142 / 142
4章 〜過去 崩れゆく世界〜
16
しおりを挟む
カールが思い当たったといっても簡単に事は進まなかった。
密かにリチャードを執務室へ呼び出し打診をしたが、リチャードはとんでもないと頭を振る。
「陛下には既にお世継ぎがいらっしゃいます。養子は必要ございません。エドワードに王位継承権は与えないとおっしゃられても、決して議会の理解は得られないでしょう」
リチャードの言うことはわかる。すべてカールが考えていたことだ。
世継ぎの生まれたカールが養子を迎える必要はない。それなのにダシェンボード公爵家の子息を王妃の養子にするというのは、王太子の外戚になる機会を失った公爵家が子息を使って王太子位を奪おうとしている、王家を乗っ取るつもりではないか、と疑惑を持たれることになる。
子どもが多いといっても裕福な公爵家が養育に困るわけではない。
将来的に次男以降の子は身を立てる術を探さなければならないが、公爵家は従属爵位も豊富に持っている。
生まれて半年程しか経たない子息を養子に出さなければいけないような理由が公爵家には一つもなかった。
公爵邸に帰ったリチャードは、カールからの話を密かにアンヌに告げた。
アンヌも驚いて首を振る。
二人ともエリザベートを案じているが、エドワードだって大切な息子なのだ。手放せるわけがない。
この話はリチャードから前公爵夫妻にも伝えられ、話を聞いた前公爵がカールの元へ乗り込んできた。
「リチャードから話を聞きました。エドワードを養子にするなどとんでもないことです」
前公爵の主張はリチャードと同じだった。
国が混乱に陥るとわかっているのに、火種となる子を渡せるわけがない。
ただ前公爵がリチャードと違っていたのは、別の要求をしてきたことだ。
「王妃殿下……、エリザベートの状態が良くないことはわたしたちにも分かっています。エリザベートをわたしたちに返していただけませんか」
「………何?」
前公爵の言葉にカールは目を見開いた。
結婚前にエリザベートが病に倒れた時から、前公爵夫妻は婚約の解消を求めていた。
高熱で体が弱くなってしまったエリザベートは子どもを産めない可能性が高い。このままカールと結婚しても、いずれ世継ぎの為に側妃を迎えることは分かっていた。
想いの通わない政略結婚の方が良かったのかもしれない。
カールを想うエリザベートは、他の女の元へ通うカールに心を痛めるだろう。他の女が産んだ子を抱くカールに傷つくはずだ。ルイが生まれたことは予想外だったが、エリザベートの今の状態は初めから予想できていたことだ。
それなのにカールは結婚を反対する前国王夫妻を説き伏せ、婚約解消を求める前公爵夫妻を押し切ってエリザベートに求婚を受け入れさせてしまった。
本来ならどんなに辛くても側妃や側妃の子を受け入れるのが結婚を決めたエリザベートの責任だ。
だけど心を壊して受け入れられないのなら、その環境から離してやるしかない。
「陛下が側妃を迎えることも、陛下のお世継ぎは側妃がお生みになることもわたしたちはわかっていました。当然エリザベートもです。ですが今のエリザベートでは受け入れることができないでしょう。ならば遠く離れた場所で静養させるのが一番です。どうかあの娘を悩みから解き放ってやって下さい」
「いや……、そんなことは………」
カールの声が震えた。
密かにリチャードを執務室へ呼び出し打診をしたが、リチャードはとんでもないと頭を振る。
「陛下には既にお世継ぎがいらっしゃいます。養子は必要ございません。エドワードに王位継承権は与えないとおっしゃられても、決して議会の理解は得られないでしょう」
リチャードの言うことはわかる。すべてカールが考えていたことだ。
世継ぎの生まれたカールが養子を迎える必要はない。それなのにダシェンボード公爵家の子息を王妃の養子にするというのは、王太子の外戚になる機会を失った公爵家が子息を使って王太子位を奪おうとしている、王家を乗っ取るつもりではないか、と疑惑を持たれることになる。
子どもが多いといっても裕福な公爵家が養育に困るわけではない。
将来的に次男以降の子は身を立てる術を探さなければならないが、公爵家は従属爵位も豊富に持っている。
生まれて半年程しか経たない子息を養子に出さなければいけないような理由が公爵家には一つもなかった。
公爵邸に帰ったリチャードは、カールからの話を密かにアンヌに告げた。
アンヌも驚いて首を振る。
二人ともエリザベートを案じているが、エドワードだって大切な息子なのだ。手放せるわけがない。
この話はリチャードから前公爵夫妻にも伝えられ、話を聞いた前公爵がカールの元へ乗り込んできた。
「リチャードから話を聞きました。エドワードを養子にするなどとんでもないことです」
前公爵の主張はリチャードと同じだった。
国が混乱に陥るとわかっているのに、火種となる子を渡せるわけがない。
ただ前公爵がリチャードと違っていたのは、別の要求をしてきたことだ。
「王妃殿下……、エリザベートの状態が良くないことはわたしたちにも分かっています。エリザベートをわたしたちに返していただけませんか」
「………何?」
前公爵の言葉にカールは目を見開いた。
結婚前にエリザベートが病に倒れた時から、前公爵夫妻は婚約の解消を求めていた。
高熱で体が弱くなってしまったエリザベートは子どもを産めない可能性が高い。このままカールと結婚しても、いずれ世継ぎの為に側妃を迎えることは分かっていた。
想いの通わない政略結婚の方が良かったのかもしれない。
カールを想うエリザベートは、他の女の元へ通うカールに心を痛めるだろう。他の女が産んだ子を抱くカールに傷つくはずだ。ルイが生まれたことは予想外だったが、エリザベートの今の状態は初めから予想できていたことだ。
それなのにカールは結婚を反対する前国王夫妻を説き伏せ、婚約解消を求める前公爵夫妻を押し切ってエリザベートに求婚を受け入れさせてしまった。
本来ならどんなに辛くても側妃や側妃の子を受け入れるのが結婚を決めたエリザベートの責任だ。
だけど心を壊して受け入れられないのなら、その環境から離してやるしかない。
「陛下が側妃を迎えることも、陛下のお世継ぎは側妃がお生みになることもわたしたちはわかっていました。当然エリザベートもです。ですが今のエリザベートでは受け入れることができないでしょう。ならば遠く離れた場所で静養させるのが一番です。どうかあの娘を悩みから解き放ってやって下さい」
「いや……、そんなことは………」
カールの声が震えた。
65
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜
紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。
しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。
私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。
近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。
泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。
私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!
恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。
誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、
三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。
「キャ...ス...といっしょ?」
キャス……?
その名を知るはずのない我が子が、どうして?
胸騒ぎはやがて確信へと変わる。
夫が隠し続けていた“女の影”が、
じわりと家族の中に染み出していた。
だがそれは、いま目の前の裏切りではない。
学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。
その一夜の結果は、静かに、確実に、
フローレンスの家族を壊しはじめていた。
愛しているのに疑ってしまう。
信じたいのに、信じられない。
夫は嘘をつき続け、女は影のように
フローレンスの生活に忍び寄る。
──私は、この結婚を守れるの?
──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの?
秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。
真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる