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43.また、ファンと推しに戻りましょう。
しおりを挟む藍月くんの家を飛び出したあと、何をするでもなく、街を無駄に歩き回ったりして、日が暮れて疲れたなと感じて、やっと家に戻った。
藍月くんの家を出たのは昼前だったから随分と時間を無駄にしてしまった。本当なら、動画を見たり、CDを聞いたりして過ごすつもりだった。
けれど、それらはすべて藍月くんを思い起こさせるものばかりで、動揺したままの状態で行う気にはならなかった。
「お腹減った…」
家には食べられそうなものは、食パンくらいしかなかった。それでも無いよりはマシだろう。適当にトースターで焼いて食べ始める。一口食べると、忘れていた食欲が戻ってきたようで、がっつくように食べすすめた。
食欲が満たされて、少しは考えられるようになった頭で、これからのことを考える。
…藍月くんのことは好きだ…。だからといって、応えられるかと言われれば、答えはNOだろう。あー…神谷さんにも言ったほうがいいのかな…?いや、藍月くんが言うかな…。
そういえば、撮影の報酬、藍月くんから受け取ってくれって言われてたな…。まぁ…報酬は貰えなくてもいい。
俺が藍月くんに会わない決断をするのは早かった。おそらく藍月くんも忙しいし、俺に会いに来る余裕などないと思う。
俺の方から行かなければ、会わなくても済むだろう。距離をおいたらきっと藍月くんだって気のせいだったって気付いてくれる。
あんなに格好良くて、あんなにキラキラしてて、性格まで良い藍月くんみたいな子が俺の事好きになるなんて、可笑しいもんな。
藍月くんが、俺を揶揄ったり、弄んだりするために、冗談で告白したのではないとわかっていた。真剣に言ってくれているとわかった上で、それでも、怖かった。
ファンの立場でありながら、藍月くんを奪ってしまうことが。藍月くんが好きだと勘違いしているだけかもしれない。そんな考えが頭から消えない。
(藍月:リンさん、ちゃんと会って話したいです。時間貰えませんか?)
(臨也:ごめん、暫くは忙しくなりそうで時間取れない。)
(藍月:わかりました…時間あるときまた連絡くれると嬉しいです。また連絡します。)
忙しくなる、なんて嘘だった。本当は会いたくてたまらない。自分の頬に流れる涙を無視して、藍月くんに断りの言葉を返した。
ごめん…藍月くん…。
自分の選択が正しかったのかわからない。そもそも最初から間違っていた気もする。藍月くんが会いたいと言ってくれて、プライベートで会ってしまった時から…ずっと俺は間違っていた。
それでもずるずると関係を引き伸ばしたのは、自分の為だ。藍月くんに会いたくて、藍月くんも会いたいと言ってくれて…だから…
言い訳にもならない…。こんな事になる前に、関係を断っておくべきだったのに。
ファンとアイドルというには、近づきすぎてしまった距離をまた適切な距離にするだけ…。
それがこんなにも辛くなるなんてな…。自業自得だな…。
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