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閑話
閑話 「そのいきさつ」
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~side アラン
この長さは……大体5センチってとこか。
……で、こっちは、と。
「何をなさっているのですか?」
「うわっ!?
……って、ジュリオか、驚かせないでよ」
「これは失礼致しました」
恭しく頭を下げるジュリオ。
集中していたからジュリオが来たことが全然わからなかった。
「で、何をなさっていたのですか?」
ジュリオは頭をあげて俺の手元を覗き込む。
俺は手元の手作りの定規を見せて言う。
「ああ、ちょっとこれの長さを測っていたんだよ」
「……長さ、ですか? この目盛りは?」
「目盛りひとつが1センチメートル、かな。
これは目盛りが30個だから、この定規1本で30センチメートルだよ」
「長さの基準といえば、ダオスタではガットやワールを用いていますが、それとは違うのですか?」
「うーん、だってあれ使いづらいでしょ?」
だって、ガットの10分の1が1ワールかと思いきや、大体7ワール半くらいが1ガットなのだ。
そもそも、ガットもワールも基準にしているものが違うらしく、全然共通性がない。
でも、町ではある程度大きいものにはガットを、それ以下のものにはワールを使っている。
例えば、1ワールの布を10ワール分買うとする。
普通ならば10ワール分の料金を払えばいいだけのはずだが、何故か1ガットを超えるものには問答無用でガット単位が適用されるのだ。
だから、布なんかの長さを基準に扱う店では同じものなのに1ワールの値段と1ガットの値段を設定する。
あまり真っ当でない商人なんかは1ワールの安い値段で客を呼び込み、1ガットの値段を跳ね上げて売りつけたりするらしい。
この国では、暗算は一つの技能で、商人や役所などの人でしか習得していない。普通の人は割高だろうがなんだろうがその場ですぐに計算なんてできないのだ。
「センチメートル、ですか。アラン様の口調ですと、これはガットやワールよりも使いやすいということですが?」
「うん、それは――」
その後、ジュリオの質問に丁寧に答えていく俺だったが、次第に鋭く、何か狙っているような目になっていくジュリオに気づくことはなかった。
「……なるほど、非常に合理的に作られている単位なのですね」
「うん、だと思うよ」
「では、このメートル法をレイナル領の長さの単位基準として制定いたしましょう」
「……は?」
ジュリオさん、何を仰っているんでしょうか?
「この定規はお借りしてもよろしいでしょうか? こちらを基準とさせていただきたいと存じます」
そう言って俺の手製の定規を手に取るジュリオ。
……って、ちょっと待って!
「いやいやいや、ダメだから! もっとちゃんとしたものが必要だから! 単位ってそんな簡単なものじゃないでしょ!?」
「……私が以前行商人をして訪れた村では、秋の祭りの日に村一番の力持ちが持ち上げることのできた岩の重さを基準にしたり、別の村では長さの基準をその村で最年長の女性の髪の毛の長さを基準にしたりしておりました。単位というものはそれほどに曖昧なものでございます。
ですので、たとえアラン様が適当に作ったといわれるこの定規を基準とすることに、何の問題もございません」
「いやいや、問題あるからね!? 主に俺の精神的に!」
「大丈夫です。問題ございません」
やばい、ジュリオが本気だ。
「だ、だったらせめて明日の朝まで待ってて! もっと基準にいいものを見つけておくから!」
その場しのぎでも何でも、俺はそんなことを口走っていた。
ジュリオはそんな俺をジッと見て、視線を移して今度は定規を真顔でジッと見つめる。
「……畏まりました。
……ですが、やはり」
「見つけておくから、ね。だからその定規は返してもらえるかな?」
ジュリオを刺激しないように慎重に手を伸ばして、無理やりジュリオの手から定規を奪い取る。
ジュリオは本気だった。
昔、何気なく言った言葉がそのまま本当に山の名前にされてしまったように、ジュリオはやると言ったらやる。間違いない。
なんとかジュリオを納得させてこの場を切り抜ける俺だったが、……さて、単位の基準となるものか。
助けて! ミミえもーん!
「……ふんふん、なるほど。
要するに、長さの絶対的な基準が欲しいのね?」
コクコクと頷く俺。
「で、1メートルっていうのは、このくらいの長さなのね?」
一時間かけて大体の1メートルを紙で書き出したそれを見るミミ様。
またも頷く俺。
「じゃあ、これを使ったらどうかしら?」
「ちょっ!?」
ミミ様はそう言って徐に鋏を持つ。そしてチョキンッ! と自分の髪の毛を切り落とした。
「はい」
ミミ様に手渡されたのは小指程の太さの髪の毛の束。
「長さはそろっているはずよ」
翌朝、長さの基準だと言って手渡したそれを見て大騒ぎになるレイナル城。
絶対基準には神様の髪の毛という最高のものを得た。しかしそれを巡っての騒動はしばらく治まることがなかったのだった。
その後、ミミ様の髪の毛を元に原器が作成され、ミミ様の髪の毛は厳重に保管。レイナル城の金庫の中にしまわれることになった。
この長さは……大体5センチってとこか。
……で、こっちは、と。
「何をなさっているのですか?」
「うわっ!?
……って、ジュリオか、驚かせないでよ」
「これは失礼致しました」
恭しく頭を下げるジュリオ。
集中していたからジュリオが来たことが全然わからなかった。
「で、何をなさっていたのですか?」
ジュリオは頭をあげて俺の手元を覗き込む。
俺は手元の手作りの定規を見せて言う。
「ああ、ちょっとこれの長さを測っていたんだよ」
「……長さ、ですか? この目盛りは?」
「目盛りひとつが1センチメートル、かな。
これは目盛りが30個だから、この定規1本で30センチメートルだよ」
「長さの基準といえば、ダオスタではガットやワールを用いていますが、それとは違うのですか?」
「うーん、だってあれ使いづらいでしょ?」
だって、ガットの10分の1が1ワールかと思いきや、大体7ワール半くらいが1ガットなのだ。
そもそも、ガットもワールも基準にしているものが違うらしく、全然共通性がない。
でも、町ではある程度大きいものにはガットを、それ以下のものにはワールを使っている。
例えば、1ワールの布を10ワール分買うとする。
普通ならば10ワール分の料金を払えばいいだけのはずだが、何故か1ガットを超えるものには問答無用でガット単位が適用されるのだ。
だから、布なんかの長さを基準に扱う店では同じものなのに1ワールの値段と1ガットの値段を設定する。
あまり真っ当でない商人なんかは1ワールの安い値段で客を呼び込み、1ガットの値段を跳ね上げて売りつけたりするらしい。
この国では、暗算は一つの技能で、商人や役所などの人でしか習得していない。普通の人は割高だろうがなんだろうがその場ですぐに計算なんてできないのだ。
「センチメートル、ですか。アラン様の口調ですと、これはガットやワールよりも使いやすいということですが?」
「うん、それは――」
その後、ジュリオの質問に丁寧に答えていく俺だったが、次第に鋭く、何か狙っているような目になっていくジュリオに気づくことはなかった。
「……なるほど、非常に合理的に作られている単位なのですね」
「うん、だと思うよ」
「では、このメートル法をレイナル領の長さの単位基準として制定いたしましょう」
「……は?」
ジュリオさん、何を仰っているんでしょうか?
「この定規はお借りしてもよろしいでしょうか? こちらを基準とさせていただきたいと存じます」
そう言って俺の手製の定規を手に取るジュリオ。
……って、ちょっと待って!
「いやいやいや、ダメだから! もっとちゃんとしたものが必要だから! 単位ってそんな簡単なものじゃないでしょ!?」
「……私が以前行商人をして訪れた村では、秋の祭りの日に村一番の力持ちが持ち上げることのできた岩の重さを基準にしたり、別の村では長さの基準をその村で最年長の女性の髪の毛の長さを基準にしたりしておりました。単位というものはそれほどに曖昧なものでございます。
ですので、たとえアラン様が適当に作ったといわれるこの定規を基準とすることに、何の問題もございません」
「いやいや、問題あるからね!? 主に俺の精神的に!」
「大丈夫です。問題ございません」
やばい、ジュリオが本気だ。
「だ、だったらせめて明日の朝まで待ってて! もっと基準にいいものを見つけておくから!」
その場しのぎでも何でも、俺はそんなことを口走っていた。
ジュリオはそんな俺をジッと見て、視線を移して今度は定規を真顔でジッと見つめる。
「……畏まりました。
……ですが、やはり」
「見つけておくから、ね。だからその定規は返してもらえるかな?」
ジュリオを刺激しないように慎重に手を伸ばして、無理やりジュリオの手から定規を奪い取る。
ジュリオは本気だった。
昔、何気なく言った言葉がそのまま本当に山の名前にされてしまったように、ジュリオはやると言ったらやる。間違いない。
なんとかジュリオを納得させてこの場を切り抜ける俺だったが、……さて、単位の基準となるものか。
助けて! ミミえもーん!
「……ふんふん、なるほど。
要するに、長さの絶対的な基準が欲しいのね?」
コクコクと頷く俺。
「で、1メートルっていうのは、このくらいの長さなのね?」
一時間かけて大体の1メートルを紙で書き出したそれを見るミミ様。
またも頷く俺。
「じゃあ、これを使ったらどうかしら?」
「ちょっ!?」
ミミ様はそう言って徐に鋏を持つ。そしてチョキンッ! と自分の髪の毛を切り落とした。
「はい」
ミミ様に手渡されたのは小指程の太さの髪の毛の束。
「長さはそろっているはずよ」
翌朝、長さの基準だと言って手渡したそれを見て大騒ぎになるレイナル城。
絶対基準には神様の髪の毛という最高のものを得た。しかしそれを巡っての騒動はしばらく治まることがなかったのだった。
その後、ミミ様の髪の毛を元に原器が作成され、ミミ様の髪の毛は厳重に保管。レイナル城の金庫の中にしまわれることになった。
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