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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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アンダーソン公爵もマクロイド公爵もぽかんとした顔でカールを見てい。
2人が驚くのも無理はない。貴族としてきちんと教育を受けていれば当然知っていることなのだ。
そこで2人はルイザが伯爵家でまともな教育を受けられなかったことを思い出したようだ。微妙な顔でカールを見る。
「念の為に言っておくが、隠していたわけじゃないぞ。少なくとも王家が派遣した教育係は教えている」
舞踏会でエスコートせずに済ませられるようわざと教えなかったのかーー。
2人の顔には書かれていた。
だけどカールもルイザを側妃として尊重しようと思っていたのだ。だから舞踏会も開くつもりでいたし、重要な慣習を隠すつもりもなかった。
ルイザに施されたのはたった半年間の詰め込み式の教育だ。忘れていることがあっても仕方がないし、改めて教えれば良いと思っていた。
もし、晩餐会でルイザが少しでもエリザベートを気遣ってくれていたら、カールは初めの予定通りにルイザをエスコートしていただろう。
そう思えば、不寛容なのはエリザベートではなくカールなのだ。
「王妃殿下は……、いえ、義姉上もそれをご存知なのですか?」
マクロイド公爵が「王妃殿下」から「義姉上」と言い換えたのは、臣下ではなく義弟としてエリザベートを案じているからだろう。
あれはどう見ても側妃の邪魔をして無理矢理国王にエスコートさせた王妃の姿ではなかった。
動揺を顔に出さず堂々と振る舞ってはいたが、ルイザの方を殆ど見ないカールと違ってエリザベートはルイザが会話に混ざれるよう苦心していた。
「いや、リーザは何も知らない。側妃の晴れ舞台を奪ってしまったと気に病んでいるよ」
「………そうですか」
マクロイド公爵もエリザベートを疎んじているわけではない。婚姻する前の、まだエリザベートが婚約者だった頃から、やがて義姉弟になる者として親しくしていたのだ。
ただ王弟の立場としては世継ぎを儲けるよう求めなければならなかった。それはエリザベートへの好意とは関係なく、王弟としても務めだったのだ。
だが実際のところカールもマクロイド公爵も、エリザベートが薬を飲むほど思い詰めるとは考えていなかった。
不本意であったとしても王妃として受け入れるものだと心の何処かで信じていたのだ。
それは2人が王妃の子として生まれ、育ってきたからかもしれない。
母は第2王子のこともあって側妃を苦々しく思ってはいたが表面的には受けれいていた。2人が共にお茶を飲むこともあったし、家族で過ごす祝日には薔薇の宮に招いて父も合わせて一家で過ごしていた。
母は父を愛していなかったのかもしれない。
2人がいないところで嘆いていたのかもしれない。
ただひとつ、母はエリザベートと決定的に違うところがあった。
それは2人の息子がいたことである。
カールは王太子としてその地位を盤石なものにしていたし、カールのスペアとして教育を受けていたのも第2王子ではなくマクロイド公爵だった。
側妃に立場を脅かされるなんて案じる必要もなかったのだ。
エリザベートも、もしルイが生きていたらもっと心穏やかでいられたのかもしれない。
だけどルイが生きていれば側妃を迎えることなどなかったのだから考えるだけ無駄なことだ。
2人が驚くのも無理はない。貴族としてきちんと教育を受けていれば当然知っていることなのだ。
そこで2人はルイザが伯爵家でまともな教育を受けられなかったことを思い出したようだ。微妙な顔でカールを見る。
「念の為に言っておくが、隠していたわけじゃないぞ。少なくとも王家が派遣した教育係は教えている」
舞踏会でエスコートせずに済ませられるようわざと教えなかったのかーー。
2人の顔には書かれていた。
だけどカールもルイザを側妃として尊重しようと思っていたのだ。だから舞踏会も開くつもりでいたし、重要な慣習を隠すつもりもなかった。
ルイザに施されたのはたった半年間の詰め込み式の教育だ。忘れていることがあっても仕方がないし、改めて教えれば良いと思っていた。
もし、晩餐会でルイザが少しでもエリザベートを気遣ってくれていたら、カールは初めの予定通りにルイザをエスコートしていただろう。
そう思えば、不寛容なのはエリザベートではなくカールなのだ。
「王妃殿下は……、いえ、義姉上もそれをご存知なのですか?」
マクロイド公爵が「王妃殿下」から「義姉上」と言い換えたのは、臣下ではなく義弟としてエリザベートを案じているからだろう。
あれはどう見ても側妃の邪魔をして無理矢理国王にエスコートさせた王妃の姿ではなかった。
動揺を顔に出さず堂々と振る舞ってはいたが、ルイザの方を殆ど見ないカールと違ってエリザベートはルイザが会話に混ざれるよう苦心していた。
「いや、リーザは何も知らない。側妃の晴れ舞台を奪ってしまったと気に病んでいるよ」
「………そうですか」
マクロイド公爵もエリザベートを疎んじているわけではない。婚姻する前の、まだエリザベートが婚約者だった頃から、やがて義姉弟になる者として親しくしていたのだ。
ただ王弟の立場としては世継ぎを儲けるよう求めなければならなかった。それはエリザベートへの好意とは関係なく、王弟としても務めだったのだ。
だが実際のところカールもマクロイド公爵も、エリザベートが薬を飲むほど思い詰めるとは考えていなかった。
不本意であったとしても王妃として受け入れるものだと心の何処かで信じていたのだ。
それは2人が王妃の子として生まれ、育ってきたからかもしれない。
母は第2王子のこともあって側妃を苦々しく思ってはいたが表面的には受けれいていた。2人が共にお茶を飲むこともあったし、家族で過ごす祝日には薔薇の宮に招いて父も合わせて一家で過ごしていた。
母は父を愛していなかったのかもしれない。
2人がいないところで嘆いていたのかもしれない。
ただひとつ、母はエリザベートと決定的に違うところがあった。
それは2人の息子がいたことである。
カールは王太子としてその地位を盤石なものにしていたし、カールのスペアとして教育を受けていたのも第2王子ではなくマクロイド公爵だった。
側妃に立場を脅かされるなんて案じる必要もなかったのだ。
エリザベートも、もしルイが生きていたらもっと心穏やかでいられたのかもしれない。
だけどルイが生きていれば側妃を迎えることなどなかったのだから考えるだけ無駄なことだ。
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