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3章 〜過去 正妃と側妃〜
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「どうして陛下は来ないのよ!!」
ルイザは苛立ちのまま声を上げた。
ここ最近はいつものことになっていて、侍女たちも慣れてしまったのか落ち着いて見ている。
ひとしきり騒いでしまえばどうしようもなくて黙ってしまうとわかっているからかもしれない。
ルイザが苛立っている理由は唯一つ、カールが会いに来ないからだ。
絶対に国王の子を、世継ぎを産んでみせると決意をし、望み通り懐妊したルイザだったが、事はルイザの望み通りに進まなかった。
子どもを媒介にして親交を深めるはずだったのに、カールは全くルイザに会いに来ない。
我慢できずに何度も会いに来て欲しいと手紙を書いたが、10通を超えたところで侍従と思われる男から「お忙しい方ですので勘弁して下さい」と苦情を言われてしまった。週に一度の閨も無くなったので、もう数ヶ月カールの顔を見ていない。
確かに妊娠がわかってから毎日侍医たちの診察を受けるようになった。
侍女たちも今はこうして苛立つルイザを眺めているが、本当に具合が悪い時は親身になって世話をしてくれるし、すぐに侍医を呼びに行ってくれる。
悪阻が酷い時はルイザが食べられそうなものを料理長があれやこれやと作ってくれたし、突然突飛なものを食べたくなってもできる限り叶えてくれた。
王家として、ルイザや子どもを気にかけてくれているのだろう。
だけどルイザが求めているのはそういったことではないのだ。
それにルイザは王家の仕来りを上手く理解できていなかった。
王家では子が生まれても3歳まで隠される。
それは教えられていたし、知識として知っていた。だけどそれがどういうことなのか飲み込めていなかったのだ。
ルイザが思い浮かべていたのは次々に祝いの品が届けられ、繋がりを持とうと訪ねてくる貴族たちに囲まれて笑う自身の姿だった。
だけどルイザの懐妊は公表されてない。
つまり祝いの品が届くことはなく、訪ねてくる人もいないのだ。腹の膨らみが目立つドレスを沢山仕立てたのにすべて無駄になってしまった。
ルイザが貴族たちの祝福と称賛を受けるのは3年以上先になる。
国王の寵愛を傘にきたエリザベートに子を見せつけられるのもその後だ。
それは途方もなく先のことに思われた。
実際にはエリザベートがしていたように同じ派閥や味方に引き入れたい人を招いてそれとなく周りに懐妊を知らせるものだ。大々的に祝福を受けることはなくても内々で祝いの品を贈られる。
そして貴族たちは生まれる子の妃や側近の座を狙って子作りに励むのだ。
だけどそんな慣例を知らないルイザは、お茶会を開いて自ら懐妊したことを広めようとはしなかった。
側妃の招待はそうそう断れるものではないので、もしルイザが茶会を開いていれば人は集まっただろう。それを切っ掛けに友人ができたかもしれないし、腹の膨らみが目立つドレスはその威力を遺憾なく発揮してあっという間に側妃懐妊の噂が社交界を駆け抜けていたはずだ。
だけどそうとはならず、ルイザはエリザベートに懐妊を知られていることさえ知らずに思い通りにならない現実に苛立ちを募らせていた。
ルイザは苛立ちのまま声を上げた。
ここ最近はいつものことになっていて、侍女たちも慣れてしまったのか落ち着いて見ている。
ひとしきり騒いでしまえばどうしようもなくて黙ってしまうとわかっているからかもしれない。
ルイザが苛立っている理由は唯一つ、カールが会いに来ないからだ。
絶対に国王の子を、世継ぎを産んでみせると決意をし、望み通り懐妊したルイザだったが、事はルイザの望み通りに進まなかった。
子どもを媒介にして親交を深めるはずだったのに、カールは全くルイザに会いに来ない。
我慢できずに何度も会いに来て欲しいと手紙を書いたが、10通を超えたところで侍従と思われる男から「お忙しい方ですので勘弁して下さい」と苦情を言われてしまった。週に一度の閨も無くなったので、もう数ヶ月カールの顔を見ていない。
確かに妊娠がわかってから毎日侍医たちの診察を受けるようになった。
侍女たちも今はこうして苛立つルイザを眺めているが、本当に具合が悪い時は親身になって世話をしてくれるし、すぐに侍医を呼びに行ってくれる。
悪阻が酷い時はルイザが食べられそうなものを料理長があれやこれやと作ってくれたし、突然突飛なものを食べたくなってもできる限り叶えてくれた。
王家として、ルイザや子どもを気にかけてくれているのだろう。
だけどルイザが求めているのはそういったことではないのだ。
それにルイザは王家の仕来りを上手く理解できていなかった。
王家では子が生まれても3歳まで隠される。
それは教えられていたし、知識として知っていた。だけどそれがどういうことなのか飲み込めていなかったのだ。
ルイザが思い浮かべていたのは次々に祝いの品が届けられ、繋がりを持とうと訪ねてくる貴族たちに囲まれて笑う自身の姿だった。
だけどルイザの懐妊は公表されてない。
つまり祝いの品が届くことはなく、訪ねてくる人もいないのだ。腹の膨らみが目立つドレスを沢山仕立てたのにすべて無駄になってしまった。
ルイザが貴族たちの祝福と称賛を受けるのは3年以上先になる。
国王の寵愛を傘にきたエリザベートに子を見せつけられるのもその後だ。
それは途方もなく先のことに思われた。
実際にはエリザベートがしていたように同じ派閥や味方に引き入れたい人を招いてそれとなく周りに懐妊を知らせるものだ。大々的に祝福を受けることはなくても内々で祝いの品を贈られる。
そして貴族たちは生まれる子の妃や側近の座を狙って子作りに励むのだ。
だけどそんな慣例を知らないルイザは、お茶会を開いて自ら懐妊したことを広めようとはしなかった。
側妃の招待はそうそう断れるものではないので、もしルイザが茶会を開いていれば人は集まっただろう。それを切っ掛けに友人ができたかもしれないし、腹の膨らみが目立つドレスはその威力を遺憾なく発揮してあっという間に側妃懐妊の噂が社交界を駆け抜けていたはずだ。
だけどそうとはならず、ルイザはエリザベートに懐妊を知られていることさえ知らずに思い通りにならない現実に苛立ちを募らせていた。
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