憧れのお嬢さまがうちにエロゲーしに来てますが、あくまで僕らは友達です

子狐モフる

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09 天道さんのしたいこと 1

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 さらにそれから少し時間が経った。
 今日は休日で、天道さんは朝からうちに来ていた。

「いらっしゃいことみちゃん」
「おじゃましますおばさま。朝からでご迷惑ではありませんか?」
「大丈夫よー。うちの一真を末永くよろしくね」
「はい。あ、おじゃましてます二葉ちゃん」
「おはよー天道さん」

 うちの家族と天道さんもすっかり馴染んだ。

「ふふ、朝からラブラブだねー♪」
「これは孫の顔が見られる日も近いのかしら~♪」

 ……母さんと二葉は天道さんが僕の恋人だと勘違いしているのが問題だけど。というか天道さんももっとはっきり否定してくれればいいのに……。

 何はともあれいつものようにゲームを起動。
 物語も佳境に差し掛かっており、ラスボスとの戦いの目前まで来ていた。

 普通ならものすごく盛り上がるところだし、昨日は天道さんもテンション上がりまくっていたのだけど、今朝の天道さんはちょっとテンションが落ちていた。

「どうかしたの天道さん?」
「あ、いえ、もうすぐこの冒険も終わっちゃうんだなーって思うと少し寂しくて」

 確かに、これはゲーマーなら誰もが感じる寂しさだろう。
 早くクリアしたいのにいつまでもクリアしたくない矛盾。逆に言えば天道さんもそれだけこのゲームを好きになってくれたということだ。

 そしていよいよラストバトル。

『行きましょうご主人様! シロは……ご主人様と一緒なら何だってできます!』

 画面の中では能力に覚醒したシロが勇の剣に変身し、ラスボスと熱いバトルを繰り広げている。

「きゃー!! シロちゃんシロちゃんシロちゃんシロちゃん頑張ってー!!」

 隣では先程とは打って変わって天道さんも大盛り上がりだ。……正直ちょっとうるさい。
 そしてついにラスボスにとどめの一撃が入った。

 最後のやりとりをしてエピローグ。シロとの幸せな未来を予感させつつ、画面にTHE ENDの文字が浮かび上がる。

「…………」

 天道さんは少し前が嘘のように静かになっていた。

「……あの、ちょっとだけベッド、お借りしてもいいです?」
「え? いいけど……」

 天道さんはふらふらした足取りで僕のベッドまで行くとぼふんと倒れ込んだ。そのままベッドの上に置いていたシロ抱き枕を抱きしめ、顔を埋める。

「わ……ちょ……」

 スカートがめくれ上がってパンツが見えそうだ。だけど天道さんはそれに気づいていないのか、枕に顔を埋めたまま放心しているようだ。

 ただまあ、これも気持ちはわかる。本気ではまっていたゲームをクリアした時は余韻と喪失感でだいたい何も手がつかなくなるものだ。

 そしてこの後はだいたいスマホとかで二次絵とか作風が近い作品を探したりすることになる。

 ――なので僕はこのタイミングで、前もって考えていたことを勧めてみた。

「あのさ天道さん。同人とかの方にも手を出してみない?」

 僕がそう言うと、天道さんは抱き枕から顔を上げる。

「どーじん? ええっと、不勉強で申し訳ないですけど、ファンの人たちが作ってるようなやつですよね?」
「だいたいそんな感じかな? このゲームって公式が二次創作を認めてるっていう珍しいやつでね。二次創作の漫画や小説、ゲームなんかもいっぱいあるんだ」
「……えっと、言い方は悪いかもしれませんけどただのファンの方が作ったやつなんですよね? 面白いんですか? 」
「試しにこれ、読んでみてよ」

 僕は密かに買っていた同人誌……シロが主人公の勇と甘々な新婚生活を送る本を手渡した。
 天道さんはどことなく半信半疑な様子で同人誌をペラリとめくる。

 そう時間を置かず、天道さんの同人誌を見る目が変わっていった。

「こ……これは……」
「どう?」
「す、素晴らしいです! 絵も綺麗だしストーリーもいいし。それに絶妙に見たかった部分が描かれているというか。はうう……勇くんとの赤ちゃん抱えたシロちゃん……尊いです……」

 同人というのは基本的にその作品のファンが自分の理想や妄想をぶつけるものだ。
 その関係で尖った作品が多い分、作者と読者の波長が合ったときの破壊力は計り知れない。

 まあ……逆にこんなの見たくなかった! ってのも往々にあるのでそこは気をつけないとだけど……シロちゃん陵辱ものとかNTRものとか見せたら天道さんが泣き出しそうだ。

「それで、駅の近くにけっこう大きな同人ショップがあるからさ、これからそこに行ってみない?」
「行きましょう! ぜひ行きましょう! わー楽しみです♪」



 そうして、僕たちは同人ショップに来た。
 ブレファンの同人が並んでいるエリアに来ると天道さんは目をキラキラさせていた。

「天道さんってどんなのが見たい?」
「そうですね……じゃあまずは、家で見せて貰ったみたいなのがいいです。シロちゃんのその後を描いたようなやつ。あ、幸せな感じのやつでお願いします」
「オーケー。ならこれと……それにこれなんかかな?」
「わあ、いいですね。この絵、好きな感じです。すごいですね遠野くん、私の好みをばっちり把握してますし選ぶのに迷いがありませんし」
「それほどでもないよ」

 ――昨晩、徹夜して天道さんの趣味に合いそうなやつをネットで探しまくってたのは内緒だ。

「ついでにゲームも見てみようか。同人だとADV以外にもRPGとかSLGとかいろいろあるよ」
「えっと、不勉強ですいません。それなんの略称です?」
「ああごめん。まずADVっていうのは……」

 ――ふと、周りから視線を向けられているのに気がついた。
 羨望と嫉妬の視線。

 そりゃそうだ、なにせ天道さんはめちゃくちゃかわいいのだ。それがこんなエロゲーの二次創作を売ってる場所にいるのだ。

 それにこうして親しげに話しているのだし、天道さんは僕の恋人だと思われているだろう。そう思うとなんだか緊張してきた。

 ――天道さんは僕のこと、どう思っているのだろうか?
 少なくとも親しい友達だと思ってもらえてるとは思う。

 ただ……男として見られてないというか、恋愛対象としては眼中にないというか、なんかそんな感じがする。
 いや、別にいいんだけどね? こうして一緒にいられるだけでも十分楽しいし……。


「せっかくだし何か食べていきませんか?」

 お昼過ぎ、天道さんがそう提案してきた。

「そうしよっか。何か食べたいものとかある?」
「そうですねー……遠野くんあれ!」

 天道さんが指さしたのはメイドカフェだ。

「ん? 天道さんってメイド好きなの?」
「そうじゃなくて! あ、いえ、かわいい服だと思いますしゲームでシロちゃんがメイド服着てた時は萌え倒しましたけどそうじゃなくて! ほらあそこの看板!」

 天道さんに言われた看板を見るとブレファンとのコラボ商品を出しているらしい。
 もちろん看板にはシロの姿も描かれていて、いなり寿司を美味しそうに頬張っている。天道さんは早くもメロメロになっている。

 ……シロのフィギアとかで釣ったら知らない人についていってしまいそうでちょっと心配だ。


 何はともあれ入店した。

「お帰りなさいませご主人様、お嬢さま」

 早速メイドさんに出迎えられた。天道さんはフリフリのメイド服を興味津々といった感じで見ている。

「ゲームで見た時も思いましたけど、やっぱりうちの屋敷のメイドさんとはずいぶんちがいますね」
「リアルなメイドさんいるんだ……」

 家で話しているとあんな感じなので最近忘れがちだったが天道さんは超お嬢さまだった。
 その分いろいろ束縛も多いみたいだけど。

 そのままテーブル席まで案内される。店内はそこそこ賑わっていて、注文は少しだけ待たされるようだ。

「それにしても……ありがとうございます。またこんな素敵なもの、教えていただいて……」

 天道さんは同人ショップで買った戦利品が詰まった袋を大事そうに抱えている。

「いいよ別に。……口実作りみたいなものだし」
「え?」
「あ、いや、何でもない」

 ――今回天道さんを連れ出したのは、天道さんに楽しんでもらうため……ではない。
 もちろんそれもあるけれど、一番の理由はこれからも天道さんとの関係を続けたいからだ。

 ……天道さんが毎日うちに来ているのは、あくまでもゲームをするためだ。

 そして今日、『ブレファン』をクリアしてしまった。まだ後日談の『ブレあふ』もあるけれど、それもいずれクリアしてしまう。……そうなればもう、天道さんはうちに遊びに来てくれなくなるかもしれない。

 だからこれは天道さんのためではなく、もっと打算的な自分のためで、それをこうも純粋に感謝されるのはちょっと……後ろめたい。

 ――だけど、僕がそんなことを考えていた時だった。

「だけど、本当によかったです。……これで、遠野くんの家に遊びに行く口実ができました」

 天道さんはそんなことを呟いた。

「……え!?」
「あ!? き、聞こえちゃいました? その……今はゲームをやるために遠野くんのお家に通ってますけど、クリアしちゃったらどうしようかなって思ってたんです。用もなく押しかけるのって変だし、ご迷惑かなと……だけどまた一緒にゲームしたいって口実ならって……すいません自分のことばっかりで」
「そ、そんなことないよ! ぼ、僕だって……今日天道さんを連れてきたのは、天道さんが遊びに来る口実を作りたかったからなんだし……」
「そ、そうなんですか?」

 どうもお互い似たようなことを考えていたらしい。……正直、めっちゃくちゃ嬉しい。天道さんがそんな風に考えていてくれたなんて。

「じゃあ、あの……これからも、ゲームが終わっちゃった後も、特に用事もなくても、遠野くんのお家に遊びに行っても……いいですか?」
「も、もちろん! その……友達なんだし」

 僕がそう言うと、天道さんは心底嬉しそうに笑ってくれた。

「――はい! えへへ……♪」

 そこで会話が途切れる。
 間をごまかすようにコップの水に口をつけた。……天道さんもまったく同じ行動をしていて、思わず二人して笑ってしまった。

 なんだか気恥ずかしくてそわそわしてしまう。天道さんもどことなく恥ずかしそうにコップの口を付けたところを拭いている。

 会話は途切れたまま。だけど不思議とその時間が心地良い。なんだか今まで以上に天道さんと親しくなれた、そんな気がする。

 ――と。

「お待たせしました。ご注文はお決まりでしょうか?」

 メイドさんが注文を取りに来た。

「あ、はい。私は『シロの錬成パンケーキ』を」
「あ~、僕は……オムライスで……」
「『シロの錬成パンケーキ』と『メイドの愛情たっぷりオムライス』ですね。かしこまりました~」

 メイドさんは甘ったるい声でそう言うと下がっていく。
 なんというか、商品名がものすごく気恥ずかしい。

 ――とはいえ。

「やっぱりメイド服っていいよなぁ……」

 歩くたびにふわふわ揺れるフリル。丈の短いスカートから伸びる柔らかそうな太もも。
 眼福という他ない。実はこういうお店は来るの初めてなんだけど来てよかった。

「……遠野くん。鼻の下伸びてますよ?」
「え!? ご、ごめん」
「……そんなにメイド服っていいもんですかねぇ? 本物を知っているせいかどうにも違和感があるといいますか。あんなフリルいっぱい付いてたら絶対仕事しづらいですし、あんなスカート短かったら見えちゃうじゃないですか」

 ……あれ? 天道さん、さっきまでメイド服に好意的な感じだったのにちょっと辛辣になってる?
「そこはほら……男のロマンというか……」
「どうせ遠野くんもメイドさんにエッチなご奉仕させたいとか思ってるんでしょう?」
「ぶふっ!?」
「遠野くんのエッチ……」

 そう言うと天道さんはぷいっとそっぽを向いてしまった。
 どうしたんだろう? さっきまであんなに機嫌良さそうだったのになんか急に不機嫌になったような……。

「……あ」
 天道さんが不意に声を上げた。
「どうしたの?」
「…………」

 天道さんは答えない。天道さんの視線の先を追ってみる。

「個室貸し出しサービス?」

 メイド喫茶に入りながらもメイドさんと遊ぶのが気恥ずかしいという僕みたいな人もいるのだろう。個室でメイドさんと遊べるサービスもあるらしい。
 それを見て天道さんは何やら考え込んでいる。
「天道さん?」
「…………すいません、ちょっと席を外しますね」
「あ、うん」

 そう言うと天道さんは店の奥へと消えていった。


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