「陛下、子種を要求します!」~陛下に離縁され追放される七日の間にかなえたい、わたしのたったひとつの願い事。その五年後……~

ぽんた

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 レイクウッドの町は、その名の通りレイクウッド湖の近くにある小さな町である。森と湖は、どの季節でも美しく穏やかで、物見遊山に訪れる人も多い。近くには街道があり、宿泊や休憩のために多くの旅人が訪れる。

 そんな小さな町にある「満腹亭」は、昼夜を問わず大繁盛している。

 夜は、二軒ある宿屋の宿泊客が多い。もちろん地元の人もいるけれど、旅人の方が多くやってくる。

 回転率ははやい。というのも、「満腹亭」では食前酒程度にしかお酒を提供していないからである。しかも、そのお酒も葡萄酒のみ。というわけで、ほとんどのお客さんが食べ終るとすぐに帰る。男性客がほとんどなので、食べるのもはやい。だから、回転率がいいわけである。

「やあ、マコ」
「こんばんは、司祭様」

 いつものように司祭のユージーン・マクラウドがやってきた。

 彼は、昔王都の大教会にいたことがあるらしい。そして、この小さな町の小さな教会にやってきてからは、日々の務めだけでなく子どもたちのための学校や診療所を運営している。

「いつものでいいでいいですか?」

 店内は暗めである。

 彼がいつもの席へ向かったタイミングで、いつもとは違うことに気がついた。

 めずらしく連れがいるのだ。

 その連れの男性が、かなりカッコいいことが淡い光の中でもわかった。

 外見だけではない。オーラというか雰囲気が違っている。

 書物の表現でいうところの「異彩を放っている」、といったところか。

 ちなみに、わたしの唯一の楽しみが教会の図書室で借りる書物を読むことである。

 
「ええ、マコ。彼にも同じものをお願いするよ」
「はい」

 司祭様と青年がいつものテーブル席に座るのを見届けてから、厨房に行った。

 一杯の葡萄酒と夜の定食とその日のデザート。司祭様の定番である。

 ふたり分をテーブルに運ぶと、彼らは静かに食事をはじめた。

 司祭様はともかく、彼の連れの青年は見た目はカッコいいけれど上品すぎるわけではない。とにかく、一心不乱に料理を口に運んでいる。じつに美味しそうに食べているのだ。それから、楽しそうでもある。

 食事中、ふたりはいっさい会話をせず、黙々と食べていた。まるで食事に集中しているかのように。
 とはいえ、ふたりともまるで面白い話で盛り上がっているかのような雰囲気を醸し出している。そして、青年の食べっぷりはすがすがしいほどだ。

「マコ、定食を頼むよ。マコ?」

 お客さんの声が入ってこないほど、青年の食べっぷりに見惚れていた。

(だけど、なんだか奇妙ね)

 その青年の食べっぷり以外に感じるものがあった。

 違和感、である。その違和感の正体はわからない。とにかく、なにかを感じる。

「マコ、こっちは勘定だ。マコ、めずらしく若いのが来たからって露骨に見惚れちゃダメだ」
「そうだそうだ。見てくれのいいのはたいてい悪い奴だ。だまされたら大変だからな」
「ああ、ニックの言う通りだ。どこぞの若いのにだまされたって、おれの村の娘が泣いていたぞ」

 周囲の騒ぎでハッとした。

 その騒ぎに、司祭様と青年が不思議そうにこちらを見ている。

「ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんです」

 そんなつもりというのがどんなつもりなのか、自分でもよくわからない。とりあえず、そう口から出ていた。

「あ、あの……」

 そのとき、わたしに文句でも言いたいのか、青年がすばやく立ち上がった。だから、よけいに狼狽えてしまった。

「ほんとうにごめんなさい。お勘定をしなくては……」

 一歩うしろへさがると、うしろのテーブル席で食事をしているお客さんの肩にお尻があたった。

「ご、ごめんなさい」

 慌てて謝罪し、逃げるように厨房へとひっこんだ。

「マコ、どうしたんだ?」
「マコ、大丈夫?」

 何事かとジョーイとライラが近づいてきた。しかし、動揺と混乱がおさまりそうにない。というよりかドキドキがとまらず、それがひどくなっていく。

 あの青年をまともに見てしまった。彼が立ち上がったとき、目と目が合った。とはいえ、それも瞬き二、三度ほどのわずかな時間だったけれど。

「母さん、大丈夫?」

 お皿を拭いているケンが心配げに近づいてきた。

「あんなカッコいい若者を見れば、若いレディならだれだってときめくさ」
「なにを言ってるんだい、あんた。若くなくたってときめくよ」
「なんだって? おまえが? 相手にしてくれるものか。せいぜい掃除洗濯食事の面倒をみる母親がわりか、小間使いくらいにしかみてくれやしないさ」
「へー、そんなこといっていいのかねぇ。とにかく、マコ。店内のことはあたしがやるから、厨房のことをしておくれ」
「ライラ、ごめんなさい」
「母さん。あの人、今日学校でぼくらに剣を教えてくれたんだ。それから、戦争のことをきかせてくれたんだよ。司祭様の友人でしばらくいるみたいだよ。その間に、学校でいろいろ教えてくれるみたい」

 ケンが店内をのぞきこんでいった。

「そう」

 いまだドキドキおさまらない。だから、そうとしか答えようがなかった。


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