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07 天道さんはわりとポンコツ 1
しおりを挟む「おはよう……」
「おはよーお兄ちゃん。……眠そうだね?」
「あらあらうふふ、興奮して眠れなかったのかしら~?」
「…………」
母さんと二葉がニヤニヤしているけど、図星なので反論できない。
天道さんの残り香みたいなのが残ってるのと、学校屈指の美少女がうちにエロゲーしに来るっていう『それこそどこのエロゲだよ』っていうシチュエーションにドキドキして寝付けなかったのだ。
朝食のトーストをかじりながらそのことに思いをはせる。
あらためて考えるとすごい状況だ。
何より天道さんがうちまでやりに来ているのは『エロゲー』なのだ。
当然このまま進めばそういうシーンもある。というか後半はわりとてんこ盛りである。
(一緒にやってる内にもしかしたら、そういう雰囲気になることも……)
僕とて健全な男子高校生である。やっぱり多少はそういう期待もしてしまう。
「一真」
「ん? な、なに母さん?」
「避妊具は薬箱の中に入れといたから、ちゃんと使うのよ?」
「ブフッ!?」
飲んでいたコーヒーを吹き出した。
そんなこんなで朝食を終えて登校の準備を終えた頃だった。
ピンポーン、と。呼び鈴を鳴らす音が聞こえた。
まだ朝早いのに誰だろうと、二階にある自分の部屋から外を見下ろす――と。
天道さんがいた。
僕に気づくと嬉しそうにひらひらと手を振ってくる。その姿に頬が熱くなるのを感じた。
「凄いじゃない一真! かわいい彼女と一緒に登校とか男子高校生の夢ってやつでしょ!?」
「あのお兄ちゃんもついにリア充の仲間入りか~。うらやましいな~このこの~」
「だ、だから違うから! 天道さんとはそういうのじゃないから!」
母さんと二葉に茶化されながら慌てて家を出た。
「おはようございます遠野くん」
僕が玄関から出ると天道さんがそう言って笑いかけてくる。
「――っ!」
「……遠野くん?」
「あ……お、おはよう天道さん! けどどうしてここに? 家の方向全然違うよね?」
「えと、少しでもたくさん遠野くんと昨日やったゲームのこと、いろいろお話したくて……」
天道さんはそう言って照れくさそうに笑う。
学校一の美少女と名高い天道さんが、わざわざ僕の家まで、僕と一緒に登校したくて迎えに来てくれている。
……母さんはああ言ってたけど……確かにこれは男子高校生の夢だ。不覚にも心臓が高鳴ってしまう。
とりあえずそのまま、天道さんと学校へと向かう。
「昨日はほんと楽しかったです! シロちゃんがかわいくてかわいくてもう……基本的にクールなんですけど嬉しいことがあるとつい子供っぽいところを出しちゃうとことかいいですよねー」
「うん。本人的にはポーカーフェイスを保ってるんだけど、尻尾の動きで内心喜んでるのバレバレなのとかもいいよね」
「わかります! 何でもそつなくこなすのにちょっと抜けてたり年相応な部分があったりするのがもう……! あのふわふわな尻尾に顔を埋めて思い切りもふもふしたいです……」
「あ、そういえば天道さん。こんなの探して見たんだけどどうかな?」
「? なんですか遠野く……ちょっ!? これ!?」
「ネットでシロを描いてる絵師さんとか探してみたんだ。天道さんと話してるうちにシロのどういうとこが好きかもなんとなくわかってきたんで、天道さんに刺さりそうな絵師さんを何人かピックアップしてみたんだけど……どう?」
「すごいですありがとうございますちょっと待ってくださいね目に焼き付けますんで! ……はふぅ……シロちゃんがこんなにいっぱい……幸せです……」
天道さんは頬に手を当て悩ましげにため息をつく。
「天道さんって、今までこういうのにまったく触れたことなかったの?」
「まあ……そうなります。スマホやパソコンはそういうのにアクセスできないようにされてますし買ったものなんかもチェックされてるので」
「……やっぱり家、厳しいんだね」
「はい……。だ、だけど別に不満とかはないんですよ? お母様は厳しいですけど全部私のためにやってくれてることだってわかってますから。……ただ……」
天道さんの表情が少し暗くなった気がした。
「天道さん……?」
「あ、いえ、何でもないです」
「……相談したいこととかあったら言ってね。僕で良ければ……ん?」
「? どうかしました遠野くん?」
周囲の空気が変わった。
というか、なんか周りからものすごく視線を感じる。
――と、ここで僕は自分が天道さんとの会話に気を取られて重大な過ちを犯したことに気がついた。
もう学校の近くまで来ていて、周りには登校中の生徒の姿が溢れている。
――天道さんは学校でも有名な美少女でお嬢さまだ。一般生徒にとってはまさに高嶺の花。
おまけに今まで誰かと……ましてや異性と親しげに登校したりすることなどなかった。
「あれって天道さんだよね……?」
「隣の男子だれ?」
「なんか仲よさそうだけど、まさか彼氏!?」
「いや、まさかー。あんな地味な……」
「待て、俺あいつ知ってる。確か……名前忘れたけど勉強めちゃくちゃできるやつだ」
「勉強つながりでもしかしたら……?」
周りからひそひそと声が聞こえてくる。
「まずい……」
「どうしました?」
「やっちゃったかも……」
教室に入ると……すでに噂が広まってしまっていたらしい、他の生徒達の視線が一斉にこちらに向いた。というか他のクラスからまで見に来てる。
「うう……」
正直に言って僕は陰キャの部類だ。ここまで注目を浴びることに慣れていない。
「別にやましいことをしてるわけじゃないんですから、堂々としていればいいんですよ」
「……二人でエロゲーしてるのは十分やましいことだと思うけどね」
「そ、それは言いっこなしで」
お互いそれぞれの席に着く。
「天道さんがあんな顔してるの初めて見た……」
「なあなあ、お前らって付き合ってるのか?」
両隣の席の二人――黒木くんと白井さんがそんなことを言って来た。
「ち、違うから! 天道さんはただの友達で……」
「というか俺、昨日けっこう遅い時間にお前が天道さんと歩いてるの見たぞ?」
血の気が引いた。しまった、昨日駅まで送ったの見られてた!?
「あ、あれはうちに勉強しに来て遅くなったから送っていってただけだから!」
「ちょっと待てお前天道さんが家まで来るレベルで仲いいの!?」
「あっ」
――完全に墓穴を掘った。
一緒に歩いていただけならいくらでも言い訳できたのに自分から天道さんが家まで来ていたってばらしてしまった。
「ほ、ほら天道さんってストイックだしもっと成績を上げたくて一緒に勉強しようってなって……」
流石に『一緒にエロゲーしていた』とは言えないのでそう説明する。
しかし僕の慌てっぷりがまずかったのか、二人はますます僕への疑念を強めたようだ。
しかも話に興味を持ったらしい周りの人まで集まってきている。
「えー? だけどそれだったら図書館とかでしない? それをわざわざ家で二人きりで?」
「いったい二人で何の勉強してたのかなー?」
「い、家にあるノートとかが必要だっただけだから! 別にいかがわしいこととかしてないから!」
「えー? 誰もいかがわしいことなんて言ってないけどなー?」
まずい。こういう状況になれてないのもあってしゃべればしゃべるほど墓穴を掘っていってる気がする。……その時だ。
「皆さん、遠野くんにご迷惑ですよ?」
天道さんの静かな、それでいて凜とした声が響いた。
あれだけ騒がしかったのが一瞬で静かになる。まるでモーセの海割りのように人垣が割れた。
天道さんは周りの視線が集中してもどこふく風といったすました顔で、僕の席の前までくる。
「昨日、確かに私は遠野くんの家にお邪魔しました。だけどそれはあくまでも勉強のためのもの。学生の本分は勉強です。決して皆さんの考えているような浮ついたものではありません」
これがカリスマ性というやつか、その言葉には反論や疑念を差し挟むすきみたいなものが微塵もない。僕があたふたしながらした言い訳とは説得力が段違いだ。
だけど――
「あ、じゃ、じゃあ私も天道さんと一緒に勉強したいな」
「お、俺も! 学生の本分だしな」
「え?」
その反応は予想外だったらしい、天道さんは目をぱちくりさせた。
……天道さんは普段一人でいることが多いけど、それは天道さんが高嶺の花過ぎて近づきがたいというだけだ。
実際のところ天道さんは美少女だし、それに冗談みたいなお金持ちだ。お近づきになりたい人達がこの機会にと声を上げる。
「よしじゃあみんなで……」
「そ、そんなのダメです!」
反射的に天道さんは叫んでいた。
すぐにハッとして自分で口を塞ぐが……もう遅い。今度は周りの人たちは目をぱちくりさせて天道さんを見ている。
天道さんも先程の自分の失態に動揺したのか、いつもの凜とした雰囲気がなくなって微妙にオロオロしていた。
「ち、ちが……あの、二人きりじゃないとダメで……今日の放課後も楽しみにしてて……だから……。と、とにかく! 他の人は来ちゃダメです!」
おそらく普段冷静さを失ってテンパるということがなかったのだろう。あたふたした状態から立て直すのが絶望的に下手だ。
いや、うんわかる。他の人なんて来られたらエロゲーするどころではなくなる。
けれど今の天道さんの姿は、例えるなら『好きな人との二人きりの時間を邪魔されたくない恋する乙女』にしか見えなくて……。
「わ、私お手洗い行ってます!」
「ちょっ!? 天道さん逃げないで!?」
そうして天道さんは行ってしまった。
そうすると残された皆の興味と……あと密かに天道さんに憧れていた人たちの嫉妬が当然僕に集中するわけで……。
「遠野てめええええ!?」
「これは許されないね」
「ちょっと詳しい話を聞かせてもらおうか」
「え? ちょっ!? うわあああああ!?」
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