8 / 22
08 天道さんはわりとポンコツ 2
しおりを挟むどうにか学校が終わった。帰り道を天道さんと肩を並べて歩く。
「すいませんご迷惑おかけして……」
「い、いや、いいよ気にしてないから」
実際やっかみだったり質問攻めだったりプロレス技かけられたりいろいろ大変だったけど、こうやって天道さんと一緒に帰れることと比べればちょっとしたことだ。
「それで、あの、遠野くん?」
「ん?」
「私のこと、お友達だって言ってましたよね?」
そういえば天道さんとの関係をごまかすためにそういうことを言った。
「ご、ごめん勝手に。もしかして嫌だった?」
「いえそうじゃなくて! ……私、こういう普通のお友達って初めてなので……」
「そうなの?」
「はい……。昨日も言いましたけど勉強とかのストレスでついイライラしちゃってましたし、お母様にも交友を持つ相手は厳選しろって命令されてて……なかなか……。だけど遠野くんがお友達になってくれたの、すごく嬉しいです! ありがとうございます!」
天道さんは柔らかく笑う。――これまで学校では見せてくれなかった表情を僕に向けてくれている。そう思うとやっぱり胸がドキドキしてしまう。
「と、ところでちゃんと誤解とかなくて良かったの? その、僕と恋人だと勘違いされてそうだけど……」
「私は問題ありませんよ『頂点に立つものにそういう噂話はつきものだ』ってお母様も言ってましたから。むしろそうやって勘違いされてる方が気兼ねなく一緒に帰ったりできますし」
天道さんは堂々としている。こういうところはやっぱりお嬢さまなんだなって感じがする。
「私よりも、遠野くんこそ良かったんですか? 遠野くんって同性愛の方なのに」
「その勘違いまだ続いてたの!?」
その後、数日が経った。
天道さんは毎日僕の家に通い詰めていて、今日もゲームしに来ている。
『あの、ご主人様? シロは今回頑張ったのでご褒美をもらえたら、嬉しいなと。……その、ギューッてして……欲しいです』
ゲームのシロもすっかり主人公にデレておりかわいい限りだ。天道さんもうっとりした顔でゲーム画面を見つめている。
「うふふ、シロちゃんもすっかりご主人様のこと大好きになっちゃいましたね~♪」
「そ、そうだね……」
だが、僕はそれどころではなかった。
「……どうかしたんですか遠野くん? さっきからずっと表情が強ばってますよ?」
「あ、いや、うん。何でもないから先に進めて?」
「はあ」
――もうすぐ、ベッドシーンがあるのだ
それまでラッキースケベ的なのはあったががっつりしたベッドシーンは初。しかも内容がちょっとあれというか……。
ざっくり言うと、性的な意味で手を出そうとしない主人公の勇にシロが強力な媚薬を盛る。
それでもなお我慢しようとする勇に業を煮やしてシロが自分も媚薬を飲む。
で、そんな感じでムフフな展開に突入するのだけどまあ、そういう感じなんで初めてのベッドシーンにしてはちょっと激しめというかなんというか。
ゲームを進める内に天道さんもなんとなくそういうシーンが近いことを察したようだ。表情に緊張が入る。
「え、えーっと……僕、ちょっと席外してようか?」
「い、いえ。一応私たち二人で勉強してるってことになってますし。そ、それにここまで来たら遠野くんにも一緒に見てて欲しいというか、友達として楽しいことは共有したいと言いますか……」
「い、いや流石にエッチなのまで共有するのはなかなかないと思うけど……」
「そ、そうかもしれませんけど……そ、その、私、こういうの初めてで……だから今めちゃくちゃ緊張してて……心細いので一緒にいてほしいなと……」
天道さんはそう言って僕の手を握った。
心臓がドキンと跳ねる。男として、こうして好きな女の子に頼られるというのはやっぱり嬉しい。
……エッチなのを一人で見るのは緊張するから一緒にいて欲しいってちょっとアレな気もするけど。
「な、なんだったらエッチなシーンが終わるまでスキップするっていう手もあるけど……」
「何言ってるんですか正気ですかシロちゃんと勇くんが初めて結ばれる大切なシーンなんですよ!? シロちゃんを愛する者として余すことなく最後まで見届けるに決まってるじゃないですか!」
わりと本気で怒られて、思わず苦笑いしてしまった。
そして……いよいよその時が来た。
『ご主人様……いいん、ですよ……? 我慢しないで……』
『シロは……シロの全てをご主人様に捧げたいんです! だから……』
『おねがいしますご主人様……シロに、お情けをください……』
――正直、今すぐ逃げ出したい。
だけど隣の天道さんがガッチガチに緊張してるのが伝わってくるんで流石に一人残して逃げるのは気が引ける。
『ご主人様……んっ……』
シロが勇と初めてのキスをしたタイミングで天道さんの肩が跳ねた。めっちゃきょどってる。……こんな調子で大丈夫なんだろうか?
――そして、……始まった。
『ご主人様……! 尻尾……しっぽだめぇっ!』
『もう、大丈夫ですよ……? ご主人様……きて、ください……』
『ん……ああ……! ご主人さまが……入って……!』
『あんっ! あんっ! ご主人様……もっと! もっとぉ……!』
――何この拷問!?
これ、想像以上に気まずい。恥ずかしい。逃げたい。顔をおおって転げ回りたい。
それに僕だって男だ。こんなものを見ていたらいろいろとヤバいことになりかねない。主に下半身が。
オーケーオーケー。わかった。もう何も考えるな。石になれ、石になるんだ僕。
そうして意識を遠くへ飛ばそうとしていた……その時だ。
「はぁ……はぁ……シロ、ちゃん……」
天道さんから熱に浮かされたような声が聞こえた。
ちらりとそちらを見てみると……天道さんはまるで酔っ払ったような表情をしていた。
「て、天道さん? 大丈夫?」
「…………」
天道さんの反応はない。画面の方に集中しすぎて僕が声をかけたことすら気づいていないようだ。
天道さんはギュッと自分を抱きしめるように自分の肩を抱いた。その腕に押しつけられて胸の形がふにゅりと変わる。
悪いとは思ったけど、つい視線がそこに釘付けになってしまった。
画面の中での主人公とシロのあんなことやこんなことが進行するほどに、天道さんの呼吸もどんどん荒くなっていく。
いつしか僕は、画面の方は気にならなくなっていた。
天道さんは熱っぽい、それでいて切なげな表情で画面を見つめている。その表情があまりにも……その……エロくて、視線をそらすことができない。
天道さんが自分の肩を抱いていた腕をほどいた。
右手がスカートから出た膝小僧に触れる。
その指先がどこか艶めかしく肌を撫でた。
天道さんはぼんやりとした、まるで催眠術にでもかかったような顔で画面を見つめている。
そして指先が内股を撫でながら、徐々に女の子の一番大事な場所の方へ――。
「待ってストップストップストップストップ!? 天道さん何しようとしてるの!?」
「……はっ!? わ、私何しようとしてました!?」
「……な、何しようとしてたというか……ナニかしそうだったというか……」
「きゃああああ!? お願いします忘れてください見なかったことにしてください後生ですからああああ!」
ゲームの方も一時中断。天道さんは顔を真っ赤にして涙目になっている。
そんな天道さんをなだめて、少し落ち着いたところで天道さんはおずおずと切り出してきた。
「あの……遠野くん、私たちって友達ですよね?」
「う、うん」
「それで……何かあったら相談に乗るとも言ってくれましたよね?」
「うん、言った」
「じゃ、じゃあ、あの……相談、したいことがあります……」
「……わかった」
なんだかドタバタしてしまったがこれは……真剣な相談みたいだ。
家族とあまりうまくいっていないようだし、先程の奇行もストレスから来るものなのかもしれない。
親からの束縛がキツいみたいだしそれ関係だろうか?
何にせよ、力になれるのならなりたい。
「その……私、先日……生まれて初めて……っ……うう……すいません……」
天道さんは言いづらそうに言葉を詰まらせる。
「天道さん、ゆっくりでいいから」
「はい……その、昨日、初めて……」
天道さんは一度大きく息を吸い込んだ。
「昨日初めて! オナニー……しちゃったんです!」
吹き出した。
「そ、そういうのは悪いことだと思ってて今までしたことなかったんです! ただ、家でシロちゃんのこと考えてると……シロちゃんがもうすぐエッチなことしちゃうんだって思うと……頭がぼーっとして……いつの間にか……」
天道さんは恥ずかしそうに顔を伏せる。
いや、女子でもそういうことをするというのは知識としては知っていた。
ただ、あの天道さんがそういうことをしていたのだと思うと……しかもそれをこんな恥ずかしそうに告白されると……なんかもう、破壊力が、うん。
「だ、だけどそういうのって他の人もやってるんですよね!? 別に私、おかしくないですよね!?」
「ま、まあ……おかしくは……ないんじゃない、かな?」
思わず顔が引きつってしまうが天道さんは真剣に悩んでいるようなのでそう答える。
けれど僕の返答に安心したのか、天道さんはホッと胸をなで下ろした。、
「そうですよねおかしいことじゃないですよね? 初めてで三回もしちゃいましたけどそれくらい普通ですよね?」
「ま、待って天道さん……そういうことをするのはおかしくないけどそういう話をするのはおかしいから……」
僕が耐えきれなくなってそう言うと天道さんは目をぱちくりさせた。
「え? だ、だけどこの間、他の女子の方々がひそひそこういう話してるの聞いたことありますよ? お友達ってそういう話もするんじゃないんですか?」
「女子ってそんな話するの!?」
ガールズトークでの下ネタはヤバいと、何かで聞いたことがあるけどマジなのか。
「いや、同性ならそういう話をすることもあるのかもしれないけど、いくら親しくても異性の友達でそういうのはちょっと……」
「そ、そうなんですか!?」
「うん……」
「あ……う……あううう……。ち、違うんです……。わ、私普通のお友達って初めてだから、他の人はどんなこと話してるんだろうって、近くの席の方の会話を聞いて参考にと……あうう……」
天道さんは顔をおおってしまった。
そういえば天道さんの隣の席はいわゆるギャルっぽい女子が座っていた。たぶんその会話を一般的な友達同士の会話だと鵜呑みにしてしまったんだろう。
「あ、あの、どうか諸々のことは全部忘れてください……」
「う、うん」
たぶん一生忘れられないと思うけどとりあえずうなずいておく。
「天道さんってさ」
「はい?」
「対人スキルに関してはけっこうポンコツだよね」
「えっ」
自覚がなかったのか、天道さんは『ガーン』と効果音が鳴りそうな顔をした。
そして不満そうにほっぺたを膨らませる。
「だって仕方ないじゃないですか! 私これまでまともに友達いたことなかったんですから!」
「いや別に馬鹿にしてるわけじゃないよ。むしろそういう隙だらけなところが親しみやすいというか、かわいいと思うし」
「……えっ!? か、かわいい……です?」
「……あっ!? いや、ごめん、えっと今のも聞かなかったことに」
「は、はい」
たぶん『かわいい』と同年代の男子に面と向かって言われることなんてあまりなかったんだろう。天道さんは少しわたわたしている。
照れくさくなってしまって会話が途切れる。
だけどそれは気まずい感じじゃなくて……ちょっと甘酸っぱい感じがして、なんだか不思議と心地良い。
本当に、以前と比べると天道さんのイメージはがらりと変わってしまった。
隙だらけで、わりとポンコツで、時々ちょっと暴走気味で。
だけどそれで幻滅したりはしない。むしろ以前よりも魅力的に見える。
そして、そんな姿を僕だけが知っているというのが、天道さんを独占しているみたいで嬉しかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる