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「奥様、まだムリをなさらない方がいいのではないですか?」
寝室内をウロウロと歩きまわりながら、これからどうしようかと考えていると、レベッカに言われた。
「そうか。わたしってバルコニーから落ちて頭を打ったのよね? というか、二階から落ちたってことよね? しかも、頭から?」
事故、というよりか自殺未遂らしい内容に、あらためて愕然とした。
「って、わたしってどれだけ石頭なの? 地面に頭から落ちて記憶を失ったくらいですんだのだから。よほど運がよかったのね」
開けっぱなしのガラス扉からバルコニーへ出た。
陽光のあまりのまぶしさに目が眩んだ。
両手をかざし、陽光のキラキラに慣れるまで待った。
すぐに慣れたので、手すりから下をのぞいてみた。
「というか、死ななくてほんとうによかったわ」
おもわず、そうつぶやいてしまった。
当然のことながら、真下はかたい土の地面。砂利を敷き詰めていたり岩だらけというわけではない。しかし、芝生や草がボーボーに生えていたり、やわらかい土でクッション性にとんでいるわけでもない。
(頭から落下し、地面に頭を打ちつけて記憶を失ったくらいですむのかしら?)
たしかに、右のこめかみの上あたりから頭髪にかけてバックリ割れている。それは、ドナルドソン公爵家のかかりつけ医が縫ってくれた。まだ鏡を見ていないけれど、右反面は凄まじい色合いに彩られているに違いない。
これくらいですんだことは、ほんとうに幸運だったと思わざるを得ない。
死ななかったことに感謝しなければならない。
「だけど、自殺未遂よね? それなら、死ぬことができなかったことはラッキーじゃないわよね?」
またつぶやいていた。
自分の名前さえわからないけれど、わたしが自殺未遂したなんて信じられない。
というか、自殺未遂したような気がしない。
「レベッカ。いろいろ聞いて悪いんだけれど、わたしってどうして自殺未遂したのかしら? なにか言ってなかった? 自殺をほのめかしたり、自殺したくなるようなことを嘆いていたり絶望したりしたのかしら?」
尋ねながら、バルコニーの真下から遠くへと視線を転じた。
この屋敷は丘の上に建っているようで、遠くに小麦畑が広がっている。それがまた陽光を受け、キラキラ光っているのが素敵である。
「レベッカ?」
振り返った。さきほどから彼女がずっと黙っているからである。
彼女は寝台を整える手を止め、そばかすだらけのキュートな顔に困ったような表情を浮かべ、こちらを見ている。
「それが、わからないのです」
レベッカは、モジモジしながら言った。
「奥様が、バルコニーの真下で頭から血を流して倒れているということしか。そのガラス扉は、開いたままでした。奥様は、いつもの恰好でした。ですから、『衝動的にバルコニーから飛び降りたのだろう』ということになったのです」
「いつもの恰好?」
そこにこだわらなくていいのかもしれないけれど、とりあえずレベッカから確実に情報を得られるであろう疑問から片付けることにした。
「はい。奥様は、領地内をまわる際は馬でまわっています。ですから、日中はたいていシャツにズボン。気温によっては、ジャケットを羽織るという軽装なのです。もしくは、乗馬服です」
「なるほど。わたしって性格が悪いだけでなく、おしゃれに無関心なわけね。はやい話が、レディっぽさより男性っぽさの方が勝っているわけね」
頷いた。
そういうところは、なんとなくわかるような気がする。
いまもレディが着用する夜着ではなく、男性用の夜着を着用しているから。
おそらく、一般的なレディが着用する衣服は好まなかったのだろう。
「衝動的に自殺しようとし、バルコニーから飛び降りた、ね」
もう一度丘の下に広がる銀色の絨毯をサッと見まわし、それに背を向け寝室に入った。
寝室内をウロウロと歩きまわりながら、これからどうしようかと考えていると、レベッカに言われた。
「そうか。わたしってバルコニーから落ちて頭を打ったのよね? というか、二階から落ちたってことよね? しかも、頭から?」
事故、というよりか自殺未遂らしい内容に、あらためて愕然とした。
「って、わたしってどれだけ石頭なの? 地面に頭から落ちて記憶を失ったくらいですんだのだから。よほど運がよかったのね」
開けっぱなしのガラス扉からバルコニーへ出た。
陽光のあまりのまぶしさに目が眩んだ。
両手をかざし、陽光のキラキラに慣れるまで待った。
すぐに慣れたので、手すりから下をのぞいてみた。
「というか、死ななくてほんとうによかったわ」
おもわず、そうつぶやいてしまった。
当然のことながら、真下はかたい土の地面。砂利を敷き詰めていたり岩だらけというわけではない。しかし、芝生や草がボーボーに生えていたり、やわらかい土でクッション性にとんでいるわけでもない。
(頭から落下し、地面に頭を打ちつけて記憶を失ったくらいですむのかしら?)
たしかに、右のこめかみの上あたりから頭髪にかけてバックリ割れている。それは、ドナルドソン公爵家のかかりつけ医が縫ってくれた。まだ鏡を見ていないけれど、右反面は凄まじい色合いに彩られているに違いない。
これくらいですんだことは、ほんとうに幸運だったと思わざるを得ない。
死ななかったことに感謝しなければならない。
「だけど、自殺未遂よね? それなら、死ぬことができなかったことはラッキーじゃないわよね?」
またつぶやいていた。
自分の名前さえわからないけれど、わたしが自殺未遂したなんて信じられない。
というか、自殺未遂したような気がしない。
「レベッカ。いろいろ聞いて悪いんだけれど、わたしってどうして自殺未遂したのかしら? なにか言ってなかった? 自殺をほのめかしたり、自殺したくなるようなことを嘆いていたり絶望したりしたのかしら?」
尋ねながら、バルコニーの真下から遠くへと視線を転じた。
この屋敷は丘の上に建っているようで、遠くに小麦畑が広がっている。それがまた陽光を受け、キラキラ光っているのが素敵である。
「レベッカ?」
振り返った。さきほどから彼女がずっと黙っているからである。
彼女は寝台を整える手を止め、そばかすだらけのキュートな顔に困ったような表情を浮かべ、こちらを見ている。
「それが、わからないのです」
レベッカは、モジモジしながら言った。
「奥様が、バルコニーの真下で頭から血を流して倒れているということしか。そのガラス扉は、開いたままでした。奥様は、いつもの恰好でした。ですから、『衝動的にバルコニーから飛び降りたのだろう』ということになったのです」
「いつもの恰好?」
そこにこだわらなくていいのかもしれないけれど、とりあえずレベッカから確実に情報を得られるであろう疑問から片付けることにした。
「はい。奥様は、領地内をまわる際は馬でまわっています。ですから、日中はたいていシャツにズボン。気温によっては、ジャケットを羽織るという軽装なのです。もしくは、乗馬服です」
「なるほど。わたしって性格が悪いだけでなく、おしゃれに無関心なわけね。はやい話が、レディっぽさより男性っぽさの方が勝っているわけね」
頷いた。
そういうところは、なんとなくわかるような気がする。
いまもレディが着用する夜着ではなく、男性用の夜着を着用しているから。
おそらく、一般的なレディが着用する衣服は好まなかったのだろう。
「衝動的に自殺しようとし、バルコニーから飛び降りた、ね」
もう一度丘の下に広がる銀色の絨毯をサッと見まわし、それに背を向け寝室に入った。
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