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06 天道さんはエロゲーがしたい 3
しおりを挟むひとまず新しいデータを作ってプレイを開始する。
――『ブレイブファンタジア』は男の娘な主人公、勇が異世界に召喚されて魔王討伐を目指すというわりとテンプレな設定だ。
ただしその世界では男というものがすでに滅びていて、主人公は男だということを隠しながら冒険することになる。
唯一各ルートのヒロインだけが主人公が男だと知ることになり、二人で秘密を共有しつつ先に進んでいくって感じだ。
「ちなみにシロちゃんってどの辺りから出てくるんです?」
「けっこう早くから出てくるよ。主人公の勇が世界を救うのを引き受けて、装備とかを調えるために街に行くんだけど奴隷商のところに迷い込んでね。そこで出会うんだ」
「あの……シロちゃんって奴隷なんですか? もしかして無理矢理えっちなことされたり……」
「いや、このゲームは基本的に純愛いちゃらぶ系だからそういうのはないよ。主人公はシロのことを妹みたいにかわいがって、最初はツンツンしてたシロも徐々に心を開いていくんだ。それでシロの方から一緒にお風呂入ったり寝たりしようとしてくるようになるんだけど、そこで主人公の勇が男っていうのがバレて……」
「……ごくり」
「…………ここからは自分の目で確かめてね」
「え~、ひどいですよう気になるところで……ってきゃああ!? 出ました! 出ましたよシロちゃん!」
さっそくシロが登場して天道さんは大はしゃぎだ。ゆるみきった笑顔がかわいい。
画面の中では買われたばかりのシロが警戒心マックスな表情で勇を見上げている。
『ふん! シロは奴隷ですから、どうぞ煮るなり焼くなりご自由になさってください』
「ああ……大丈夫ですよーシロちゃん。ひどいことなんてしませんから! むしろ膝に乗っけて一日中かわいがってあげたいとこですから!」
画面に向かって話しかけている天道さんに苦笑いしつつ、僕も画面の中のシロに目を細める。
最近のやつは立ち絵も動くんだけど、このゲームは細かい仕草まで作り込んであってまるで生きているみたいだ。特にシロはしっぽのもふもふ感が素晴らしい。
やるのは久しぶりだけど、後のデレデレっぷりを知っている分初期のツンツン具合も新鮮に感じる。
そして何より――。
「うふふ、まずはきれいなお洋服を買ってあげますからねー♪」
こうして天道さんがプレイしているのを見るのは、なんだか天道さんがペットをかわいがっているのを眺めてるみたいでつい微笑ましく思ってしまう。
――などと和んでしまっていたのだが、これはエロゲーだ。本来は十八歳未満が買ったらだめなやつだ。
物語が後半になるともちろんそういうシーンがあるし、それ以前にもそれなりにサービスシーンがあったりなかったりする。
『お背中流しますよご主人様。……美味しいものを食べさせていただいたお礼であり、今後もお願いしますという打算ですので大人しく受け取ってください』
主人公とシロの初めてのお風呂のシーンだ。
……まあ、その、なんだ。お風呂である。お風呂というのは当然裸で入るもので……つまりはそういうことだ。
(き……気まずい……!)
天道さんは女子だし、こういうお色気シーンに嫌悪感を示すんじゃないだろうか? そんなことを考えつつこっそりと隣に座っている天道さんの様子をうかがう。
だが意外にも天道さんはそういう様子はなかった。
むしろうっとりしたような、それでいてどこか熱っぽい視線で主人公の背中を流すシロを食い入るように見つめている。
「シロちゃん……はぁ、はぁ……すごくきれいな肌……かわいいです……」
「て、天道さん?」
「……はっ!? ど、どうしましたか遠野くん!?」
僕が声をかけると天道さんはすぐに元に戻った。
「い、いや。天道さんって女子だし、こういうの嫌がるんじゃないかなーと思ってたんだけど、ずいぶん食い入るように見てたから……」
「そ、そりゃあそうですよ! 一生懸命ご奉仕するシロちゃんかわいいですからね。ほ、ほらあれですよ。自分の娘が運動会で頑張ってるのを見守るとか、そういう感じのあれです。決してえっちな目で見てたわけじゃありませんから!」
「な、なるほど」
確かに、シロは庇護欲を駆り立てるような感じのかわいさだ。天道さんが感じていたのもきっと母性のようなものなのだろう。
なんとなくいやらしい感じがしたのは自分の心にやましい部分があったからに違いない。うんそういうことにしておこう。
そのままゲームを進めると、いつの間にか数時間が経っていた。
『ご主人様……その……今晩は冷えますし、よかったら、一緒に寝たい、なと……』
ゲームもそれなりに進行し、主人公とシロはいくつもの苦難を乗り越えて仲良くなってきた。
で、今は主人公に対して初めてシロが甘えてくるところだ。
これまで心を閉ざしていたシロがついに心を開いてくれた非常にエモいシーン。天道さんは祈るように両手を組み合わせて主人公に甘えるシロを見守っている。
「先に言っておくと……ここからのシロは、ヤバいよ?」
「や、やばいとはどういう風に!?」
「なんというか、お砂糖ドッバドバな感じで」
「それは……楽しみです……! すっごく……!」
なんかもう天道さんは鼻血でも吹き出しそうな勢いだ。胸に手を当てスーハーと深呼吸。次のチャプターに進もうとした……その時だった。
「一真~、入るわよー?」
部屋の外から母さんの声がした。返事をする前にガチャリとノブが回されドアが開く。
僕はほぼ条件反射的にゲーム画面を閉じた。天道さんが「ああっ!?」と悲痛な声を上げたがそんなのには構っていられない。
「母さん! 勝手に入ってくるなっていつも言ってるでしょ!?」
「はいはいごめんなさい。……あ、もしかしていちゃいちゃしてるまっ最中だった?」
「だから違うから! ……それで、用件は?」
「いやね、もう遅くなってきたし、天道さんそろそろ帰らなくてもいいのかなって」
――確かに。ついゲームに熱中して時間を忘れていたがもういい時間だ。
一応天道さんは家には友達の家で勉強していると言っているようだがあまり遅くなるのもよくないだろう。
「確かにそうか。天道さん、今日はこの辺で……」
「いやです!」
天道さんは悲壮な声を上げた。
僕も母さんもびっくりして目を丸くする。
「ここまであんなに苦労して……ようやく仲良くなって、これからって時なのに……すっごくいい雰囲気だったのに……これでおしまいなんて耐えられません!」
「ちょ……天道さん?」
「というわけで一晩泊めてください! (シロちゃんと)もっと一緒にいたいんです!」
「天道さんマジでなに言ってんの!?」
母さんは「あらあら」と言いつつとても楽しそうにニヤニヤしている。
「一真、一つだけ言っておくわ」
「な、なに?」
「避妊はしっかりしなきゃ駄目よ?」
吹き出した。
「違うから! 誤解だから! あーもうっ! 天道さんとりあえず今日のところは帰って!」
「だ、だけど……」
「て……天道さんさえ良ければ明日も来ていいから」
「本当ですか!?」
天道さんはパアァと表情を明るくした。
「そうですね。一気に進めてしまうのももったいないかもしれませんし、今日のところはおいとまさせてもらいますね。ええ、明日も来ていいっていうお許しももらえましたし。空腹は最高のスパイスって言葉もありますし、会えない時間が育むものもあるでしょう!」
楽しそうにはしゃいでいた天道さん。……だが、その表情に一瞬暗い影が差した。
「あまり長居すると、お母様に叱られますしね」
「?」
だがすぐに天道さんは元の笑顔に戻って、両手で僕の手を取った。
「とにかく! 今日はとっても楽しかったです遠野くん! こんなに楽しかったのは久しぶりで……本当に、本当にありがとうございました!」
†
そうして天道さんは帰ることになったのだが……『女の子をこんな時間に一人で帰らせるとかあり得ない』『送っていかなかったら晩ご飯抜きね』と二葉と母さんに言われ、途中まで送っていくことになった。
夜道を二人で並んで歩いて行く。
「ふふ、おばさまも妹さんも、とっても楽しい人ですね」
「ちょっと騒がしすぎだと思うけどね……」
「でも、私の家とはまったく違うんで……ちょっと羨ましいです。私がお母様とああいう風に接することって……ないですから」
天道さんはほんのちょっぴり切なそうな顔をした。
家族とうまくいっていないのだろうか? そんな風な察しはついたけど、人の家の家庭事情だ。ほとんど今日初めて話した相手にそこまで踏み込んだ話をするほど、僕は図々しくはなれなかった。
「にしても、天道さんって意外と話しやすいんだね。今までは正直近寄りがたいというか……もっと気難しいタイプだと思ってた」
「ああ……その、普段は勉強とかのストレスでイライラしてましたので……つい素っ気なくなってしまって、すいません」
天道さんだって自分と同じ歳なんだし、そういうのもあって当たり前と言えば当たり前なのだけど、その言葉はちょっと意外だった。
「天道さんもそういうのあるんだ」
「そりゃありますよ。というかたぶん私、遠野くんが思うほど優等生じゃないですよ? 勉強だって正直大嫌いですけど、お母様に言われて無理矢理詰め込んでる感じで。……だから、そんなに勉強せずに成績トップにいるっていう遠野くんが羨ましかったんです」
学校でこっちを睨んで来てたのはそれが原因か。
天道さんは深くため息をついた。
「うちのお母様、勉強とか習い事とか口うるさくて。今日遠野くんの家に行ったのも『学年一の秀才に勉強の秘訣を教えてもらう』って言って来たんですから」
「う……」
そういえば最初、天道さんは僕の勉強の秘訣を知ろうとしてついてきたんだった。
僕の表情が強ばったのを見ると、天道さんはくすりと笑った。
「大丈夫ですよ。正直勉強の秘訣っていうのは気になりますけど、話したくないというのなら無理に聞き出そうとは思いませんから」
「そ、そう? よかった……」
「その代わりというわけではないですが、また明日もよろしくお願いしますね。楽しみにしてます」
そうして話しているといつの間にか高級住宅地まで来ていた。天道さんの家はこの近くなのだという
「それでは、私はここで。ごきげんようです。また明日」
「うん。また明日」
お互いに手を振って別れる。
――そうして別れるのを、ほんの少し名残惜しく思った。
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