影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
98 / 142
3章 〜過去 正妃と側妃〜

32

しおりを挟む
 アンダーソン公爵もマクロイド公爵もぽかんとした顔でカールを見てい。
 2人が驚くのも無理はない。貴族としてきちんと教育を受けていれば当然知っていることなのだ。
 そこで2人はルイザが伯爵家でまともな教育を受けられなかったことを思い出したようだ。微妙な顔でカールを見る。

「念の為に言っておくが、隠していたわけじゃないぞ。少なくとも王家が派遣した教育係は教えている」

 舞踏会でエスコートせずに済ませられるようわざと教えなかったのかーー。
 2人の顔には書かれていた。
 だけどカールもルイザを側妃として尊重しようと思っていたのだ。だから舞踏会も開くつもりでいたし、重要な慣習を隠すつもりもなかった。

 ルイザに施されたのはたった半年間の詰め込み式の教育だ。忘れていることがあっても仕方がないし、改めて教えれば良いと思っていた。
 もし、晩餐会でルイザが少しでもエリザベートを気遣ってくれていたら、カールは初めの予定通りにルイザをエスコートしていただろう。
 そう思えば、不寛容なのはエリザベートではなくカールなのだ。
 
「王妃殿下は……、いえ、義姉上もそれをご存知なのですか?」

 マクロイド公爵が「王妃殿下」から「義姉上」と言い換えたのは、臣下ではなく義弟としてエリザベートを案じているからだろう。
 あれはどう見ても側妃の邪魔をして無理矢理国王にエスコートさせた王妃の姿ではなかった。
 動揺を顔に出さず堂々と振る舞ってはいたが、ルイザの方を殆ど見ないカールと違ってエリザベートはルイザが会話に混ざれるよう苦心していた。

「いや、リーザは何も知らない。側妃の晴れ舞台を奪ってしまったと気に病んでいるよ」

「………そうですか」

 マクロイド公爵もエリザベートを疎んじているわけではない。婚姻する前の、まだエリザベートが婚約者だった頃から、やがて義姉弟になる者として親しくしていたのだ。
 ただ王弟の立場としては世継ぎを儲けるよう求めなければならなかった。それはエリザベートへの好意とは関係なく、王弟としても務めだったのだ。

 だが実際のところカールもマクロイド公爵も、エリザベートが薬を飲むほど思い詰めるとは考えていなかった。
 不本意であったとしても王妃として受け入れるものだと心の何処かで信じていたのだ。
 それは2人が王妃の子として生まれ、育ってきたからかもしれない。
 母は第2王子のこともあって側妃を苦々しく思ってはいたが表面的には受けれいていた。2人が共にお茶を飲むこともあったし、家族で過ごす祝日には薔薇の宮に招いて父も合わせて一家で過ごしていた。

 母は父を愛していなかったのかもしれない。
 2人がいないところで嘆いていたのかもしれない。
 ただひとつ、母はエリザベートと決定的に違うところがあった。
 それは2人の息子がいたことである。

 カールは王太子としてその地位を盤石なものにしていたし、カールのスペアとして教育を受けていたのも第2王子ではなくマクロイド公爵だった。
 側妃に立場を脅かされるなんて案じる必要もなかったのだ。

 エリザベートも、もしルイが生きていたらもっと心穏やかでいられたのかもしれない。
 だけどルイが生きていれば側妃を迎えることなどなかったのだから考えるだけ無駄なことだ。





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

処理中です...