110 / 111
3章 〜過去 正妃と側妃〜
44
しおりを挟む
それからもカールと会えないまま時間が過ぎた。
ルイザの毎日は単調なものだ。
朝起きて侍医長の診察を受けてから朝食を摂り、侍女にカールからの前触れがないか確認して、何も無いことに癇癪を起こす。落ち着いたらお茶を飲み、庭園を歩く。
昼食の後妃教育の講師が来る時は授業を受け、そうでない時はカールに手紙を書く。
手紙にはその日の天気のことや庭園に咲く花、景色の素晴らしさを綴り、最後に必ず「一緒に庭園を眺めませんか?」と書く。
これまで一度も返事が来たことはないが、イーネからは時々「手紙の書き方が上達したようですね」と褒めらることがあった。
初めの頃、ルイザは意味がわからなかった。
だけど国王宛の手紙をイーネが勝手に開けているとは思えない。イーネの言葉はカールからの言葉なのだ。要するにカールは、ルイザからの手紙を妃教育の進捗を図る課題として捉えている。
それに気づいた時、ルイザは悔しくて悔しくて大きな声を上げていた。
それでもルイザは手紙を書くことを止められなかった。
カールに会うために、他にどうしたら良いのかわからないからだ。
そんなルイザにチャンスが訪れた。
カールが王領で行われる式典に出るために数日王都を離れるという。
ルイザには留守にする日付と「体調に気をつけ、何かあればすぐに侍医を呼ぶように」という言付けがあっただけだったが、王宮全体が準備で騒がしくなっているようで百合の宮にも何処となく落ち着かない空気が漂っていた。
そしてカールが出発する当日。
それは本当に偶然だったのだろう。いつになく皆バタバタしていて、気がつけばルイザの近くに控えているのはミザリーだけになっていた。
「陛下は今日出発されるのね」
「はい。皆さん忙しそうで……。侍女やメイドも沢山同行するんですものね」
確かにそうだ。百合の宮には直接関係ないとしても、国王が出掛けるとなれば多くの者が付き従っていく。
泊りがけなのだから当然身の回りの世話をする侍女や侍従、メイドも必要だろう。そうなれば手薄になった箇所を助けるために侍女たちの手を取られることもあるのかもしれない。
ミザリーがその中に含まれていないのは、ルイザが唯一伯爵家から連れてきた侍女だからなのだ。
「陛下の護衛には第一騎士団が当たるそうです。精鋭の騎士たちに守られた綺羅びやかな行列……。それは見事でしょうねぇ」
ミザリーが行列を思い浮かべてうっとりと呟く。
これまでもカールが視察に出たことはあったが、ずっと領地にいたルイザやミザリーに行列を見るチャンスはなかった。想像の中では四頭立ての馬車が何台も連なり、その両側を精悍な騎士が守っている。夢のように美しい光景だ。
この時ルイザはふと思いついた。
国王は今日宮殿を出る。だけど出立式があるとは聞いていない。
それなら見送りに行けば良いのではないか。
鳳凰の宮を出て馬車に乗るまでの、ほんの少しの時間で良いからルイザのことを見て欲しい。
そうしたら……、大きくなった腹を見て何か言葉を掛けてくれるかもしれない。
一度思いつくと、とても良いアイデアに思えた。
「……陛下に会いに行きましょう!出発するまでに急がなきゃ!」
「ええっ?!本気ですか?!」
ミザリーが驚いて声を上げる。
だけどルイザは止まらなかった。
ルイザの毎日は単調なものだ。
朝起きて侍医長の診察を受けてから朝食を摂り、侍女にカールからの前触れがないか確認して、何も無いことに癇癪を起こす。落ち着いたらお茶を飲み、庭園を歩く。
昼食の後妃教育の講師が来る時は授業を受け、そうでない時はカールに手紙を書く。
手紙にはその日の天気のことや庭園に咲く花、景色の素晴らしさを綴り、最後に必ず「一緒に庭園を眺めませんか?」と書く。
これまで一度も返事が来たことはないが、イーネからは時々「手紙の書き方が上達したようですね」と褒めらることがあった。
初めの頃、ルイザは意味がわからなかった。
だけど国王宛の手紙をイーネが勝手に開けているとは思えない。イーネの言葉はカールからの言葉なのだ。要するにカールは、ルイザからの手紙を妃教育の進捗を図る課題として捉えている。
それに気づいた時、ルイザは悔しくて悔しくて大きな声を上げていた。
それでもルイザは手紙を書くことを止められなかった。
カールに会うために、他にどうしたら良いのかわからないからだ。
そんなルイザにチャンスが訪れた。
カールが王領で行われる式典に出るために数日王都を離れるという。
ルイザには留守にする日付と「体調に気をつけ、何かあればすぐに侍医を呼ぶように」という言付けがあっただけだったが、王宮全体が準備で騒がしくなっているようで百合の宮にも何処となく落ち着かない空気が漂っていた。
そしてカールが出発する当日。
それは本当に偶然だったのだろう。いつになく皆バタバタしていて、気がつけばルイザの近くに控えているのはミザリーだけになっていた。
「陛下は今日出発されるのね」
「はい。皆さん忙しそうで……。侍女やメイドも沢山同行するんですものね」
確かにそうだ。百合の宮には直接関係ないとしても、国王が出掛けるとなれば多くの者が付き従っていく。
泊りがけなのだから当然身の回りの世話をする侍女や侍従、メイドも必要だろう。そうなれば手薄になった箇所を助けるために侍女たちの手を取られることもあるのかもしれない。
ミザリーがその中に含まれていないのは、ルイザが唯一伯爵家から連れてきた侍女だからなのだ。
「陛下の護衛には第一騎士団が当たるそうです。精鋭の騎士たちに守られた綺羅びやかな行列……。それは見事でしょうねぇ」
ミザリーが行列を思い浮かべてうっとりと呟く。
これまでもカールが視察に出たことはあったが、ずっと領地にいたルイザやミザリーに行列を見るチャンスはなかった。想像の中では四頭立ての馬車が何台も連なり、その両側を精悍な騎士が守っている。夢のように美しい光景だ。
この時ルイザはふと思いついた。
国王は今日宮殿を出る。だけど出立式があるとは聞いていない。
それなら見送りに行けば良いのではないか。
鳳凰の宮を出て馬車に乗るまでの、ほんの少しの時間で良いからルイザのことを見て欲しい。
そうしたら……、大きくなった腹を見て何か言葉を掛けてくれるかもしれない。
一度思いつくと、とても良いアイデアに思えた。
「……陛下に会いに行きましょう!出発するまでに急がなきゃ!」
「ええっ?!本気ですか?!」
ミザリーが驚いて声を上げる。
だけどルイザは止まらなかった。
応援ありがとうございます!
30
お気に入りに追加
500
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる