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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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カールはエリザベートを抱き締める腕に力を込めた。
「大丈夫」と口にしていても、本当に大丈夫なわけではないのはわかっている。優秀な王妃なので上手く気持ちを隠してしまうが、エリザベートをずっと見ていたカールには哀しみを押し殺しているのがわかっていた。
平気な振りをさせているのはカールだろう。
国王が側妃を迎えるのに消極的なら王妃がその背を押さなければならない。世継ぎを生めず、世継ぎを儲けるよう導くこともできない王妃となれば、世の非難はエリザベートへ向かうのだ。
エリザベートは病に倒れた時から子を生めないだろうと言われていた。婚約の解消を申し入れられたこともある。
それを受け入れられずに婚姻を推し進めたのはカールの方だ。それでもカールの求婚を受け入れた時からエリザベートは覚悟を決めていたのだろう。
責務を果たせない王妃は王妃である価値がないというように、今のエリザベートは責務を果たすことを第一に考えている。
だけど頭と心は違う。
平気な振りをしていても最近は満足に眠れていないようだ。同じベッドで寝ているのだから、中々寝付けないでいるのはわかる。
元々体の弱いエリザベートがその内倒れてしまいそうでカールは怖かった。
エリザベートとの閨はルイザを迎えると決まった時から復活している。
子を作る為の行為を避妊薬を飲んで行うことを言い出せずにいたカールだったが、なんとエリザベートから誘われたのだ。
カールの夜着を掴んで見上げる目には、側妃を迎えることへの不安と、年若い令嬢にカールの愛情を奪われる恐怖が浮かんでいた。
そんな目で見つめられて抗えるはずがない。
互いに避妊薬を飲むのを見届けてから、という色気のない状況ではあるが、それ以来以前と同じように夜を過ごしている。
体を重ねた夜はエリザベートも安心して眠れているようだった。
昨夜もカールは丹念にエリザベートを抱いた。
エリザベートを裏切る前に、愛していると刻みつけたかった。
「……やっぱり今夜はアンヌ殿かゾフィー殿に来てもらったほうが良いんじゃないか?」
「まあ。お義姉様方に来ていただくなんて、なんて言われることでしょう」
エリザベートが苦笑する。
確かに今日はどんな日なのか、何があるのか、王都の貴族はみんな知っている。
そんな時にダシェンボード公爵家やルヴエル伯爵家の馬車が薔薇の宮へ入り、深夜まで出てこないとなれば、すぐに噂が広がるだろう。
「若い側妃に耐えられない王妃」と嗤われるのは、自尊心の高いエリザベートにとって耐えがたい苦痛だろう。
だけど裏切りの時間を1人で耐えさせたくはない。
「ご心配なさらないで。私には長く仕えてくれている侍女もルイもいるのですから」
明るく聞こえる声に胸が痛む。
エリザベートは1人きりの時、ずっとルイの墓へ話し掛けているという。最近になって聞いた話だ。
カールの前で明るく振る舞うエリザベートの心情を思い、口を閉ざしていた侍女たちだったが、あまり眠れず食も細くなったエリザベートに恐怖を感じているようだ。それくらい追い詰められているのだろう。
「本当にすまない、リーザ……」
カールの声が震える。
側妃を娶った以上、ルイザとの間を白い結婚で終わらせるつもりはない。むしろ早く懐妊して欲しいと願っている。ルイザとの間に子ができなかれば、新たな側妃を娶ることになるだけだ。それでは裏切りを重ねることになる。
早く子を作って役目から解放されること。
カールが願いはそれだけだった。
夕食を終えるとエリザベートは渋るカールを送り出した。
これからカールは鳳凰の宮へ戻って湯浴みをし、百合の宮へ向かう。
何でもないことのように装うエリザベートは1人でお茶を楽しみ、ゆっくり湯浴みをした。
「寝室はこんなに広かったのね」
侍女を下がらせ、1人きりになったエリザベートはポツリと呟いた。
高熱を出した時など1人で寝ていた時もあるが、意識がはっきりしている時は初めてだ。知らない場所のように広くて寒いような気がする。
カールはすぐに戻ると言った。
あちらで泊るつもりはないようだ。
エリザベートはその前に眠らなければならない。
ベッドへ視線を向けたエリザベートはそのまま窓辺へ向かった。
私室よりは遠くなるけれど、ここからもルイの墓が見える。
庭園に灯された篝火の中、ルイの墓がぼんやりと浮かんで見えた。
「お父様に新しい奥様がいらっしゃったのよ。とても可愛らしい方。きっとすぐにルイの弟が生まれるわ。良かったわね……」
エリザベートが優しく語りかける。
知らず知らずのうちに頬を涙が伝っていた。
「大丈夫」と口にしていても、本当に大丈夫なわけではないのはわかっている。優秀な王妃なので上手く気持ちを隠してしまうが、エリザベートをずっと見ていたカールには哀しみを押し殺しているのがわかっていた。
平気な振りをさせているのはカールだろう。
国王が側妃を迎えるのに消極的なら王妃がその背を押さなければならない。世継ぎを生めず、世継ぎを儲けるよう導くこともできない王妃となれば、世の非難はエリザベートへ向かうのだ。
エリザベートは病に倒れた時から子を生めないだろうと言われていた。婚約の解消を申し入れられたこともある。
それを受け入れられずに婚姻を推し進めたのはカールの方だ。それでもカールの求婚を受け入れた時からエリザベートは覚悟を決めていたのだろう。
責務を果たせない王妃は王妃である価値がないというように、今のエリザベートは責務を果たすことを第一に考えている。
だけど頭と心は違う。
平気な振りをしていても最近は満足に眠れていないようだ。同じベッドで寝ているのだから、中々寝付けないでいるのはわかる。
元々体の弱いエリザベートがその内倒れてしまいそうでカールは怖かった。
エリザベートとの閨はルイザを迎えると決まった時から復活している。
子を作る為の行為を避妊薬を飲んで行うことを言い出せずにいたカールだったが、なんとエリザベートから誘われたのだ。
カールの夜着を掴んで見上げる目には、側妃を迎えることへの不安と、年若い令嬢にカールの愛情を奪われる恐怖が浮かんでいた。
そんな目で見つめられて抗えるはずがない。
互いに避妊薬を飲むのを見届けてから、という色気のない状況ではあるが、それ以来以前と同じように夜を過ごしている。
体を重ねた夜はエリザベートも安心して眠れているようだった。
昨夜もカールは丹念にエリザベートを抱いた。
エリザベートを裏切る前に、愛していると刻みつけたかった。
「……やっぱり今夜はアンヌ殿かゾフィー殿に来てもらったほうが良いんじゃないか?」
「まあ。お義姉様方に来ていただくなんて、なんて言われることでしょう」
エリザベートが苦笑する。
確かに今日はどんな日なのか、何があるのか、王都の貴族はみんな知っている。
そんな時にダシェンボード公爵家やルヴエル伯爵家の馬車が薔薇の宮へ入り、深夜まで出てこないとなれば、すぐに噂が広がるだろう。
「若い側妃に耐えられない王妃」と嗤われるのは、自尊心の高いエリザベートにとって耐えがたい苦痛だろう。
だけど裏切りの時間を1人で耐えさせたくはない。
「ご心配なさらないで。私には長く仕えてくれている侍女もルイもいるのですから」
明るく聞こえる声に胸が痛む。
エリザベートは1人きりの時、ずっとルイの墓へ話し掛けているという。最近になって聞いた話だ。
カールの前で明るく振る舞うエリザベートの心情を思い、口を閉ざしていた侍女たちだったが、あまり眠れず食も細くなったエリザベートに恐怖を感じているようだ。それくらい追い詰められているのだろう。
「本当にすまない、リーザ……」
カールの声が震える。
側妃を娶った以上、ルイザとの間を白い結婚で終わらせるつもりはない。むしろ早く懐妊して欲しいと願っている。ルイザとの間に子ができなかれば、新たな側妃を娶ることになるだけだ。それでは裏切りを重ねることになる。
早く子を作って役目から解放されること。
カールが願いはそれだけだった。
夕食を終えるとエリザベートは渋るカールを送り出した。
これからカールは鳳凰の宮へ戻って湯浴みをし、百合の宮へ向かう。
何でもないことのように装うエリザベートは1人でお茶を楽しみ、ゆっくり湯浴みをした。
「寝室はこんなに広かったのね」
侍女を下がらせ、1人きりになったエリザベートはポツリと呟いた。
高熱を出した時など1人で寝ていた時もあるが、意識がはっきりしている時は初めてだ。知らない場所のように広くて寒いような気がする。
カールはすぐに戻ると言った。
あちらで泊るつもりはないようだ。
エリザベートはその前に眠らなければならない。
ベッドへ視線を向けたエリザベートはそのまま窓辺へ向かった。
私室よりは遠くなるけれど、ここからもルイの墓が見える。
庭園に灯された篝火の中、ルイの墓がぼんやりと浮かんで見えた。
「お父様に新しい奥様がいらっしゃったのよ。とても可愛らしい方。きっとすぐにルイの弟が生まれるわ。良かったわね……」
エリザベートが優しく語りかける。
知らず知らずのうちに頬を涙が伝っていた。
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