誰も愛してくれないと言ったのは、あなたでしょう?〜冷徹家臣と偽りの妻契約〜

山田空

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13話

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 朝の光が窓から差し込む。
 レオンの屋敷は、静かで落ち着いた香りに包まれていた。

「おはようございます、エルナ様」

 リビングに入ると、いつものようにレオンが立っていた。
 朝食の準備は、昨夜と同じくシンプルだが、丁寧に整えられている。

「おはようございます、レオン」

 エルナは少し緊張しながらも、微笑む。
 まだ契約の関係だと頭ではわかっているのに、自然と胸が温かくなる。

 朝食を前に、二人は静かに座る。
 互いに干渉しない契約だが、少しずつ生活の中で距離を探る。

「……昨日の庭、きれいでしたね」

「ええ、静かで……落ち着きました」

 エルナの言葉に、レオンは軽く頷く。

「庭に出るのは久しぶりだったのです。……誰かと一緒に歩くのも」

 互いに言葉少なに、しかし確かに通じるものがある。
 触れ合わずとも、距離感が自然と縮まる瞬間。

 朝食を済ませると、レオンは書類に目を通し、エルナは部屋で身支度を整える。
 別々の生活空間を守る契約だが、互いの存在を感じることで、安心感も生まれる。

「エルナ様、必要であれば、今日の予定も調整します」

 レオンは淡々と告げるが、その声には配慮が滲む。
 エルナは少し戸惑いながらも、心の奥で嬉しさを感じていた。

「……ありがとう。今日は庭の手入れを少ししてみたいです」

 小さな願いを言うと、レオンは静かに微笑む。

「承知しました。手伝いが必要なら、遠慮なく言ってください」

 契約は干渉しない約束だが、互いを思いやる心は自然に生まれていた。

 窓の外には光が差し込み、庭の木々が揺れる。
 レオンの屋敷で過ごす、初めての落ち着いた朝。

 静かに流れる時間の中で、エルナは少しずつ気づく。

(ここなら、少しずつ自分の気持ちを、出してもいいのかもしれない)

昼下がりの光が窓から差し込む中、エルナはリビングの椅子に座り、静かに紅茶を口に運んでいた。

外の庭では小鳥のさえずりが聞こえ、屋敷にはいつも通りの穏やかな空気が流れている。
けれど、その静けさは——ほんの一瞬で破られた。

「エルナ!」

力強い声。胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
振り返ると、そこには見慣れたはずの父の姿があった。

「娘よ、今すぐ帰るのだ! 契約など、無意味だ!」

声の迫力に、エルナは思わず立ち上がる。
しかし心の奥では、もう戻りたくないという気持ちが、強く芽生えていた。

「……父さま……」
言葉が震える。
それでも、声を震わせて続けた。

「わたしは、もう帰れません……」

父の目がさらに険しくなる。
「何を言う! 君の居場所はあの屋敷だ! 契約がどうとか関係ない!」

その瞬間、エルナの前に、レオンが立っていた。

「——動くな、エルナ様」

冷静で、けれど断固とした声。
その表情に、父さえも一瞬、言葉を止めた。

「レオン……?」
胸が高鳴る。彼の背中に、確かな安心感があった。

「父上、やめてください。彼女の意思を尊重するべきです」
言葉の重みが、静かに室内を支配する。

父は眉をひそめた。
「貴様……一体何者だ……!?」

レオンは微動だにせず、視線を逸らさずに答える。
「私は、彼女を守る者です。ここは、彼女が選んだ場所です」

空気が一瞬、張り詰める。
エルナは思わずレオンの腕の内側に小さく手を添えた。
(……わたしを、守ってくれる……)

父が怒声を上げ、手を伸ばす。
しかし、レオンは静かに、けれど確実に間に立った。

「触れるなら、私を越えてからにしてください」

その言葉に、父の動きが止まる。
レオンの目は鋭く光り、しかしどこか優しさも帯びている。
その冷たさと温かさが、父の強引さを押し返す力となった。

「エルナ様、離れないでください」
レオンの声は、低く、落ち着いている。
その声に、エルナは自然に頷いた。

「……はい」

父はしばらく沈黙した後、ゆっくりと息をついた。
「……そうか。そういう意思なら……無理強いはできぬか」

レオンは視線を外さず、静かに首を横に振った。
「ありがとうございます。ですが、彼女が選んだこの家を、守る責任はわたしにあります」

エルナは胸の奥が熱くなるのを感じた。
(——レオンが、わたしのために……ここで立ってくれている)

父はそれ以上は何も言わず、ため息をついて立ち去った。
その背中を見送ると、レオンは静かに手を差し伸べる。

「エルナ様、もう怖くありません。ここが、あなたの家です」

胸がじんと熱くなる。
エルナは迷わずその手を握り返した。

「はい……ありがとうございます、レオン」

二人の間に、言葉にしなくても伝わる信頼が生まれる。
そして屋敷には、再び柔らかく、安心できる時間が戻った。
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