誰も愛してくれないと言ったのは、あなたでしょう?〜冷徹家臣と偽りの妻契約〜

山田空

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49話

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​ルミナの教育機関の成功、特にロゼリア王国との国境紛争費削減効果と、貧困層への「自由の知識」提供は、王都の貴族たちの中でも、バルバロッサ公爵に反対する改革派の若手貴族たちの間で大きな支持を集め始めた。彼らは、ルミナの論理こそが、王国の硬直した財政と、国境問題の解決策だと見抜き始めたのだ。

​しかし、バルバロッサ公爵も黙っていなかった。彼は、ルミナの行動が、王国の**「身分制度」**という根幹を揺るがすと確信していた。

​公爵が次に仕掛けたのは、ルミナの教育機関が扱う**「技術」そのものの制限だった。公爵は、王家に対して、ルミナの学校で教える特定の高度な産業技術**(例えば、改良型紡績機や高効率製鉄法など)を、**「軍事転用可能」**であるとして、王室の管理下に置くよう進言した。

​これは、ルミナの教育機関から最も価値のある知識を奪い、単なる初級技術訓練所へと格下げしようとする、公爵の最終防衛線だった。

​レオンは、公爵の動きを察知し、強い危機感を抱いた。

​「ルミナ。公爵の動きは巧妙だ。王室が『軍事転用可能技術の管理』を口実とすれば、私たちが拒否することは、国家への反逆と見なされかねない」

​サイラスは、公爵の論理を分析した。

​「公爵は、知識を**『権力の道具』として独占したい。ルミナ様が持つ『共有の論理』は、公爵にとって、理解不能な『危険な思想』**です」

​ルミナは、この挑戦に対し、正面から「技術の非軍事利用」を主張するだけでは不十分だと悟った。公爵を打ち破るには、技術の真の価値を、王室と貴族院全体に認めさせる必要があった。

​「サイラス。あなたの冷徹な計算が、再び必要よ。私たちは、公爵が独占しようとしている技術が、軍事転用よりも遥かに大きな、**『平和的な富』**を生み出すことを証明するわ」

​ルミナは、サイラスと共に、彼らが開発した全ての高度技術について、**「軍事利用した場合の収益予測」と「民間利用した場合の経済効果予測」**を比較する、緻密な報告書の作成に取り掛かった。

​数週間後、ルミナは、王国の財政を管轄する諮問会議の場に招集された。バルバロッサ公爵が、ルミナの教育機関の技術を王室管理下に置く提案を最終的に採決させるための舞台だった。

​会議には、公爵の他、財政担当の重鎮貴族たちが集まっていた。

​バルバロッサ公爵は、冒頭でルミナを非難した。

​「ヴァイスハルト令嬢。貴殿の学校で教える高効率製鉄法は、最新鋭の武器を製造可能にする。これを王室の管理下に置くのは、国家の義務だ。貴殿は、知識を独占せず、国家に明け渡すべきではないか」

​ルミナは、公爵の「独占」という言葉を逆手に取った主張に対し、毅然として立ち向かった。

​「公爵様。私たちは、知識を独占したことはありません。そして、私は、貴殿の要求に従い、この技術の最も効率的な活用法を提案します」

​ルミナは、サイラスが作成した、二つの対照的なグラフを映し出した。

​「これが、私たちが開発した高効率製鉄法を、軍事転用した場合の収益と、民間転用した場合の経済成長効果の比較です」

​ルミナは、グラフを指さした。

​「軍事利用は、年間$3%$の収益を生み出すでしょう。しかし、民間利用、つまり農機具、輸送、そして建築に広く技術を開放した場合、王国全体の年間$20%$の経済成長を促し、税収は軍事利用の数十倍になります」

​ルミナの提示した論理は、シンプルかつ絶大だった。知識は、独占して武器を作るよりも、共有して平和な経済を作る方が、国家にとって圧倒的に大きな利益をもたらすという、**『平和の収益率』**の証明だった。

​「公爵様。真の王国の富は、武器の独占ではなく、国民全体の知識の共有にこそあります。技術を王室の管理下に置くことは、その最大$20%$の成長の機会を、自ら手放すことに他なりません」

​公爵は、ルミナの完璧な計算と、その裏にある経済学的な洞察に、息を呑んだ。彼は、ルミナが**「知識を独占したい貴族」ではなく、「知識を開放して国家の富を増やす経済学者」**として振る舞っていることに、初めて気づいた。

​諮問会議の貴族たちは、長年公爵の論理に支配されてきたが、$20%$の経済成長という数字は、彼らの利己心をも動かした。彼らは、公爵の提案よりも、ルミナの「平和の収益率」に魅力を感じた。

​採決の結果、ルミナの教育機関の技術は王室管理下に置かれることなく、**「王国の経済成長を担う最重要機関」**として、逆に王室からの保護を受けることとなった。

​ルミナは、力ではなく、純粋な**「知識の経済的価値」**によって、王国の中央権力構造を内側から変革させたのだった。彼女の教育機関は、もはや一つの領地の学校ではなく、王国の未来を設計する光の設計図となっていた。
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