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しおりを挟むレイラは刺繍の課題を出されたと言って、部屋でコツコツとハンカチに刺繍を施していた。その際コツを聞かれたので、説明しながら私も1枚ハンカチを仕上げた。うん、腕は落ちてないわね。
「凄く綺麗です!これ、お借りしても良いですか?」
「ええ、構わないけれど…何に使うの?」
「見本にしたいと思って。」
「そんなに細かく刺繍した訳じゃないから、参考になるかしら?」
「はい!こんなに綺麗な刺繍出来るなんて…ウェンディ様は凄いですね!」
「ふふっそんなに褒められると照れるわね。でも、気に入ってくれたならそのハンカチ、貰ってくれると嬉しいわ。」
「いいんですか?ありがとうございます!大事にしますね。」
「ええ、ならもう少し手を加えるわ。」
今入れてある刺繍は、簡単な花柄で隅を囲っただけのシンプルなものだ。そこにレイラの名前と一つの薔薇を追加する。うん、華やかになったし、悪くないわね。デザインのセンスについてはそんなに自信がある訳ではないけれど、人気の絵柄のテンプレートだから大丈夫なはず。パチンと糸を切って処理する。
「完成ですか?」
「ええ、どうかしら?名前も入れておいたわ。」
「素敵です!とても嬉しいです、ありがとうございますウェンディ様。」
「ふふっこれくらいならいつでも刺繍するわ。」
「はい、またお願いします。」
レイラはクラスの空きの時間にもハンカチに刺繍していた。私はそれを横目に言語学の課題と向き合う。んー、この単語の訳はこれで合ってるかしら?意味的にはこちらの意味で取ったほうが…難しい…。
「むぅ…レイラ、邪魔して悪いのだけれど、この単語の訳について教えてくれるかしら?」
「ええ、勿論。そうですね、これはこの訳でいいと思います。見分けるポイントはここです。この文脈から…~~と考えると、こうなるんです。」
「ふむ、なるほど…。難しいわね。」
「繰り返してやれば覚えられる筈です。」
「ええ、頑張るわ。」
「私も聞いていいですか?ここのデザインなんですが、こうですか?」
「そこは…こうよ!」
「……こうですか?」
「??違うわ。こうよ。」
「ああ!こうですね!」
「そうそう!」
私達はお互いに教え合いながら、それぞれの課題に取り組む。そんな私達に一人の男子生徒が近付いてくる。黒髪眼鏡で、口元には笑みを称えている。なんとなく胡散臭い…。レイラが机に置いて見本にしているハンカチを手で示した。
「これは、どなたが作られたものですか?」
「え?ええと、これはウェンディ様が…」
「僕はこれと同じ作り手の商品を扱ったことがあります。あれは…素晴らしい商品でした。僕はその作り手を探していた。」
「それ、私だけれど…何かあるのかしら?」
「貴女が…。ええ、僕は商人ですから。良い商品、良い作り手との繋がりは大切なんです。」
「そう…なのね?それを作ったウェンディ・ポーティスよ。」
「これは自己紹介もせずに失礼しました。僕はカレルです。エーガー商会の商人をしています。」
「それで…商人さんがなんの用かしら?」
「…僕に…僕に貴女の作品を売らせて頂けませんか?」
「私が作った物を?」
「はい、貴女の作った物は素晴らしい。僕が、売りたいと思いました。」
「ええと…それは…」
「貴女の作った物を定期的に卸していただきたい。貴女の利益は約束します。材料もこちらで用意します。」
「それは…有り難い話だけれど…私の刺繍や編み物をそこまで評価してくれるの?」
「はい、それはもちろん。どうか、よろしくお願いします。条件はそちらに寄り添わせて頂きます。」
「ありがとう…?」
それから翌日にはカレルは契約書を用意してきた。思っていたよりずっと本気だったらしい。それにとても好条件での契約で…破格の報酬。だ、騙されているのかしら?
「1度持ち帰って相談してみるわ…。」
「はい、いい返事を期待しています。」
にっこりと良い笑顔でそんなことを言われたけれど、どことなく胡散臭いのよね…。商人ってそういうものなのかしら…?
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