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12話
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夕暮れ。窓から差し込む橙色の光が、書斎の机に静かに落ちる。
エルナは一日の片付けを終え、静かに本棚の前に立っていた。
(……わたし、本当に変われるのだろうか)
ふと、幼い頃の記憶が蘇る。
父に叱られた日、婚約者に冷たくされた日、そして侍女が去った夜のこと——。
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
窓の外に目を向けると、庭の木々が夕日に染まって揺れている。
あの頃、誰も自分の気持ちを見てくれなかった。
でも今——
「エルナ様」
ふいに声がして振り返ると、レオンが扉の向こうに立っていた。
手には小さなランプ。夕暮れの光が、彼の横顔を柔らかく照らす。
「……レオン」
「……読書中でしたか?」
「ええ……ちょっと、思い出してしまって」
言葉を濁すエルナに、彼は静かに歩み寄る。
「思い出すことがあっても構いません。ここでは……」
言葉を切ったが、その視線に温かさが宿っていた。
レオンはランプを机の上に置き、少し距離を保ちながら静かに言う。
「……私は、あなたがここにいるだけで嬉しいです」
その言葉に、エルナの胸がじんわりと温かくなる。
触れない距離で立っているだけで、孤独が少し溶けていくようだった。
「……ありがとう、レオン」
小さく頷く。涙は出ないけれど、胸の奥にぽっと灯りがともる。
過去の傷は消えないけれど、この場所にいることで、少しずつ癒される気がした。
沈黙の中、レオンはそっと視線を下げる。
でも、その視線はエルナの手元まで静かに届いていた。
「……夜になったら、少し庭に出ますか?」
「庭……ですか?」
「夕暮れから夜にかけての空気は、落ち着きます。もしよろしければ、二人で」
提案は淡々としているのに、心の奥で小さな期待が芽生える。
エルナはそっと笑みを浮かべる。
「……はい、行きましょう」
その笑顔に、レオンの肩がわずかに緩む。
触れずに近くにいるだけで、互いの距離が少し縮まった夜だった——。
夜が少しずつ深まる頃、エルナはレオンと共に庭へ出た。
静かな風が木々を揺らし、遠くで夜鳥の声が響く。
「……空が、きれいですね」
橙色から深い藍色に変わる空を見上げると、自然と息が整う。
レオンは少し距離を置いて横に立つ。
「ええ、ここからの眺めは、誰にも邪魔されません」
その言葉に、エルナは小さく頷いた。
誰かに監視されることも、責められることもない。
ただ、静かに流れる時間——それだけで心が落ち着く。
沈黙の中、エルナはふと口を開いた。
「……わたし、ずっと一人でいることに慣れていました」
かつての家では、愛されることも、褒められることもなかった。
だから、自分の気持ちを押し殺すことに慣れていた。
レオンは静かに頷く。
「……私も、です。長い間、誰にも頼らず、誰にも触れられずに生きてきました」
その言葉に、エルナは胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
同じ孤独を知っている人が、目の前にいる——その事実だけで、心が少し軽くなる。
風に揺れる葉の影の中で、レオンはそっと手を差し伸べた。
「……もしよろしければ、今夜だけ、小さな秘密を一つ教えてください」
「秘密……?」
「あなたの、誰にも話したことのないことです」
それは強制でも命令でもなく、ただのお願いのように聞こえた。
エルナは迷った後、ゆっくりと答える。
「……子供の頃、夜になると誰かに抱きしめてもらいたくて、眠れないことがありました」
小さな声で吐き出す。恥ずかしさと切なさが混じる記憶。
するとレオンは、少し驚いたように目を見開いた。
「……そうだったのですか」
そして、静かに笑む。
「……私も、同じでした。夜は、誰かの存在を感じたくて、たまらなかった」
二人の視線がすれ違う。触れることはしないけれど、心の距離は確かに近づいた。
深い藍色の夜空の下、風が柔らかく二人を包む。
互いの孤独を知り、少しだけ打ち解けた夜。
「……今日は、少し勇気を出してよかったです」
エルナが微笑むと、レオンの肩がわずかに緩む。
「私もです。……あなたとなら、もう少し、この静かな夜を楽しめそうです」
庭の片隅、遠くに灯る屋敷の明かりを見ながら、
二人は初めて、互いの心に寄り添った夜を過ごした——。
エルナは一日の片付けを終え、静かに本棚の前に立っていた。
(……わたし、本当に変われるのだろうか)
ふと、幼い頃の記憶が蘇る。
父に叱られた日、婚約者に冷たくされた日、そして侍女が去った夜のこと——。
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
窓の外に目を向けると、庭の木々が夕日に染まって揺れている。
あの頃、誰も自分の気持ちを見てくれなかった。
でも今——
「エルナ様」
ふいに声がして振り返ると、レオンが扉の向こうに立っていた。
手には小さなランプ。夕暮れの光が、彼の横顔を柔らかく照らす。
「……レオン」
「……読書中でしたか?」
「ええ……ちょっと、思い出してしまって」
言葉を濁すエルナに、彼は静かに歩み寄る。
「思い出すことがあっても構いません。ここでは……」
言葉を切ったが、その視線に温かさが宿っていた。
レオンはランプを机の上に置き、少し距離を保ちながら静かに言う。
「……私は、あなたがここにいるだけで嬉しいです」
その言葉に、エルナの胸がじんわりと温かくなる。
触れない距離で立っているだけで、孤独が少し溶けていくようだった。
「……ありがとう、レオン」
小さく頷く。涙は出ないけれど、胸の奥にぽっと灯りがともる。
過去の傷は消えないけれど、この場所にいることで、少しずつ癒される気がした。
沈黙の中、レオンはそっと視線を下げる。
でも、その視線はエルナの手元まで静かに届いていた。
「……夜になったら、少し庭に出ますか?」
「庭……ですか?」
「夕暮れから夜にかけての空気は、落ち着きます。もしよろしければ、二人で」
提案は淡々としているのに、心の奥で小さな期待が芽生える。
エルナはそっと笑みを浮かべる。
「……はい、行きましょう」
その笑顔に、レオンの肩がわずかに緩む。
触れずに近くにいるだけで、互いの距離が少し縮まった夜だった——。
夜が少しずつ深まる頃、エルナはレオンと共に庭へ出た。
静かな風が木々を揺らし、遠くで夜鳥の声が響く。
「……空が、きれいですね」
橙色から深い藍色に変わる空を見上げると、自然と息が整う。
レオンは少し距離を置いて横に立つ。
「ええ、ここからの眺めは、誰にも邪魔されません」
その言葉に、エルナは小さく頷いた。
誰かに監視されることも、責められることもない。
ただ、静かに流れる時間——それだけで心が落ち着く。
沈黙の中、エルナはふと口を開いた。
「……わたし、ずっと一人でいることに慣れていました」
かつての家では、愛されることも、褒められることもなかった。
だから、自分の気持ちを押し殺すことに慣れていた。
レオンは静かに頷く。
「……私も、です。長い間、誰にも頼らず、誰にも触れられずに生きてきました」
その言葉に、エルナは胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
同じ孤独を知っている人が、目の前にいる——その事実だけで、心が少し軽くなる。
風に揺れる葉の影の中で、レオンはそっと手を差し伸べた。
「……もしよろしければ、今夜だけ、小さな秘密を一つ教えてください」
「秘密……?」
「あなたの、誰にも話したことのないことです」
それは強制でも命令でもなく、ただのお願いのように聞こえた。
エルナは迷った後、ゆっくりと答える。
「……子供の頃、夜になると誰かに抱きしめてもらいたくて、眠れないことがありました」
小さな声で吐き出す。恥ずかしさと切なさが混じる記憶。
するとレオンは、少し驚いたように目を見開いた。
「……そうだったのですか」
そして、静かに笑む。
「……私も、同じでした。夜は、誰かの存在を感じたくて、たまらなかった」
二人の視線がすれ違う。触れることはしないけれど、心の距離は確かに近づいた。
深い藍色の夜空の下、風が柔らかく二人を包む。
互いの孤独を知り、少しだけ打ち解けた夜。
「……今日は、少し勇気を出してよかったです」
エルナが微笑むと、レオンの肩がわずかに緩む。
「私もです。……あなたとなら、もう少し、この静かな夜を楽しめそうです」
庭の片隅、遠くに灯る屋敷の明かりを見ながら、
二人は初めて、互いの心に寄り添った夜を過ごした——。
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