影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
76 / 142
3章 〜過去 正妃と側妃〜

11

しおりを挟む
 明け方ようやく眠りについたエリザベートの濡れた頬を拭い、カールも目を閉じる。
 エリザベートの寝息を聞きながら、いつの間にか眠ってしまっていた。
 目覚めたのもエリザベートの方が早かった。侍女が起こしに来るより先に起きて、腫れた目元を冷やしていたようだ。

 確かに声を聞かれないよう抑えていても、腫れた目をしていればすぐに泣いたとばれてしまう。
 カールが側妃を迎えても気にしない。
 エリザベートは人にそう見せることで矜持を保ち、王妃として侮られないよう体面を守っているのだ。
 侍女たちはというと、エリザベートがどれだけ繕っても腫れた目を完全に治すことはできていなかった。だけどエリザベートの気持ちや立場がわかるのだろう。気づかない振りをして、化粧で完全に誤魔化してしまっていた。

 朝食を終えると共に外宮の執務室へ向かう。
 本当はエリザベートと離れるのは心配だった。ほとんど寝ていないし、心は傷つきぼろぼろだろう。傍にいて、1日中抱き締めていたい。
 だけど流石に2日続けて2人で執務を休んでは悪い噂になる。理由もすぐに察されてしまう。
 結局何事もなかったように振る舞うことが、一番エリザベートを守ることになるのだ。

 2人はいつもと同じようにすれ違う人々と挨拶を交わし、いつもと同じように執務に取り掛かった。





 目を覚ました時からエリザベートはズキズキ痛む頭と重い体を抱えていた。
 原因はわかりきっている。最近あまり眠れていないからだ。更には昨夜一晩中泣いてしまったので、余計に体力が奪われたのだろう。

 自分のことなのに、何故あんなに泣いてしまったのかわからない。
 側妃を娶るのは国王として必要なこと。世継ぎが生れるのは喜ばしいことだと思っているのに、何故か胸が苦しくてたまらなかった。
 きっと疲れているから心が弱くなってしまったのだ。

 眠れない理由もわかっている。
 最近眠りにつくと頻繁にルイの夢を見るのだ。

 夢の中のルイは年齢も様々で、生まれたばかりだったり、ハイハイをしてエリザベートの後をついてきたり、「おかしゃま」と呼びながら抱き着いて来たりする。
 ルイがいくつであってもエリザベートの大切な宝物だ。
 ルイと一緒に過ごすエリザベートは心穏やかに微笑み、ルイを優しく抱き上げると、頬や額に口づけを落とし、愛しさを込めて頭を撫でる。ルイの体温を感じるとそれだけで幸せだと思えた。

 だけどそれは残酷な幸せだ。
 目を覚ましたエリザベートは抱いていたはずのルイがいないことに驚き、徐々に亡くしたことを想い出して絶望する。ルイがいない現実を受け入れられずに泣き叫ぶエリザベートに驚いてカールが飛び起きたこともあった。

 幸せな夢の後には必ず辛い現実が待っている。

 ルイを亡くしてから夢に見ることは度々あったが、頻繁に見るようになったのはルイザを迎えることが決まってからだ。
 ルイザを迎えることで何かが変わることを恐れる気持ちがどこかにあるのか、両親に忘れられることを恐れたルイが、「忘れないで」と訴えているのか。
 わからないがエリザベートは眠るのが怖くなった。
 あの喪失感をこれ以上味わいたくない。



「妃殿下。お疲れのようですので、少しお休みになられてはいかがでしょう」

 声を掛けられ、エリザベートは閉じていた目を開いた。補佐官たちが心配そうにエリザベートを見つめている。
 今は執務の時間だ。昨日はカールと2人で休んだのでそれなりに仕事が溜まっている。エリザベートは遅れを取り戻そうと取り組んでいたのに、頭の痛みに耐えられず、手を止めてしまったのだ。

「……大丈夫よ、心配しないで」

 エリザベートはにっこり笑う。
 それでも補佐官たちは心配そうな表情を変えなかった。
 エリザベートが王太子妃になった時から支えてくれている人たちだ。エリザベートがどんなに繕っていても無理をしているのがわかっているのだろう。また寝込んでしまうのではないかと案じているのかもしれない。 
 それがわかっていても平気な振りをするしかないエリザベートは、何もなかったように執務の続きに取り掛かった。





 ルイザも憂鬱な気持ちを抱えたまま1日を過ごしていた。
 体の痛みはそれほどでもなくいつも通りに起きることができたが、国王がいつ帰ったのかと不思議そうに首を傾げるミザリーに体が冷えるのを感じた。

 思えば昨夜、来てくれたのがイーネで良かったのかもしれない。
 呆然としたルイザを見れば、素晴らしい初夜ではなかったことがわかっただろう。あそこでミザリーに同情されたり慰められたりしたら、ルイザはきっと耐えられなかっただろう。

 それでもルイザはまだ良いように考えようとしていた。
 確かに想像していたような心ときめくような初夜ではなかったが、国王はここへ来て抱いてくれたのだ。若い女性の前で余裕がなかったのかもしれない。

「そうよ。私は望まれて来たんだもの。愛されているはずよ」

 きっと2日目の今日ならもっと落ち着いて話ができるはずだ。
 そうしたら今度こそ、どうしてルイザを選んでくれたのか訊いてみよう。

 呼び方だってそうだ。
 ルイザもミザリーに心を許していても「殿下」と呼ばれるのが嬉しかった。
 国王も「陛下」と呼ばれるのが好きなのかもしれない。

 ルイザは明るく物事を捉えようとした。
 そうしないと不安で押しつぶされそうだったのだ。



 そうして昨夜と同じように、2日目の夜も過ぎていった。 


 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...