109 / 142
3章 〜過去 正妃と側妃〜
43
しおりを挟む
ルイザが苛立つ原因は他にもあった。
百合の宮にはカールやエリザベートの動向が伝わってこないのだ。
外宮や鳳凰の宮にもっと近ければ侍女たちの行き来があったかもしれない。そうすればカールの様子を聞くこともできただろう。
それを思えばこれまで何とも思っていなかった距離が恨めしく思えた。
気になっているのは、カールがどれくらいの頻度でエリザベートの元を訪れているのかだ。
さすがのルイザもカールが来ない理由が忙しいからだとはもう信じていない。
ルイザに興味がないというのもあるのだろう。だけどエリザベートが邪魔をしている可能性もあるのだ。
それに気がついた時、これまで疑いもしなかった自分の愚かさが嫌になった。
初めて会った時の、にこやかに迎えてくれたエリザベートの優しさが心の底に染み付いていたのかもしれない。
だけど舞踏会でカールに愛される姿を見せつけ、ルイザをどん底に突き落としたことを思えばあの優しさも策略だったのだろう。ルイザはそれにまんまと乗せられたのだ。
少し考えればわかることだった。
結婚して10年経っても懐妊しないことから側妃が迎えられた。
夫が側妃を迎えて面白いはずがないだろう。
それにこれまで懐妊しなかったからといって、今後もエリザベートが絶対に懐妊しないとは限らないのだ。
ルイザが懐妊したと知らないエリザベートは、先に懐妊しようと必死でカールを引き止めているのかもしれない。
もしエリザベートが懐妊したら。
浮かんだ可能性にルイザはゾッとした。
数ヶ月の違いであれば、カールは間違いなくエリザベートの子を王太子にするだろう。
カールは寵愛する王妃の子に王位を譲りたいと望むだろうし、エリザベートには強力なダシェンボード公爵家やその派閥貴族の後ろ盾があるのだ。後継者争いになれば没落寸前のヴィラント伯爵家しかいないルイザの子では敵うわけがない。
「妃殿下、爪の形が変わりますのでお止め下さい」
イーネの声にルイザはハッとして顔を上げた。
無意識に爪を噛んでいたようだ。
イーネはルイザをよく見ていて、側妃に相応しくない振る舞いをすれば即座に止められる。
決まり悪さにそっぽを向けば無言でお茶が出された。
ルイザはお茶を一口飲むと大きく息をつく。
リラックス効果のあるお茶のようで、最近はよく用意されている。実際に温かいお茶が体に染み渡っていくようで気持ちが落ち着いていくのが感じられた。
だけどイーネもルイザの為だけに働いてくれているとは思えない。
イーネはルイザの様子を報告するために定期的にカールの元を訪れているのだ。時々カールからの指示を伝えられる時もある。
だけどカールやエリザベートの様子を何度訊いても「お忙しくしておられます」と同じことしか答えてもらえなかった。
恐ろしいのはルイザの子が公表されるのが3歳になった時であるように、エリザベートの子が公表されるのも3歳になった時であることだ。
もしかしたらもうエリザベートは懐妊しているかもしれない。
そんな恐れを抱きつつ何年も耐えなければならないのだ。
百合の宮にはカールやエリザベートの動向が伝わってこないのだ。
外宮や鳳凰の宮にもっと近ければ侍女たちの行き来があったかもしれない。そうすればカールの様子を聞くこともできただろう。
それを思えばこれまで何とも思っていなかった距離が恨めしく思えた。
気になっているのは、カールがどれくらいの頻度でエリザベートの元を訪れているのかだ。
さすがのルイザもカールが来ない理由が忙しいからだとはもう信じていない。
ルイザに興味がないというのもあるのだろう。だけどエリザベートが邪魔をしている可能性もあるのだ。
それに気がついた時、これまで疑いもしなかった自分の愚かさが嫌になった。
初めて会った時の、にこやかに迎えてくれたエリザベートの優しさが心の底に染み付いていたのかもしれない。
だけど舞踏会でカールに愛される姿を見せつけ、ルイザをどん底に突き落としたことを思えばあの優しさも策略だったのだろう。ルイザはそれにまんまと乗せられたのだ。
少し考えればわかることだった。
結婚して10年経っても懐妊しないことから側妃が迎えられた。
夫が側妃を迎えて面白いはずがないだろう。
それにこれまで懐妊しなかったからといって、今後もエリザベートが絶対に懐妊しないとは限らないのだ。
ルイザが懐妊したと知らないエリザベートは、先に懐妊しようと必死でカールを引き止めているのかもしれない。
もしエリザベートが懐妊したら。
浮かんだ可能性にルイザはゾッとした。
数ヶ月の違いであれば、カールは間違いなくエリザベートの子を王太子にするだろう。
カールは寵愛する王妃の子に王位を譲りたいと望むだろうし、エリザベートには強力なダシェンボード公爵家やその派閥貴族の後ろ盾があるのだ。後継者争いになれば没落寸前のヴィラント伯爵家しかいないルイザの子では敵うわけがない。
「妃殿下、爪の形が変わりますのでお止め下さい」
イーネの声にルイザはハッとして顔を上げた。
無意識に爪を噛んでいたようだ。
イーネはルイザをよく見ていて、側妃に相応しくない振る舞いをすれば即座に止められる。
決まり悪さにそっぽを向けば無言でお茶が出された。
ルイザはお茶を一口飲むと大きく息をつく。
リラックス効果のあるお茶のようで、最近はよく用意されている。実際に温かいお茶が体に染み渡っていくようで気持ちが落ち着いていくのが感じられた。
だけどイーネもルイザの為だけに働いてくれているとは思えない。
イーネはルイザの様子を報告するために定期的にカールの元を訪れているのだ。時々カールからの指示を伝えられる時もある。
だけどカールやエリザベートの様子を何度訊いても「お忙しくしておられます」と同じことしか答えてもらえなかった。
恐ろしいのはルイザの子が公表されるのが3歳になった時であるように、エリザベートの子が公表されるのも3歳になった時であることだ。
もしかしたらもうエリザベートは懐妊しているかもしれない。
そんな恐れを抱きつつ何年も耐えなければならないのだ。
40
あなたにおすすめの小説
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる