影の王宮

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
108 / 142
3章 〜過去 正妃と側妃〜

42

しおりを挟む
「どうして陛下は来ないのよ!!」

 ルイザは苛立ちのまま声を上げた。
 ここ最近はいつものことになっていて、侍女たちも慣れてしまったのか落ち着いて見ている。
 ひとしきり騒いでしまえばどうしようもなくて黙ってしまうとわかっているからかもしれない。
 ルイザが苛立っている理由は唯一つ、カールが会いに来ないからだ。

 絶対に国王の子を、世継ぎを産んでみせると決意をし、望み通り懐妊したルイザだったが、事はルイザの望み通りに進まなかった。
 子どもを媒介にして親交を深めるはずだったのに、カールは全くルイザに会いに来ない。
 我慢できずに何度も会いに来て欲しいと手紙を書いたが、10通を超えたところで侍従と思われる男から「お忙しい方ですので勘弁して下さい」と苦情を言われてしまった。週に一度の閨も無くなったので、もう数ヶ月カールの顔を見ていない。

 確かに妊娠がわかってから毎日侍医たちの診察を受けるようになった。
 侍女たちも今はこうして苛立つルイザを眺めているが、本当に具合が悪い時は親身になって世話をしてくれるし、すぐに侍医を呼びに行ってくれる。
 悪阻が酷い時はルイザが食べられそうなものを料理長があれやこれやと作ってくれたし、突然突飛なものを食べたくなってもできる限り叶えてくれた。
 として、ルイザや子どもを気にかけてくれているのだろう。
 だけどルイザが求めているのはそういったことではないのだ。
 
 それにルイザは王家の仕来りを上手く理解できていなかった。
 王家では子が生まれても3歳まで隠される。
 それは教えられていたし、知識として知っていた。だけどそれがどういうことなのか飲み込めていなかったのだ。

 ルイザが思い浮かべていたのは次々に祝いの品が届けられ、繋がりを持とうと訪ねてくる貴族たちに囲まれて笑う自身の姿だった。
 だけどルイザの懐妊は公表されてない。
 つまり祝いの品が届くことはなく、訪ねてくる人もいないのだ。腹の膨らみが目立つドレスを沢山仕立てたのにすべて無駄になってしまった。
 
 ルイザが貴族たちの祝福と称賛を受けるのは3年以上先になる。
 国王の寵愛を傘にきたエリザベートに子を見せつけられるのもその後だ。
 それは途方もなく先のことに思われた。

 実際にはエリザベートがしていたように同じ派閥や味方に引き入れたい人を招いてそれとなく周りに懐妊を知らせるものだ。大々的に祝福を受けることはなくても内々で祝いの品を贈られる。
 そして貴族たちは生まれる子の妃や側近の座を狙って子作りに励むのだ。

 だけどそんな慣例を知らないルイザは、お茶会を開いて自ら懐妊したことを広めようとはしなかった。
 側妃の招待はそうそう断れるものではないので、もしルイザが茶会を開いていれば人は集まっただろう。それを切っ掛けに友人ができたかもしれないし、腹の膨らみが目立つドレスはその威力を遺憾なく発揮してあっという間に側妃懐妊の噂が社交界を駆け抜けていたはずだ。
 だけどそうとはならず、ルイザはエリザベートに懐妊を知られていることさえ知らずに思い通りにならない現実に苛立ちを募らせていた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?

山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

処理中です...