執務室に籠っているなどできなかったようだ。今も部屋の中をうろうろ歩きまわっていたようで、額に汗が浮かんでいる。
心配そうな表情で見下ろすカールにエリザベートは微笑んでみせた。
「とても素直で愛らしい方ね。本当に可愛らしい方」
「リーザ……」
辛そうに眉を寄せたカールがエリザベートを抱き締める。
背中に腕をまわしたままのカールにソファへ促されてエリザベートは腰を下ろした。グッと引き寄せられて胸に頬を寄せる。
「私は大丈夫ですわ。心配なさらないで」
側妃を迎えると聞いた時から、いや、カールの求婚を受け入れた時から、この日が来るのはわかっていた。
エリザベートはきっと子どもを生めない。
カールが世継ぎを得る為には側妃との間に子を作らなければならない。
そういう立場の人だとわかっていて、エリザベートはその手を取った。
それなのに思いがけずルイという宝物を得て、短い間だったけれどこの腕に抱けたのだから充分幸せだどう。
今は元の道に戻っただけだ。
「愛している、リーザ。愛しているのはリーザだけだ」
「私も愛しています。愛していますわ……」
グッと引き寄せられて、エリザベートもカールの背中へまわした腕に力を込める。
薄く目を開くとドレスの鮮やかな青と金糸の刺繍が目に映った。
やってきたのは貴族の駆け引きも知らない純朴な女性。
何も知らずに巻き込まれただけの女性に嫉妬などするはずがない。
カールの気持ちを疑ったこともない。
それなのにこうしてルイの色に包まれていないと乗り越えられないと感じるのは何故なのだろうか。
教えられた通りに挨拶をしたルイザはカーテシーをした。
これまでで一番美しくできたカーテシーだった。
王妃との対面は和やかに進んだ。
青に金色の刺繍が施されたドレスの王妃は優しく微笑んで声を掛けてくれる。
領地からの道中のことなど興味深そうに聞いてくれる王妃にルイザは嬉しくなった。
そうして互いに「ルイザ様」「エリザベート様」と呼び合うことを認め合った後、ふいに王妃が視線を伏せる。
「ルイザ様に大変な役目を負わせてしまうこと、申し訳なく思っています」
それまでとは違う真剣な顔、改まった口調にルイザの鼓動が跳ねる。
先ほどまでの優しい空気は消え失せ、緊張感が押し寄せてきた。
だけど大変な役目とは何だろうか?
ルイザは戸惑った。
思い当るのは世継ぎを生むことしかない。だが人生経験が浅いルイザには子を生むことがそれほど大変なこととは思えないのだ。
だけどもしかしたら王妃は、子が生めないことを周りに責められたのかもしれない。
それに両親は婚約者時代の国王と王妃がとても仲睦まじいカップルだったと言っていたが、人の気持ちは変わるものだ。こうしてルイザをにこやかに迎え入れているところを見ても、2人の気持ちは離れてしまったのかもしれない。
そんな相手の子どもをなんとか授かろうと気を揉むのは、王妃にとって辛いことだったのだろう。
だけど、私ならば。
「ご心配いりませんわ、エリザベート様。その役目はきっと私が果たしてみせます」
ルイザがにっこり笑ってそう言うと、王妃は複雑そうな顔で微笑んだ。
「リーザ!」
エリザベートが自室へ戻ると、カールがすぐに駆け寄ってきた。
ルイザとの謁見を終えた後、カールはすぐにここへ来ている。本来ならやらなければならない執務が今日もあるはずなのだが、仕来りとしてルイザが挨拶に来ることは当然知っているので、執務室に籠っているなどできなかったようだ。今も部屋の中をうろうろ歩きまわっていたようで、額に汗が浮かんでいる。
心配そうな表情で見下ろすカールにエリザベートは微笑んでみせた。
「とても素直で愛らしい方ね。本当に可愛らしい方」
「リーザ……」
辛そうに眉を寄せたカールがエリザベートを抱き締める。
背中に腕をまわしたままのカールにソファへ促されてエリザベートは腰を下ろした。グッと引き寄せられて胸に頬を寄せる。
「私は大丈夫ですわ。心配なさらないで」
側妃を迎えると聞いた時から、いや、カールの求婚を受け入れた時から、この日が来るのはわかっていた。
エリザベートはきっと子どもを生めない。
カールが世継ぎを得る為には側妃との間に子を作らなければならない。
そういう立場の人だとわかっていて、エリザベートはその手を取った。
それなのに思いがけずルイという宝物を得て、短い間だったけれどこの腕に抱けたのだから充分幸せだどう。
今は元の道に戻っただけだ。
「愛している、リーザ。愛しているのはリーザだけだ」
「私も愛しています。愛していますわ……」
グッと引き寄せられて、エリザベートもカールの背中へまわした腕に力を込める。
薄く目を開くとドレスの鮮やかな青と金糸の刺繍が目に映った。
やってきたのは貴族の駆け引きも知らない純朴な女性。
何も知らずに巻き込まれただけの女性に嫉妬などするはずがない。
カールの気持ちを疑ったこともない。
それなのにこうしてルイの色に包まれていないと乗り越えられないと感じるのは何故なのだろうか。
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