王都から領地に帰ると私の夫の亡妻とやらが夫と似つかぬ息子を連れ、「亡妻の当然の権利」なるものを行使していた。夫は生きているのだが?

ぽんた

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 階段でメイドのサリーとアリーに会った。

 ふたりは、燃えるような赤色の髪と瞳を持つ双子の姉妹。外見はめちゃくちゃ似ているけれど、性格は正反対。

「あなたたちに迷惑をかけ、ストレスを与えているみたいね。だけど、まさかぶっ飛ばしてやしないわよね?」

 妹のアリーは、とにかく短気なのだ。しかも剣術と体術が男性に負けやしないので、領地内に賊や悪漢がでようものなら、馬で駆けつけあっという間に成敗や討伐をしてしまう。

「まさか」

 アリーは、わたしの言葉が自分にたいしてだとわかっている。その可愛らしい顔に可愛らしい笑みを浮かべた。

「脳内で二十八回ぶっ飛ばしましたけど、リアルにはやってません。いまのところは、ですけど」

 彼女らしい返答に笑ってしまった。

「やめなさい、アリー。それでなくても『野獣姫』と呼ばれている奥様なのに、そのメイドが暴力沙汰ばかりだなんて、奥様の評判をますます貶めることになるわ」

 双子の姉のサリーがたしなめた。

 彼女は、遠まわしにわたしをたしなめているのに違いない。

「だけどまぁ、あれはたしかに稀にみる愚か者ね」

 サリーは、わたしと視線が合うとそう言って両肩をすくめた。

「隣国からせっかく来たんですもの。カールの調べが終わるまで脳内だけにとどめてね、アリー?」
「わかっています。ですが、それも時間の問題かも」
「アリー。そんなに暴れたいなら、軍に戻ったら?」
「姉さん、冗談言わないで。平和ボケしていてお上品な軍人相手だと、つまらないのよ。それだったら、ここら辺に出没する賊や悪漢どもの方がよほどストレス解消になる。そうですよね、奥様?」
「アリー、わたしにふらないでちょうだい。あなたの姉さんに頭ごなしに叱られたり、嫌味をぶちかまされたくないから」

 苦笑するしかない。

 わたしもアリーと同じ気持ちだから。

 わたしの場合、お上品で高慢ちきな貴族連中も相手にしなければならないのだ。

 戦争があった頃が懐かしすぎる。

「それで、あの子は? 名前は聞いているのかしら?」
「はい。ライオネル、というそうです。姓は言ってくれません。いまは、部屋で読書をしています。あの愚か者が飲んだくれて眠っている間に図書室に案内したら、よろこんで本をチョイスしていました。その中の一冊を読んでいます。奥様、彼は母親を自称する愚か者の息子ではありません」
「そうね。わたしもあなたの推測と同じよ、サリー。それと、体の痣や傷のことも聞いたわ」

 階下を見下ろした。

 質素倹約が家訓のため、屋敷内にはムダな装飾品や調度はない。そのかわり、自然の花を飾ったり木や岩を彫った作品を置いている。

 もちろん、屋敷中すべてがピッカピカに清掃されている。

「ライオネルの衣服をお願い出来るかしら? ついでにカフェでお茶でもして来てくれていいわよ」
「ほんとですか? よろこんで。帰りに奥様の大好物のケーキを買ってきますね」

 アリーは、子どもみたいにはしゃいだ。

「じゃあ、お願いね」

 双子の姉妹にお願いし、階段をのぼりきった。

「お茶とスイーツはなににしようかな。迷っちゃう」というアリーの悩みに、「本日のケーキセットでいいんじゃない?」とサリーの解決案が聞こえてきた。 
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