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02 天道さんの一目惚れ 2
しおりを挟む――それは、高校二年に進級して少したった頃。終わりのホームルームでのことだった。
「それじゃあ、抜き打ち学力テストの結果をはり出すぞー」
先生がそう言って、巻物状にしていた大きな紙を教室の黒板に貼り付けていく。
そこに書かれているのは生徒の名前と学力テストの順位だ。
それを見たクラスメイト達の反応はまさに悲喜こもごも。がっくりとうなだれてたりガッツポーズしてたりと様々だ。
――この学校はそれなりの進学校だ。当然勉強に力を入れていて 時々だけど抜き打ちの学力テストが行われる。
範囲こそ狭いものの予告なく行われ、しかも結果がこうして皆に公表される。噂によると内申点にもけっこう影響するんだとか。
なので生徒達は中間や期末試験以外でも気が抜けず、常日頃からの勉強を強いられるというわけだ。
……ぶっちゃけて言うと、生徒には評判が悪い。抜き打ちで学力テストが行われるのもそうだけど、こうして点数や順位が公表されるのが嫌だということらしい。『いじめに繋がりかねない』と文句を言ってくる保護者もいるんだとか。
――けれど、僕はむしろこのシステムが好きだった。
順位表の一番右側には一位という順位と遠野一真――僕の名前が記されている。
「よし」と心の中でガッツポーズ。やっぱり何度取っても一位というのは嬉しい。
学生というのは生きやすい立場だと思う。
成績というわかりやすく、自分の努力でどうにでもできる評価基準がある。それさえとっておけば先生方からの覚えはいいし、この学校が進学校だっていうのもあって周りから一目置いてもらえる。
「おお。遠野また一位か」
右隣の席から黒木くんがそう声をかけてくる。
「遠野くんすごいよねー。だいたいいつも一位取ってるよね」
ついで左隣から白井さん。こうして周りからちやほやしてもらえるのも気分が良い。
この学力がなければ地味で口下手でスポーツも平均以下、ついでに言うと貧乏人な僕なんてあっという間にスクールカーストの下の方に沈んでしまっていただろう。
……それに。
チラリと順位表、そして僕のななめ前の方に座っている女子――天道ことみさんの方に目をやった。
(天道さんは二位か……)
天道さんも常に僕に次ぐ成績を維持している優等生だ。
しかもそれに慢心することなく、常に上を目指し続けている。今も自分の答案用紙を鋭い目で睨みながら間違えた箇所を見直している真っ最中だ。
そんな姿がかっこいいと思う。そして――”あの時”のことを思い出して、思わず胸がドキドキしてしまう。
他には何の接点もない僕と天道さんだけど、こうして成績で上に立ち続ければいつかは僕自身に意識を向けてくれるんじゃないか。心のどこかでそんな淡い期待をしていた。
――と。
「なんだまたお前、天道さんのこと見てるのか」
「遠野くんも好きだよねーホント」
「ふ、二人とも声大きい……!」
……どうも僕はわかりやすい方らしくて、この二人には僕が天道さんのことが好きなのがバレている。
「まあ、女の私から見ても天道さんって美少女だしね。黒木くん的にはどう? 天道さんみたいなタイプ」
「俺? んー俺的にはあんまり……。いや俺もかわいいとは思うんだけどな? 天道さんって冷たい感じというか、無愛想だろ? 俺はもっとこう、笑顔がかわいい子の方が好きなんだよ」
「……天道さん、笑うとめちゃくちゃかわいいよ」
僕が呟くようにそう言うと、黒木くんと白井さんは驚いた顔をした。
「お前、天道さんが笑ったとこ見たことあるの?」
「私、一年の時から同じクラスだけど一回も笑ったとこ見たことない……」
二人が驚くのも無理はない。僕も学校で天道さんが笑ったところは見たことない。
超が付くぐらいの優等生だし文句なしの美少女なんだけど素っ気ないというか、いつもどことなく不機嫌そうで淡々としている。それが天道さんだ
けど、僕は一度だけ天道さんが笑ったところを見たことがある。
「ははーん、さてはその笑顔にノックアウトされたって感じだな」
「…………まあ、うん」
正確にはもうちょっといろいろあるんだけど、そこはあまりにも天道さんのイメージと合わないので秘密にしておく。
そのあとも軽く茶化されはしたけど学生の本分は勉強だ。すぐに話は勉強に関することに変わった。
教えてほしいと頼まれたので、二人がテストで間違えた箇所を簡単に説明していく。
「お前、ほんと頭いいよな。普段どれくらい勉強してるんだ?」
「あ、それ私も気になってた。教えてくれるのもわかりやすいし。塾とか通ってるの?」
「いや、塾は行ってないよ。勉強は授業と、家で長くても一時間くらい」
「マジで!? それであの成績!?」
「へー。家にいるときはずっと勉強してるタイプだと思ってた」
「あー無理無理。そういう詰め込み教育みたいなの、あんまり集中力がもたないから」
「けどそれであの成績なら、何か特別な勉強法とか秘訣とかあるの?」
「…………なくもないけど」
言ってから『しまった』と思った。普段なら適当にごまかすのに、ちやほやされてうっかり口を滑らせた。
「なに!? あるのか!? どんなやつどんなやつ?」
「私にも教えて遠野くん! 私けっこう成績ピンチなの!」
「だ、だめ! 企業秘密!」
「そこをなんとか!」
「今度何かおごるから!」
「だめ! どうしてもだめ!」
「ちぇー、けちー……ん?」
「ん? どうかし……っ?」
二人につられて前を見る――と、天道さんがこちらを見ていた。
しかも……なんか怒ってるというか、恨めしそうな顔で。
二人が声を抑えてひそひそ話になる。
「遠野お前、天道さんに何かした?」
「い、いや。ちょっとうるさくし過ぎたかな?」
「け、けど騒いでるのは他にもいるし、しかもあれ、明らかに遠野くんを睨んでるよね?」
「ぼ、僕みたいな小市民にテストの点数負けてるのが屈辱だとか?」
「流石にそれは卑屈すぎるだろ……ってこっち来たぞ!?」
その言葉通り天道さんは立ち上がりこちらに近づいてきていた。……しかも明らかに不機嫌そうな表情。
両隣の二人も静観を決め込んだのか、一瞬で赤の他人モードになる。けれどそれを薄情だとは責められない。
天道さんには、いくつか恐ろしい噂がある。
生意気だと難癖つけた上級生グループが翌日には学校から消えていたとか、彼女を強引にナンパしようとした不良達が物陰から現れた黒服に連れて行かれたとか。
普通なら笑い話だけど、なんせ相手は世界有数の大企業のお嬢さまだ。本当にそういうことがあっても不思議ではない。
「お話、いいですか?」
「は、はい! どうぞご自由に!」
天道さんに話しかけられ、つい変な言葉遣いになってしまった。天道さん、見た目はすごくかわいいのに怖い。
「今回も素晴らしい成績だったようですね。流石です」
「あ、ああ。ありがとう……」
「それで、先程あまり勉強していないのにその成績と聞こえたのですが、本当ですか?」
「ま、まあ」
本当はガリ勉とごまかしてもよかったのだけど、嘘だとばれた時が怖いので正直に言っておく。
けど、正直にそう言うと天道さんの目がますます鋭くなった。
「……詳しい勉強スケジュール等、教えていただけませんか?」
「え、なんで……」
「いいから教えてください」
「は、はい!」
命令通り、自分の勉強スケジュールを教えると、天道さんは驚いたように目を丸くした。
「……それは嘘偽りなく本当のことですか?」
「は、はい。その通り……です」
「それで先程、何やら特別な勉強法や秘訣があるとおっしゃっていたようですが?」
「い、いや! そんな大層なものじゃなくて……!」
「謙遜しないでください。遠野くんは学年一位の秀才なんですから、秘訣があるというのならぜひご教授願いたいです」
「い、いや本当にたいしたものじゃないから!」
「もちろんただでとは言いません。お礼はきっちり用意させていただきます」
「そ、そういう問題じゃなくて……」
その時つい、僕は極秘ノートが入った学生鞄に視線をやってしまった。天道さんはそれを見逃さなかった。
「そのカバンに、何か?」
天道さんはおもむろに学生鞄に手を伸ばす。
「あ……わああああああ!?」
僕はあわてて鞄をひっつかんだ。
けれどそれで天道さんが僕を見つめる目がますます鋭くなる。
「そのカバン……何か秘密があるようですね」
「い、いやこれは本当にそんなたいしたものじゃなくて!」
「ではどうしてそうも頑なに守っているのですか?」
「そ、それは…………ご、ごめん! 僕ちょっとこの後用事があるから!」
僕は大きな声でそう言うと一目散に教室から逃げ出した。
「あの勉強時間でその成績だなんて……ずるいです」
教室を出る直前、後ろでそんな声が聞こえた気がした。
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